第3話 野球の天才VS万能の天才
アリスが打席に入り、素振りを始めるが明らかにほか三人とは違う。本当に女子なのかと疑うレベルだが、今はどうしようもない。このホログラムではどうやっても打ち取れない。
(内角高め、ダメだレフト線もしくはホームランにされる。外角低め、ライト線に落とされる)
トオルは多くを考え、ギリギリのコースを要求しても外野に運ばれる、そんな風景が頭によぎると同時にタイムを告げてしまう。
「悪い、投げる!」
2年生3人は同時にため息をつく。
そう言い切ると防具を外し、マウンドに駆け上がる。ホログラムの防具が消え去る。
右肩を数度回し、ボールを受け取る。
「キャッチャーミットのまま投げるつもり?」
投球練習を始める直前に服部が声を掛けてくる。
「悪いな、ミット返してくれるか?」
「オッケー、それより雫石がめっちゃ怒ってる。リストバンド外した鬼頭以上の顔してるから、この後の練習、鬼やばくなりそう」
「その時は僕の魅了があれば…あいつ異能無効だったな」
名案とばかりに鬼頭が提案したが、ユイには異能は何も効果がない。電気も炎も風も水も、当たる直前か、当たったタイミングで消え失せる。
終わったなという顔を三人でするが、練習ではよくあることの一つであり、数日もすれば元通りになる。
投球練習も終わり、いよいよ本番になる。相手は強打者、甘く入れば軽くとらえられる。
キャッチャーはホログラム、リードもすべてトオルが考えなければいけない。
「まずは様子見かかな」
インコース低めへのストレート、少し低く外れるがタイミングがほぼ合ってたはずだ。久々のマウンドだったが感覚はかなりいい。ボールも指先に引っ掛かり、スピードも自己ベストに近いスピードだ。回転数は少し不安が残るが及第点はある。
「安易なストレートはダメか…」
なら今度はほぼ同じコースに投げ込むか。インコース低めのゾーンに投げ込む。
「入ってるんだ…」
バッターからすればほぼ同じボールだからこそ、見逃された。けれどもうこのコースに投げる余裕はない。次に同じ球を投げたらレフト線に持っていかれる。
次はどうするか、無難にアウトコース攻めてみるか。
アウトコース高め、少し外れたところ。投げ込むが、少し外れたボールだったが、アリスのバットが捉えられる。ファーストを過ぎたあたりでボールが切れ、ライト線を越える。
追い込んだが、狙いはストレートか、こっちが変化球を見せていない以上、警戒はしてると思うが、どうだろうか。けど、けど、たまんねぇ。
この緊張感、ピンチでの強打者とのピリピリとした勝負。ホログラムでは味わえない実践。ボルテージが上がるのはアリスも同じだった。
だからこそ、冷静なリードができるキャッチャーが欲しい。本気で勝ちに行くなら今のトオルに欠けた部分を補う人が必要不可欠だ。
高めの釣り玉を投げ込むが今度も打者後方のファールになる。
その後も何度かストレートを投げ込むが結局ファールにされフルカウントになる。
試すか。
トオルにはずっと試したかったボールがある。冬の間アメフトボールをベースに練習をされていた変化球。
指を4本縫い目に合わせるフォーシームに対して、指を重ね二本の指で縫い目に合わせてアメフトボールを投げるように投げ込む変化球。
回転数が上がればジャイロボールになるかもしれない、そういう可能性もあるから先輩に教わった変化球。
「来る…」
今までのタイミングで投げ込まないことから決め球が来るということはアリスにもばれたが、それでもいい。
回転数やスピードが甘ければ、失投になり、確実に持っていかれるこのタイミングだからこそ、成長できる。
ストレートと同じ投球フォームで投げ込む。
「ストレート…甘い」
ゾーン真ん中付近に着たボールだが、打者の手元で割れるように少し落ちる。その影響でアリスは空振りをする。ストレートより少し遅いボールだが、打者はスピードだけで見切ることが出来ない。
「三振…三振かぁ…」
バッターボックスで何かつぶやくと、ヘルメットを脱ぎ去り、マウンドに上がってくる。
「え、何…」
ホログラムが消え去り、乱闘でも始めるかごとく、詰め寄る。
