INTJ 4w3 僕の作った実績と就活

朝はいつも同じ音から始まる。スマートフォンが吐き出す、短く切られた成功談の連なりだ。二十秒で億を稼いだ男、三十秒で人生が変わった女。僕はそれを布団の中で親指だけ使って読み漁る。読んでいるというより、通過させている。就活用のエントリーシートは机の上で静かに白紙を保っている。彼らの成功は、僕が何もしない理由として十分だった。


親は僕に投資しなかった。少なくとも僕はそう思っている。だから二十万円を借りて、本を作った。自費出版だ。タイトルはよく覚えていないが、帯に「大学生作家」と入れた。重要なのは中身ではなく肩書きだった。本が届いた日、段ボールを開けると、紙の匂いがした。それは何かが始まる匂いではなく、すでに終わっているものの匂いに近かったが、気にしなかった。


部屋の隅に六十冊以上の在庫が積まれている。正確には僕が買い取った分だ。SNSには「完売間近」と書いた。嘘だが、訂正する必要もなかった。いいねの数が事実を代行してくれる。僕は歴史の特異点だ、と一度だけポストした。誰も反論しなかった。それで十分だった。


大学のキャリアセンターに行くと、担当者は静かにうなずいた。作家活動は評価されます、と彼女は言った。評価という言葉は便利だ。何を評価するのかは曖昧なまま残る。就活とは、曖昧さを整った書式に流し込む作業なのだと思った。僕は自分の本の話をした。売上は聞かれなかった。


帰り道、古本屋に寄った。自分の本が置いてある気がしたからだ。もちろんなかった。代わりに、誰かの失敗談が百円で並んでいた。棚は静かで、時間が薄く伸びていた。僕は何も買わずに店を出た。


夜、在庫の山を眺めながら、ショート動画をまた流した。成功者は今日も元気だった。僕は応募ボタンを一つだけ押した。理由は特にない。ただ、押せる状態にあったからだ。布団に入ると、天井が少し遠く感じられた。特異点は、たぶん動かない点のことだ。そう考えたが、納得はしなかった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2026年1月15日 17:00
2026年1月15日 17:00
2026年1月16日 17:00

NBTI×エニアグラムキャラクター小説 zakuro @zakuro_1230

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画