小説家の小説 語ることは作ることの後追い INFJ8w9×INFP4w5
喫茶店の奥、窓際の席。
ノートパソコンを開いたまま、INFP4w5は指を置いただけで動かさない。画面は白いままだ。
INFJ8w9は向かいの席でコーヒーを飲み終え、カップを置いた。
「で、まだ一行も書いてないのか」
INFP4w5は椅子にもたれ、天井を見たまま言った。
「だってさ、今書いたらさ、私の本当の個性が歪む気がして」
INFJ8w9は一拍置いて、ノートパソコンの画面を指で軽く叩く。
「個性以前に、何も出てきてないやろ」
「違う。出てきてないんじゃなくて、出すタイミングじゃないだけ」
「ほう」
「ちゃんと世界観が熟成してからじゃないと、薄いものになるし」
INFJ8w9は椅子を引き、少し前のめりになる。
「じゃあ聞くけど、その“熟成した世界観”って、どこに保存してあるん?」
「……頭の中」
「それ、何回取り出して検証した?」
INFP4w5は口を開きかけて、閉じる。代わりに肩をすくめた。
「数で殴る話でしょ、それ。量産型になるやつ」
「違う」
INFJ8w9は即答した。
「数を作るんや。修正して、捨てて、また作る。その中で残った癖が個性になる」
「でも、それって私じゃなくてもできる方法じゃん」
「せやで」
INFJ8w9はあっさり頷く。
「誰でもできる。だからやるやつだけが先に行く」
INFP4w5はノートパソコンを閉じ、両腕を組んだ。
「それはさ、才能がある人の理屈だよ。私はもっと…こう、唯一無二のやり方が」
「まだ作ってもないのに、唯一無二も何もないやろ」
INFJ8w9はスマホを取り出し、メモアプリを開く。
「俺な、去年だけで短編三十本書いた」
「……多すぎ」
「二十八本は誰にも見せてない」
「無駄じゃん」
「無駄やで」
INFJ8w9はスマホを伏せ、視線を戻す。
「でも、その無駄を通らんと、二本目も三本目も出てこん」
INFP4w5は唇を尖らせる。
「でもさ、それって私の感性を削る行為じゃない?」
「削れんもんは、最初から付いてへん」
INFP4w5は椅子をきしませて立ち上がり、店内を一周するように歩く。
「ほら、そういう言い方。暴力的」
「事実や」
「私はもっと大事に扱われるべきアイデアを持ってて」
INFJ8w9はため息の代わりに、再びカップを持ち上げた。
「その“大事なアイデア”、何年温めてる?」
「……」
「三年やろ」
INFP4w5は答えず、窓の外を見る。
「三年温めて、形にならんかったもんが、四年目で突然傑作になる確率、低いで」
「希望を踏みにじらないでよ…」
「踏みにじってない。現実の話」
INFJ8w9は席を立ち、レジに向かう。
「創作したいなら、さっさと書け。語るのは作った後でええ」
会計を済ませ、振り返る。
「今日はここまでや」
INFP4w5は席に戻り、閉じたままのノートパソコンに手を置いた。
「……冷たい」
INFJ8w9はドアの前で立ち止まり、肩越しに一言だけ残す。
「一年後、同じこと言ってたら、その時はもう何も言わん」
ドアベルが鳴り、INFJ8w9は店を出た。
─3ヶ月後
同じ喫茶店、同じ窓際。
違うのは時間帯だけで、夕方の光がテーブルを斜めに切っている。
INFJ8w9は席に着くなり、スマホを机に置いた。
INFP4w5は相変わらずノートパソコンを開いているが、画面はまた白い。
INFJ8w9「……まだ書いてないんか?」
INFP4w5は画面から目を離さずに言う。
「今日は構想を深めてる日」
「一年前から、その“今日”続いてるけどな」
INFJ8w9は一度だけ視線を落とし、椅子の背にもたれた。
「まぁええわ。今日は説教しに来たんちゃう」
INFP4w5は少しだけ首を傾ける。
「珍しいね」
「自分の失敗談を話しに来た」
