私の特別
シャーペン
彼氏ができた
本。さて、これに出会ったのはいつの日だったか。1年前、違う、十年前?、いやもっと前だ。16年前、私が、女として生まれた時、物心ついて初めての瞬間。その文字と魂が書き込まれた紙を束ねた存在は、私の隣にあった。勿論、赤子だった私には文章どころか文字の1つも理解出来はしなかった。当たり前だ。だって、誰かに文字を教えて貰ったことも無いんだから。そんな状態で、どうして本の素晴らしさやその偉大さに気がつけようか。
しかし、両親から文字を教えられてからは、違った。
あか、あお、きいろ。随分と簡単な色の概念を、私は本から知った。
バラ、チューリップ、ひまわり。美しい花の名前を、私は本から知った。
足し算、引き算、掛け算、割り算。計算と言う概念を、私は本から知った。
人の愛し方、友情の素晴らしさ。人との関わり方を、私は本から知った。
何という事だろうか。私の、日常生活における思考パターンや概念、果ては哲学すらも、本からの知識を元にしているではないか。アンビリーバボー!これは素晴しい。本というツールは、何もかもを教えてくれる。言語、数学、科学、歴史、地理、ありとあらゆる技術に世界の謎まで。そう、この世の人間が知り得る何もかも。
そんな本という存在が間近にあったからか、私はいつの間にか本を読み漁っていた。絵本、小説、図鑑、漫画や雑誌に、果ては聖書や六法全書まで。本と言う本をを手に入れては読み、手に入れては読み、それを繰り返していた。
だがしかし、本棚と言う狭い世界に本を押し込めるには、私の欲望は余りにも大きすぎて、入りきらなかった。両親に壁を全て本棚に改造してもらうという超特大サービスを受けてもなお入りきらなかった。つまり何が言いたいかと言うと、床からどんどん本を重ねていって、天井に到達したらまた同じ様にタワーを形成していくという方法を取らざるを得なかったと言いたいのだ。
だって仕方がないじゃないか!これは全て本が面白過ぎるのが悪い。私の知識欲に答えてくれてしまう、私を甘やかし過ぎな本が悪いのだ。ついでに言うと注意も何もせずただ見守るだけだった両親も悪い。つまり私は悪くない。地震で崩壊したタワーの下敷きになって死にかけたのも、私ではなく耐えられなかった本が悪いのだ。
…あぁ、でも大好きだ。私は本を愛している。あらゆる、事を教えてくれて、私の欲望を満たしてくれる大親友だ。恋人だ。神だ!
本に殺されるなら、本望だ…。
◯
春もいよいよ終わりを迎える5月3日。いつの間にか桜は散ってしまったし、入学式も、私の誕生日すら終わってしまった。まぁ、どちらも私にとっては至極、圧倒的に、ベリーリーどうでもいいことだ。
この日、とんでもない事があった。
もし私に伝記と言う物が存在した場合、それ自体が章の名前になってしまうのかもしれない程、無視できない、大きな出来事だ。
そう、それは相手にとっても苦渋の決断であっただろう。いや、本当は即断即決の、迷うことなど何も無い容易い事だったのかもしれないけれど、少なくとも私はそうだった。
それは、そう体育館裏。何ともベターで、何とも陳腐。使い古され過ぎてカビが生えていそうなシチュエーション。少し違う所があるとするなら、桜の木に舞い散る筈の葉が無く、随分と寂しい姿になってしまっていたと言う点か。
男女は2人向き合い、そして、遂にその言葉は解き放たれた。
「好きです!付き合ってください!!」
…人々のざわめき、足音、心音、視線の交差、その他の何もかもが掻き消えてしまい、2人の空間は展開される。その中で、ひと言…
「…良いよ」
彼
氏
が
出
来
て
し
ま
っ
た
︙
!
そう、彼氏。大衆が知る一般女子高校生が欲して止まない物だ。少なくとも、私の周りにいる女子高生達は皆欲している。いや、あれはどちらかと言えば飢えていると言った方が間違いないのか…?まぁ、そんな事はどうだって良いだろう。
兎に角、彼氏。別に私が欲していた訳ではない。むしろ、欲していたのはあちらの方だ。そもそもとして、私という人間には色恋と言う物がよく分からない。
有りとあらゆる事を教えてくれる本の中には、恋愛小説と言う物がある。キャラクター同士の恋路を描いた、時に悲しく時に笑える物語だ。
しかしながら、そんな恋愛小説を読んでも、どうして恋をするのか、どうして愛するのかがよく分からない。毎度毎度それっぽい理屈の羅列があるものの、私が納得に至るものは無かった。
まぁ、なんと言うか、彼氏。人付き合い(長い付き合いという意味で)というのは、実のところあまり経験がない。友達というような関係になっても、クラス替え、進路、引っ越し、そもそも相手の方から関わらなくなるなどで、疎遠になってしまうことがほとんどの私。そいでいて、恋愛観も無いに等しい様なこの私に、果たして彼と円満に過ごすことはできるのか…?
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