第4話 自己紹介

 全員を集め、1塁側ベンチ前に集めさせ、1年生から自己紹介をさせる。


 ナナシの言葉でピッチャーだった3人は別の部活へ行ってしまったが、それでも5人も残ってくれた。


「打席に立てなかった外野手の足柄カナタです。異能は銃腕です。撃ち落とせますし、外野からの返球はぴか一です、外野手一本で小学生からやってました」


 一年生で一番背の高かった足柄が腕を変形させ、空砲を上空に放ちわかりやすく説明する。


「さっき、センター前の当たりを防がれた星崎です。基本キャッチャーやってます。中学時代は外野もやってました。異能は土を使って、何でもできます。坊主は趣味です」


 天井に届くかと思うほどの柱を一瞬で展開する星崎。二人とも経験者であり、ある程度体格も良く即戦力候補になりそうな人材だ。ユイがどうして強豪校へ行かずこの高校へ来たかを聞いたが、二人とも単純に家から近い、それに親元を離れたくないなどやまた二人で野球できる高校がここしかなかったといった内容だった。


「「神無月です。ポジションはセカンドショート、どっちがどっちでも行けます。見分けづらいですけど、どっちがどっちでもいいので、神無月と呼んでください」」


 同じ言葉で同じタイミングで言われると少し恐怖感も感じる。異能は説明がなかったが双子独自の同調などと察することが出来る説明だった。


「んで、最後だけど…万能の叢雲家の人がなんでいるんだ。罰ゲームで高校を決められたとかか?」


「別に、この高校で本気で何かをやるつもりなんてなかったんです。でも、あのフィジカルモンスターに会って、ちょっと運命が狂いました。叢雲アリス。みんな知ってると思いますが万能です。ポジションも競技も、大体対応できます。転校前に、全部の部活を潰してきたんです。エースも、キャプテンも。中途半端な付き合い、嫌いなんです。だから、ここでは本気の人たちとだけ、本気でやります。三重異能、倒して甲子園行きます。やるなら、それくらいじゃないと」


 万能が味方に入ってくれると嬉しいが、その分要求値も高くなる。そこがほかの一年生からすると懸念点になるが、間違いなく即戦力である。 


「俺は、神無ナナシ。一応キャプテンやってる。そんで、隣の中性的なモデル体型のやつが、中村伊吹」


「よろしくお願いいたします」


 伊吹が丁寧にお辞儀し簡単に自己紹介を済ませると、ナナシがトオルに向かって注意をする。


「二年生と三年生の自己紹介をしたのちに体力測定と異能測定。その後は外野手、内野手、バッテリーの三組に分かれて個人練習。内野は双子とショウタを中心に、外野はユイを中心に伊吹は両方にサポート入ってくれ。星崎は外野と捕手どっちのほうに参加するかは決めてくれればいいから」


「絶対キャッチャーにします。先輩が正捕手ですよね。絶対そのポジション奪いますから」


「バチバチなやつはもう一人いた…面白れぇ」


 練習はトオルを除いて授業終了後に行う。トオルに関しては無能力のため、異能という講義がなく一年生の時に二年生分の教育課程を修了し、もう授業が必要なくなっている。そのため練習にも人一倍参加でき、グラウンドで一人で練習する光景がよくみられている。


「それより先輩やっと変化球投げれたんです、縦スラっすよ」


 ウォーミングアップをすませたナナシがブルペンに行く途中にトオルはカブトムシを捕まえた園児に似た笑顔で話しかける。


「はいはい、聞いてるから、ちなみに縦スラはトオルがバッターだったら通じるのか?」


「うーん、正直微妙っすね。でも変化球はあったほうが…」


「いらねえよ、下手な変化球があるくらいならストレート一本で押し切れ!それができる体格を超効率的に作ってるんだろ」


「まあ、そうですけど…けどやっぱり…」


 食い下がろうとするトオルだったが、ブルペンで投球するアリスと星崎が挨拶に来る。


「よろしくお願いします」


「お願いします」


 アリスが少し遅れて挨拶をすると、ナナシが話を進める。


「叢雲が最後に空振りした球が縦スラだっけ?」


「いえ、どっちかって言いますと。ツーシームっぽかったです。球速は145位ですかね」


 え、ツーシームだったのというトオルの声を横に会話は進んでいく。


「そうか…星崎、トオルのボール受けてやってくれ。それとアリスは打席に入ってくれ。トオル、変化球は再現性がすべてだ。この状況で投げれなければただの足かせにしかならん。ウォーミングアップ出来てるなら、さっさと投げろ」