「何って、次は私のピッチャーの番でしょ。さ、変わって」
「あ、そういうこと…」
「次先輩からですよね。私も全力で抑えに行きますから、覚悟してください」
アリスは宣言するようにトオルにグローブのホログラムを出し、投球練習を始める。
ベンチに戻りながら服部と鬼頭にナイスピッチと声を掛けられるが、対照的にユイが声を掛ける。
「無駄なストレート多すぎ、力みすぎ。って先輩からの伝言、それと肘に違和感ない?」
「ああ、問題ない。球速もちゃんと投球練習していけばあと5キロほど上がりそうだ。冬合宿にエクストリームしたかいがあったよ」
地獄の冬合宿を思い出し、ベンチに帰るとグローブを返すとバットを握りしめ、バッターボックスに入る。
ストレートとカーブ、スライダー。俺と違っていい変化球を投げるよな。
変化球を思い出しながら、素振りを2回して、挨拶をしてバッターボックスに入る。
けど、ぶっちゃけ、ストレートは一流と言えないし、そのほかの変化球もいい変化はするが決してカットできないボールじゃない。
「って、ちょっとまった!」
「トオルが切れた、乱闘か?」
げらげら笑いながらベンチで盛り上がる服部と鬼頭だったが、やれやれと首を振っているユイ。だが、主人公が起こる理由は明白だ。先ほどまで右投げで投げていたが、今は右手にグローブをはめている。
投球練習中は素振りで気が付かなかったが、今は冷静に見れている。だからこそ切れた。
「なんで左なんだよ!」
トオルが野球に対する姿勢に怒りマウンドに詰め寄る。
「え、ああそっか。さっき右で投げてたっけ。私両利きだから、こっちのほうが投げやすいし」
「…ああ、もういい」
深呼吸しながら。落ち着いて、バッターボックスに入る。
(冷静になれ、冷静になれ、今までの変化球はなしだ。どうにかして引き出しを出すか、それとも甘いストレートに絞るか…いや、違うな。
それじゃ一流にはなれないな。俺が思い描く一流の選手なら、反射で反応して、ギリギリで打ち切る。フォークなら膝をつきながら、カーブなら体を崩しながら俺の中の最強選手は魔球も変化球も関係ない)
「しゃあ!」
声を荒げ、自信を鼓舞しながら、構える。
一球目、スライダーが外角に切れ込みストライク、二球目もスライダーが来るが、今度はファールにする。追い込まれ、ストレートが高めのボール玉で投げ込まれるが、それをカットする。
(やばいな…釣り玉にも手を出し始めた。何なら2球目もボール球か…けど、俺がリードするなら次にほしいのは…アウトコース低の)
「カーブ!」
ひきつけ、狙い球通り打ち込むが、体が崩れ、ライト線でフォールになる。
「くそ…」
狙い球はわかっていたが、捉えるための肉体が足りなかった。練習不足だ。
次にストレートをインコースのボール球に投げ込まれるが、それを見逃す。
(そういえば、キャッチャー経験者だったな…いいリードするな。次もギリギリのコースに外しに来ると思うが、変化球だと手を出さないといけないな…)
トオルにとって圧倒的に不利なカウントだが、だからこそ、ボルテージが上がる。バットのグリップに自然と力が入り、握りが強くなる。
次に投げ込まれたボールは誰も予想できない、縦の変化。フォーク。低めのストレートと錯覚するような変化球に自然と膝が崩れ、芯でとらえる。
(そうだ、この感触、かの感覚。反射でボールを打ち込み、スタンドに叩き込む肉体。それこそ、俺が求めていた野球選手。この再現性を高めればきっと一流になれる…はず)
ボールはライトスタンドに吸い込まれるように届き、スタンドインする。ただ、今までの魔球よりも何倍も何倍もいい感触だった。
「最高だ、最高だ…」
状況を感じながらダイヤモンドを一周するが、それと同時にマウンドではグラブを投げ落とし悔しさがこちらにも出てくる。
「これで、ゲームセットだな。5点差、これ以上は点差が付くだけだから意味ないな。正捕手兼キャプテンのナナシだ。とりあえず兼部したい奴は今すぐほかの部に行け」
3年生の二人がグラウンドにやってきてグラウンドでゲームセットを告げる。
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