異能野球部へようこそ,幼馴染の約束のために無能力だけど甲子園を目指す

ゆうま

第1章 無能力と万能の出会い

第1話 野球の天才と万能の天才の出会い

この時代にしては珍しい、“異能を持たない”高校球児、熊無トオルはたった一人の野球場で春の甲子園大会の決勝をタブレット中継で見ながら、ストレッチをしていた。


 2135年、世界は異能に溢れかえっていたが、その中でも100年前以上から続くスポーツは形を変えながらも熱狂の渦の真ん中だ


「肉体正常、関節等も問題なし…違和感もないな」


 試合も8回に入り、9-2というワンサイドゲームで進み、これ以上見なくても結果は明白になりタブレットをベンチに戻すと、右肩を軽く回しながらマウンドに向かい息を整える。


「相手にするのは常に最強の投手とバッター」


 ホログラムによって再現された、かつての100年前のメジャーリーガーのホームラン王。高校生が投げたボールで太刀打ちできるものではない。けれど、毎日それを行えば、どうすればその選手に勝てるのか、どうすればその選手のようになれるのか、そういったものを自然と感じたかった。


 1球目のアウトローをバッターは見逃す。


 異能があふれる世界において、旧時代の無能力者と戦ったとして何も成果を上げることはできないという評論家。


 2球目をインハイも見逃す。


 所詮、異能がはびこる世界で無能力者は社会の癌など、様々なことが言われえた。トオルにはそのことが耐え難かった。


 けれど、スポーツは違う。ルールもあり、異能がすべてではない。


 「トオルが甲子園で投げる姿見たかったな……」


 おれの心臓のために自分から機械化を選んだ彼女のために甲子園へ突き進む!!


 三球目、高めの釣り玉で簡単に三振を取る。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 4月7日入学式も終わり、野球部には何人かの新入生が入ってくる。だが、少子高齢化のこともあり、5人入れば多いほうで、ただの私立高校の倉田山高校には野球のエリートが集まることはない。


「えー、副キャプテンの雫石ユイです。異能は無効です。今日は来てくれてありがとう。まずは簡単にルール説明です。試合形式でプレーしてもらいますが、気軽に楽しんでください。守備は私たち2年生4人とホログラムでやります。打つのは自由、守備位置も希望が被ったら適宜交代で。ランナーも基本はホログラムですが、走りたい人は走ってOKです。2年生の事項紹介しますね、右から順に紹介すると、


金髪赤目に眼鏡が吸血鬼の異能の鬼頭ヨゾラ、


マスクして、2人から認識されない異能の服部ショウタ、


熊みたいな体格のが熊無トオル。


あと、ピッチャーは1失点で交代です。かぶるなら順番にやってください。ルールは以上。楽しんでね」


 日本で一番人気なスポーツである野球がしたくて毎年何人かは入るのだが、今年は多くの人が集まった。


 副キャプテンが全体に声を掛けながら整列した1年生8人をまとめるが、その中には2人ほど女子がいた。決して異能がスポーツに反映されてからも、女性の体格の上昇でそこまでサッカーやバスケと比べると接触プレーが少ないため、男女に分けないスポーツの一つとなり、女性人気も獲得した。


 1年生が守備につき始めるが、相変わらずマウンドには多く集まった。


「まあ、そうなるよな」


 どうしても野球というスポーツは投手が一番の華になる。プロの選手であっても投手と野手では年俸もチームからの価値も大きく変わってくる。そして何より目立つ。それだけで高校生を魅了するには十分だった。


「俺たちもああだったっけ?」


「いや、1失点交代ルールがあったし、最終的にトオルが5回まで投げ切ってそこで終了だったろ」


 あくまで歓迎試合である以上、全員に楽しんでほしいという気持ちと上級生として叩きのめすという意味がある歓迎試合ではある。


 即興の守備でどうにかなるわけもない。即興の投手が1年以上毎日のように白球を追いかけてきた球児に勝てるわけがない。ある意味この試合は口減らしでもある。


「けど、経験者は大体外れるでしょ。ほら早速外野に2人いった。内野もまあ、ばらけるけど、3人ピッチャーか、どうするユイ」


「順繰りでさせるように伝えてくるよ、それに1失点で交代のルールも伝えてあるから3人ぐらいならすぐに終わるよ」


 笑顔でユイが同級生たちに語り掛けるのは、ある程度実力が把握できているからだった。


「それと二人はリストつけてね、あと鬼頭、次に女の子に色目使ったらニンニク口に押し込むから」


 はいはい、と頷きながら鬼頭につけさせるが、服部はすでにつけていると左手首を見せてアピールする。


「じゃあ、トオル。一番頼める」


 親指を立て、合図を送り打席に向かう。


 1年生に同情はする。去年もほか二人が投げているときは息苦しく、トオルが投手に入るまでは完全に洗礼を浴びせるだけの試合だった。


 だからこそ、この逆境で輝ける逸材が欲しい。


 肉体的にも、異能的にも、経験的にも劣っていたとしても、負けたくない、勝ちたい。そういった感情が前に出てくる選手が欲しい。そう考えたのは2年生全員の総意だった。


 投球練習も終わり、右バッターボックス前であいさつを軽く行い、構えに入る。


 科学が発展したことにより、審判は完全にAIが行う。微妙な誤差もあるが、投球判定が1回、走塁判定が2回チャレンジ権があるため、世間からの反発もなく、人よりも制度がよかった。