「わかりました…」


 渋々構えに入り、再度投球するも、落ちたかどうか微妙なボールだった。


 まあ、そうだろうな。というわかりきった顔をしたナナシに今度こそ投げますといったが、必要はなかった。


「いやいい。確かに落ちてはいる。なんでその投げ方と握りでツーシームになるのかはわからないが、それはそれでいい。今、ツーシームの情報も入れたから今後の練習に組み込む。星崎はそのまま受けてくれ。俺が叢雲のボールをとる」


「わかりました」


 その後しばらく練習が続いたが、アリスにはある程度弱点があった。右投げ時にアリスはストレートがシュート回転し、ボールが少し右バッターに流れる。左投げでは大きなミスはなかったが、変化球の制球が甘い。カーブやフォークがホームベース前で落ち、改善の余地がある。


「星崎やっぱり苦しいか」


 隣でキャッチングをする星崎だったが、150キロ以上のボールを最初からとるのは経験者とはいえ難しい。キャッチしている左手に何度か目が行っている様子だったため、さすがに無理が来ている。


「大丈夫です、まだいけます」


「わかった、だが無理をするな。夏までに追い付けばいい。今日は一度、外野練習に入れ。それとユイをブルペンに呼んできてくれ」


 最初の練習でつぶれてしまってはいけないという配慮だったが、それ以上に星崎のプライドが目の前で崩れる様子にナナシはどうしたものかと考えてしまう。どうにか戦力としたいが、トオルの捕手としては務まらない。試合で使えないいじょう。外野にコンバートを受け入れてくれるか心配だった。


「わかりました。絶対にここに戻ってきますから。キャッチャーとして」


 自分の実力のなさを受け入れ、悔しさを滲ませながらも、持ち前の負けん気で何とか持ち直してくれそうだったため、メンタル面では問題なさそうだが、ナナシにとっては心配だった。


 ユイがキャッチャーに入り、長く続いた投手練習も終了しかけたタイミングでトオルが変化球に関して色々とアリスに聞いているが、コツに関しては伝えられていないようだった。


「いやだから、腕の抜き方とか、手首とか何か意識して…」


「してない。何もしてないのよ。私、万能のせいで何でもできるの。変化球だって大体投げれるの。それに…」


「やめておけ、トオル。それにトオル自身に問題があるってより、ボールのほうに問題がある。変化球が投げられないのはそこだ。まず、高野連のボールは今は内部に異能増幅装置がある。異能をより多く伝えるためだ。その影響で、能力のないトオルにはそれがうまく伝わらず、結果的にストレートになる。まあ、さっき見た感じ、ツーシームと昔投げていたナチュラルシュートは投げれるからやっぱりお前はストレート一本でねじ伏せるしかないんだよ」


「えっこの人無能なの、フィジカル系の能力じゃないの」


 驚きの目を向けるアリスに対して、トオルは「素でこれだぜ」と肩をすくめ、なぜかボディビルダーのポーズを取ってみせた。


「まあ、無能って言葉はあんまり使うな。叢雲お前もお前で改善案多いから練習はこっちである程度…」


「自分で考えます。それと今日はこの後に予定があるので、先に上がります。ありがとうございました」


 自身のプライドを守るように、挨拶を済ませるとすぐにロッカーへ向かい、ブルペンを立ち去って行った。その後ろ姿は気高き獅子のごとく誰も声を掛けられない。


 次はやり返すといわんばかりに立ち去る姿に過去のトオルの姿を重ねナナシは口角が上がってしまっていた。


「なかなか癖のそろった一年がそろったな」


 ナナシがボソッとつぶやくと、ユイがフォローするように声を掛ける。

「楽しそうですね。けど先輩、アリスちゃんに厳しくない」


「あいつにはあれくらいしてもらわないと困る。夏もトオル一人じゃ投げれない。いざというとき絶対にあいつがマウンドに上がる。その時あいつに責任を押し付けくない」


 口元が緩むナナシだが、それでも自分にはできないことがある。


「ユイ、叢雲のフォローを頼む。多分、爪が割れてるはずだ。初めての投球であれだけすれば……」


「わかりました、いいマニキュア紹介しておきます。ただ……


キャプテン、めっちゃきもいんですけど」


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