第5話 爪と日常
叢雲アリスは歩きながら、異能を使い体の再確認をする。
(マッサージの異能で筋肉痛もない。爪も治った。けど毎回割れたら)
何か対策をと考えていると、副キャプテンの雫石ユイが体操服で通学路でランニングしている。
「あっ、いた」
かなりのスピードでのランニングだが、彼女は一切息を切らせていない。
きっと普段から相当鍛えぬいているのだろう。
「おはよ、アリスちゃん」
「おはようございます。昨日は勝手に抜けてすみませんでした」
「いいよいいよ。それよりこれ……マニュキア」
「ありがとうございます。校則は大丈夫なんですか?」
「大丈夫、トオルはずっとしてて怒られたこともないし、投手を本格的にするなら爪のケアだけは忘れないでね」
「わかりました」
(この人本当にちゃんと見てる。フィジカルモンスターの先輩に、洞察力の高いユイさん。このチームって本当に弱いの?)
どうしてこのチームが弱いのか、疑問に思ってしまう。
「今日はちゃんとラストまでいますので、今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ、これからよろしくね。勝手に帰ったこと、皆怒ってるから練習始まったら最初に謝りなよ」
「はい……」
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校舎3階の窓からユイがアリスにマニュキア渡すの確認するナナシ、その表情は安堵したのか、口元が緩む。
「夏までにどうやってチームを仕上げるかだな。外野は足柄が結構いいだろ。あいつは強豪校でも即レギュラー行けるだろ。問題は内野陣。ショウタは絶対としてあと二人。双子はどうだ?」
登校してきたばかりの中村伊吹に一度も目を合わせずに声をかける。
最初こそ、伊吹は俺に声を掛けてたのか?となっかが、今では慣れてしまっている。
「守備はいいかもしれない。ただ、神無月を起用すると、異能の兼ね合いで二遊間に二人の起用。必然的に服部はサード起用になるな。ファーストは鬼頭でいいのか?」
「そこは仕方ないだろ。あいつも飛べるから本来は外野が適正だけど…ショウタは器用だからどこでもできるが、双子はどのレベルだ?」
「守備だけのレベルで言えば、普通の高校ならレギュラーレベル。甲子園常連校かな」
「それだと三重異能に対して勝てるか怪しいな……一応全員の力を合わせて対ホームラン対策守備を考えたが、練習する時間が足りねー」
「時間か…一番の課題だね。最後の年だし行きたいよな……異能甲子園」
「行きたいじゃねー。ぼくたちは絶対に行くんだよ。それしか、あいつに……」
絶対の約束のために、ナナシも今年の甲子園だけは絶対に譲れない。
相手がプロだろうが、甲子園準優勝高だろうが。
「邪魔する奴らの異能はすべて殺す!そして、トオルの道を開かせる」
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11時頃の授業中。2年生クラスには鬼頭のいびきがごうごうと鳴り響く。
途中無呼吸になったり、独特の変化をするので、みんな気になってしまう。
「起きろ、起きろってば鬼頭。」
ショウタが、ペンで背中をつつき、必死に起こすも効果がない。
「ZZZ」
トオルもショウタの隣に座っているが、ため息しか出ない。
全く起きない気配の鬼頭にトオルもどうしようもないとあきらめている。
「ショウタそこまでしなくていいぞ。どうせ痛い目見るのは鬼頭だし」
「……今まで面倒見てたの僕なんだけど」
1年生のころ、補修中、テスト前ずっと鬼頭の面倒を見ていたのはショウタだ。2年生になり、もうやりたくないと思っても、鬼頭の介護は続きそうだった。
教師がしびれを切らせ、額にしわが寄りながら、三人の前に立つ。
「野球部の三人はみんな元気があってよろしいですね」
ショウタが冷や汗をかくも、状況は変わらない。
「ZZZ」
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1年生教室
昼休み、ご飯食べながら足柄は1年生で一番頭のいい星崎に今のチーム状況を聞く。
「スバル、どこまで行けると思う?」
「嫌な質問するな……現状三重異能にギリギリ負けて甲子園予選2位で敗退だな」
こういう時に一切嘘をつかない星崎だからこそ、信頼して話せる。
「忖度無しだとそうだよな。やっぱり穴は俺たち?」
星崎は首を縦に振る。
「守備はともかく、甲子園のエースや日本代表を打てるかと言われたら無理だ。先輩たちに点を取ってもらっても、俺らにボロが出る」
「結局練習不足か……熊無さんの本気のボールってどうだった?」
野球において一番大事なのは投手だ。投手が強ければ、どのチームでもある程度戦える。
それは異能が混じったとしても変わらない。
究極的に野球は1VS1の競技だ。だから、投手が強ければなんとでもなる。
どうして、サッカーやバスケットと違い。プロのペナントレースでほとんどのチームが勝率を4割を切らない理由だ。
「全然本気じゃなかった。だいぶ気を使わせてボロボロだった。ホント悔しい。それを平然と取る神無さんや雫石さん。あの人たちも本当にいかれてる。三重異能なら間違いなくレギュラーだ」
「確か153ぐらいだったよな。甲子園ですら魔球を抜いた、ストレート平均130なのに、あの人本当にいかれてる。マジでどんなトレーニングしてるんだろ」
「体格もやばいよな。身長185位かな。筋肉も半端ないし。今日の練習で聞いてみる?」
「そうだな。先輩たち見てるとやっぱり上手くなって、甲子園行きたいな」
「だな。カナタ、練習終わったら異能使って俺に打ち込んでくれないか?」
「わかった。プロテクター全身につけたうえで、ゴムボールでいいか?」
「うん。それでいい。単純に速度になれないといけないからな……」
夏までにトオルのボールを取れなければ、絶対にマスクをかぶれない。
もう、自分の責任でチームが負ける姿は見たくない。
それは、足柄も、星崎も中学時代、苦い経験をした彼らだからこそ一番理解している。
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