第2話 万能の天才の実力と1年生たち

「誰、ユイ知ってる?」


「うん、確か叢雲アリスだったかな、口で言うより、ほら」


 そういうと、主人公の目の前に空中ディスプレイを三枚ほど見せてきた。


 そこに移る情報には、万能の才能、100年に一人の原石など誇張された記事がいくつも出ていていた。


「ふーん」


 あまりトオルは関心がなかったが、対照的に鬼頭と服部は興味深々だった。


「あんな子うちの高校来たんだ。普通は都会の私立に行くと思ったけど、案外有名人って大変なのかな。いい香りしそうだし、いい血なんだろうな~」


「確かに、あんな子がマネージャーとしてなら全打席スタンドインいけるかも、雫石挨拶してきてもいい?」


「ダメ、次で交代。話は私がする。それと鬼頭、症状抑えれないなら、マジでニンニク食わすぞ」


 すみませんでしたと鬼頭が謝罪をすると、ユイはアリスに話に向かい1分ほどで帰ってきた。


「攻撃続行、無死1、2塁から鬼頭からで」


 ユイを見て、マジという声をだす直前の顔をしながら皆ヘルメットをかぶり始める。


 アリスがユニホームに服を切り替えると、投球練習が始まった。スピードがなかなか出てはいるが、所詮女子で1年生130キロが出てるか出てないか程度だが、高校一年生の女性としては破格のスピードである。


「野球の厳しさ教えちゃおっかな」


 余裕そうな笑みを浮かべながら鬼頭はバッターボックスに向かうが、それと同時にセカンドとショートがレフトライトと交代していた。実際気が付かなかったのは仕方がない。目の前に有名人がいて、投球練習を始めればまずそこに目が行く。

 

 2年生の中で1年生相手にアウトになるとは思ってもいない。けれど、その結果は意外なものだった。


「マジか…」


 三球三振。最初はストレートで、そのスピードは145キロほど、素人が出す数字ではない。女性でも近年運動能力が上がっているが、そこまで上がることは稀である。そのうえ、切れのあるスライダーとカーブでタイミングを外し三振。コントロールも並みの選手以上だ。


「ユイ、記事見せろ。野球関係はなにかある」


 声を荒げながらトオルは聞くがもうすでにユイの指は動いている。が見つからない。


「ねーんだよ、何にも野球関係はない。弓道、柔道テニス、個人競技の実績は見つかるが、集団競技は…」


「野球だよ野球。まじかよあいつ、超ド素人があんな玉投げるって世界おかしすぎだろ」


 次のバッターボックスに服部が向かうが、服部はすごく冷静だった。


 三振した鬼頭に軽く声をかけ、そのまま入り、構えに入る。


「どうだった、ニンニク食べることになりそうか?」


「そうだな…チャーハンぐらいならいいかもしれん。正直な舐めてた。多分当てても良くて外野フライだ。1打席で内野の頭をきれいに超えるのは多分無理だ」


 投げたボールの回転数もスピード以上に異常値をだし、普通に打てば打ち取られる。だからこそ、本気で服部は迎え撃つ。


 叢雲の投げたストレートは鬼頭に投げたボールと全く同じコースに投げ込まれるが、それを空振りするほど、はっとりは甘くない。


 やや芯を外れたがそれでもピッチャーの頭を超え、センター前に打球が行きそうなタイミングでセカンドが2塁ベース裏で補給する。


「ヤバ…」


 そう思ったタイミングでもう1塁走者はアウトになり、ファーストにボールが送球される。


 アウトのコールがなり、攻守交替になる。だが、そんなこと誰も想像していなかった。そもそも守備が変わっていたことに今気づく2年生、そのうえその二人が女子であること。完全にやられた。そう言った感情が2年生のやる気に火をつける。