 構えに入り、1年生が初球を投げ込む。ひざ下ギリギリを通過するいいボールではあったが、判定はボール。速度は110キロほど、正直高校生としては遅い。だが本番はそこではない。


 二球目は高めにはずれボール判定。中学まで野球をやっていたというから正直なところ期待をしていたが、あまりよくなかった。


「次、魔球いきます!」


 1年生が宣言すると、右手に電気を帯びたまま投球モーションに入る。


 異能にはある程度制限がある。


 ホームランをアウトにした。その試合中は使用不可。


 スリーベース阻止5イニング使用不可。


 ツーベースの阻止4イニング使用不可。


 ヒットの阻止3イニング使用不可、


 塁打に対してどうだったかが基準で制限が入る。


 魔球に関しては例外で、宣言することで毎回投げれる。


 逆に言ってしまえば、言わなければ2球に1回は投げれる。 


 それほど、世界は魔球や異能を欲している。


 スピードガンによる測定は魔球のため不可であるが、トオルの瞳は魔球をとらえ、今まで制球がうまくいっていなかったのが嘘のように内角低めに速球が投げ込まれる。


 が、バットを振りぬく。トオルには関係なかった。芯でとらえた打球は快音を響かせ、左中間奥深く、スタンドまで放り込まれる。


「まあ、そんなもんか、しびれがあるし、多少外したか」


 距離は105メートルとギリギリのホームランであったが、初球から魔球をとらえ、振りぬく力量に1年生たちは圧倒される。


 ダイアモンドを軽く走りながら投手に声を掛けるがそれはきっと悪手だった。けれど、そんな気遣いをできるほどトオルは配慮できる人ではない。


「宣言によって魔球を連投するつもりだったみたいだが、150キロ前後の棒玉じゃ普通に打たれるな、まあ、回転数を…って、聞いてないか」


 打たれたことのショックで膝から崩れていた。


 宣言をしたとはいえ、あくまで魔球。打たれることは想像していなかった。そして強制的にマウンドを降りる行為も続くため、投手には想像以上にメンタルにダメージが行く。


「やりすぎ」


 ベンチに帰る途中、バッターボックス付近で副キャプテンに怒られるが、不服そうに眼をそらし、答える。


「野球で嘘はできない」


 トオルには野球しかない。異能も、特筆した頭脳もない。ただあるのは大きな身長とAIによる鍛え上げた肉体だけだった。どうしても異能の比重が多いスポーツでは不利になり、勝てない。ただ、野球だけは異能が相手でも楽しくできた。そして、自分自身を追い込むことが出来、ここまでやってこれた。だから、もう嘘はつけない。


「じゃあ、ルールだから投手交代ね」


 そう副キャプテンが伝えると次の1年生に回った。


 その後も1年生をタコ殴りにするように4人で打ち込んだ。1回だけで7点を取り、全員1巡で回った。特に内野での守備面でのひどさが目立ち、結局うまくチームがかみ合っていなかった。ただ、それだけが1年生の最大の弱点だった。


 どれだけ異能に頼ったとしても、結局最後は自分自身の能力を信じた選手が輝き、その選手が多くいるチームが勝つ。勝つ意志が消えた投手ではアウトもとることは早々にない。


 30分ほどすればもう誰もがマウンドで投球する意欲がなくなっていた。それに続き内野も声が出てこなくなり、すでに歓迎試合が終わり始めていた。ただ、それでも外野にいた3人は声を張り、試合を諦めていなかった。


「どうする1年、アウト取れてないけど、攻守交替する?」


 副キャプテンの甘い誘惑に乗せられるように、投手3人は首を縦に振ってしまったが、それは副キャプテンが望む回答ではない。


 こんな状況であっても逆境に立ち向かえなければ、選手として大事な試合は任せることが出来ない。副キャプテンの中でこの三人はこれから始まる予選の候補からはきっと外れてしまったのだろう。


「野球部ってここですか?」


 1年生側のベンチから突如、透き通った声が響き全員の注目が集まる。キレイな銀色の透き通った髪、サファイアの青い瞳、童話の中から出てきたような人物がそこにいた。

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