そう言って、INFJ8w9はスマホを操作し、何かの画面を見せた。
「これ、去年適当に書いた恋愛小説」
「……タイトル、軽くない?」
「軽いで。思いつき。三日で書いた」
「ふーん」
「で、こっちが半年かけて書いたSF」
スクロールされる応援と評価の数字は、明らかに差があった。
「……逆じゃないの?」
「逆や」
「好きで書いたSFは全然伸びん。どうでもよく書いた恋愛の方が読まれた」
INFP4w5はキーボードから手を離す。
「それ、納得いく?」
「納得はしてない。ただ、事実や」
「でも、それって読者が浅いだけでしょ」
「かもしれん」
INFJ8w9は否定も肯定もしなかった。
「けどな、そこで“読者が悪い”って言って筆止めたら、何も残らん」
INFP4w5は椅子を回し、正面を向く。
「じゃあ、8w9は恋愛書き続けるの?」
「書かん」
「え?」
「SFも書くし、恋愛も書く。どっちも作る」
INFJ8w9は指を一本立てる。
「受けた理由を分析して、使える部分だけ抜き取る」
「……器用だね」
「器用ちゃう。分析と応用や」
スマホをしまい、机を指で軽く叩く。
「好きかどうかは後回し。まず数を作ってから、修正する」
「でもそれって、自分を裏切ってない?」
「裏切らん」
「作ってない自分より、作った自分の方が信用できる」
INFP4w5は一瞬、口を開くが、言葉を選ぶように閉じる。
「……私は、そんなふうに割り切れない」
「知ってる」
INFJ8w9は立ち上がった。
「だから、今日はこれだけ言いに来た」
椅子を戻し、鞄を持つ。
「好きで書いたものが評価される保証はない。でも、書かなかったものはゼロや」
INFP4w5は視線を落とし、キーボードに指を置く。
「……もし、全部外れたら?」
INFJ8w9は振り返り、少し考える仕草をしてから答えた。
「その時は、“外れる打ち方”が分かる」
ドアに手をかけ、最後に一言。
「当たるかどうかは運や。でも、振らなきゃ確率は変わらん」
ドアベルが鳴る。
残されたノートパソコンの画面に、カーソルだけが点滅していた。
─1年後
朝の住宅街。
INFJ8w9はリードを握り、犬の歩調に合わせて歩いていた。
片手にはスマホ。通知欄には新着レビューが三件。
いずれも短いが、具体的な指摘、良かったというコメント、アンチの貶しコメントが並んでいる。
INFJ8w9は具体的な指摘と応援コメントにのみ返信し、アンチは放置した
それは1年間の執筆で身につけた、いつものやり方だった。
「今日は何書くかな」
独り言のように呟き、立ち止まる。犬は電柱の匂いを確認し終え、何事もなかったように次へ進もうとする。
書籍化の告知はない。ランキングの上位でもない。
ただ、固定客が数人いる。それだけで、次を書く理由としては十分だった。
「昨日の話、少し削るか」
そう判断したところで、もう一度歩き出した。
─同じ時刻、あるカフェの中央テーブルにて
INFP4w5はノートを胸に抱えたまま、ストローを回している。中身は減っていない。
「私はこれを書きたくてねー」
テーブルの向かいで、ESFJが大きく頷く。
「そうなんだね。INFPちゃんならできるよ、応援する!」
「でもさ、個性ってあるじゃん。私の個性は、もっとこう…」
言葉を探すように視線を泳がせ、ノートを抱え直す。
横でISFPがカップを持ち上げた。
「良いなー。私も書こうかなー」
「でしょ?」
INFP4w5は勢いづいたように身を乗り出す。
「でも、今書くと私の個性が削れちゃいそうで」
「削れちゃうんだ」
ESFJは否定せず、また頷く。
「大事にしてるんだね」
「うん☺️」
INFP4w5はノートを指で叩くが、開かない。
「私の中にはね〜、小説があってね〜」
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