「野球はそうでなくっちゃ」


 二年生が守備につき、センターにユイ、セカンドに鬼頭、ショートに服部そして、キャッチャーにトオルが入りプレーが再開されると思ったが、打席に誰も入ってこない。


 マスクを外し、主人公は声を掛けるが、その十秒後に先ほどいいプレイをしたセカンドの子が入ってきた。


 外見的な特徴はそこまでないが、近くで見ると思った以上に整った顔をしていた。アリスとは違い純正の日本人。大和撫子のような質素さの中にある美しさがあるようだった。


 バッターボックスにお辞儀をしてはいると右バッターボックスで構える。声を掛けるか迷ったが、昨年、贔屓にしてもらったことを考え声を掛ける。


「球速135で変化球なし、ストライクゾーンに適当に入るように設定してあるから好きに打っていいいぞ」


「…そういうのいらないです、妹にはそういうのしないでください」


 先ほどのプレイで自信がついたのか、もともと自信があったのかはわからないが、打つ姿勢と集中力は2年生にも負けてはいない。


 去年の自分もそうだったような気がしながら、ミットを構え初球をとる。インコースの低めのストライク。球筋の確認だろうか、しっかりとボールを身を送り、再度構える。


 二球目、投手が投げるモーションに入る直前、バットを寝かし、セーフティーバントを成功させる。


 反射的にサードと叫ぶが、ホログラムで弱く設定したサードでは足が遅く、ファーストに投げた瞬間には一塁を駆け抜けていた。


 やるじゃん、と心の中で思いながらも自己アピールをしっかりする彼女に関心した。


 ノーアウト1塁、内野ゲッツーと声を上げ座り込む。


 次にバッターボックスに入ってきたのは、ショートの女の子、先ほど妹と言ったので双子だろうと思いながら再びミットを構える。


 妹にはするなと言われたが、どうするかと心で考えていると今度は申告するようにバットを寝かしバントの構え。


(素直にバントしてくれたらいいが、無理だろうな。俺だったら、右方向へのエンドランがベスト、セカンドが左利きだからセカンド右側に打てれば最高という場面だけど、何球目に仕掛けてくるか。こういう場面ではインコースに縦のストレートで内野ゴロ打たせたいな)


 そんなことを考えていると初球いきなりランナーが走り、それに合わせセカンドベースカバーに入ろうとする鬼頭に対して、逆を突くようなバスターバッティング。


 外角ぎりぎりのコースに投げ込まれるがバットの先で打ち込む。


 普通に打てば凡打でダブルプレーだが、それをヒットにするエンドラン。双子ということもあるが、1年生でこれだけできれば上出来だと2年生は思うが、本人たちは納得していない。

 1塁ランナーが2塁ベースを蹴り、加速しそうになったタイミングでセンターにいたユイがカバーに入りサードに投げ込む。


 多少距離はあるものの、6年以上も外野手でやっているユイからは簡単に進塁は許されない。


「ねえ、今の3塁まで行けないの」


「無理よ、センターの人がカバーに来てたからライトが取ってたら、行けたはず。それより、あの程度の棒玉ライト前に打てないの。キレイに打ってたら回れた」


 ランナー同士で喧嘩をしているように見せているが、異能抑制用のリストバンドは光りっぱなしであった。


「なるほど、そういう事か」


 もともと1塁ランナーは打球を最初しか見ていない。

 

 センターがとることは予知できていない。


 見ていたのはバッターランナー、つまり視界の共有を行っていた。そのうえ、妹にはそういうのしないでください、というセリフ。


 共有されていたなら、する必要もない上、テレパス系の能力で初球から仕掛けられていた。


「タイム!」

 センターからユイが声をかけ一時プレイが止まる。ランナー二人を集め何か話していると次のバッターから声を掛けられる。


「すみません、あの、この防具一式ってどうやってとるんですか、旧式のやつならわかるんですけど…」


 おどおどした坊主頭の少年がバッターボックス前に来るがキャッチャーの防具一式をつけたままで来る。旧式なら1つ1つ留め具を外せばいいが、最新式のものはホログラムであり、ボタン一つでとれる。


「ああ、初めてか。それならヘルメット取ってみな、その裏側に赤いボタンがあるだろ。それを5秒ほど押すと、ほら一式消えた」


「ありがとうございます。それより二人すごいですね、打ち合わせなしでエンドラン決めるなんて」


「いや、打ち合わせは異能でやってるっぽい。それを可能にしてるのは二人の経験だが」


「そうなんですね…やっぱりすごいや」


「知り合いか?」


「いえ、ただのクラスメイトです。野球部がどこかどうか聞かれたぐらいです。僕って坊主頭だから野球部じゃないかって、星崎ですこれからよろしくお願いします」


「確かに。これからよろしく、あっちもそろそろ話し終わるみたいだし、準備はいいか?」


「大丈夫です」


 主人公はマスクをかぶり、ゆっくりと座るがそれと同時にランナーがホログラムに置き換わる。双子がベンチに帰るのを横から見ながらバッターの様子を伺う。


 何回か素振りをしてバッターボックスに入ってきたが、その姿勢から経験者と一目でわかる。明らかに二人と違うのはスイングスピード。男子というのもあるがシャープなスイングでいい音を鳴らしている。


「内野深め、まずワンナウトから!」


 内野に合図を出すが、投手の貧弱さに嘆かれる。もし俺が投手だったら、どういう投球をするか、そればかりを考えてしまう。内角、外角と交互にストレートが行くか、それを身を繰り、何かぶつぶつつぶやいている。


(三番という打順で来たなら打ちたい。ただ、三番目のバッターならここはバントして2、3塁のケースを作るのもまたベターだが、野球人ならランナー帰したいよな)


 3球目、鋭い当たりでセンター前に行きそうなあたりだったが、服部が打球を何とか取り、きれいな連携を見せゲッツーになる。


「な!」


 当たりがよかったからこそ、それ相応の対応だろうか、悔しさがにじみ出てくる様子だった。結果論でダブルプレーだったが、実際抜けていてもおかしくもない打球。


 ツーアウト3塁に状況が進展し、ピンチであるが先ほどより何倍もましな状況になった。


「今年の1年いいな、明らかに俺たちの1年以上に強い」


「なら、今の先輩以上かどうか確かめる?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る