第2話 能力者は、逃げ道を塞ぐ
自販機の残骸を前に、俺はしばらく動けなかった。
鼓動が、うるさい。
耳の奥で、自分の心臓の音が跳ねている。
「……現実、だよな」
右手を握る。
石。
開く。
人間の手。
冗談でも幻覚でもない。
さっきの男も、能力も、全部本物だった。
ポケットのスマホが震えた。
――非通知。
嫌な予感しかしなかったが、出ない理由もなかった。
「……はい」
『逃げない判断は、正解だ』
聞き覚えのない女の声だった。
落ち着いていて、感情が薄い。
「今、君の後方三十メートル。振り向かなくていい」
背筋が冷える。
『君は今から三つの選択肢を与えられる』
「……なにを」
『一つ。ここで捕まる』
『二つ。逃げて、いずれ捕まる』
『三つ。こちら側に来る』
息を呑む。
「……こちら側?」
『能力者の世界だよ。さっきの男は“回収係”』
「回収……?」
『野良能力者は危険だ。制御できない。だから――管理する』
言葉は柔らかいが、意味は変わらない。
「断ったら?」
『一つ目と同じ』
短く、即答だった。
「……選択肢、少なくないですか」
『そういう世界だ』
通話が切れた。
同時に、空気が変わる。
視界の端で、何かが揺れた。
「――ッ!」
反射的に距離を取る。
次の瞬間、俺の立っていた場所のアスファルトが、溶けた。
「避けたか」
屋根の上。
学生服の男が立っていた。
「視覚反応、まあまあだな」
能力者。
間違いない。
「……次は?」
男は手を振る。
炎が生まれた。
熱量操作。
さっきの重力とは違う。
目に見える、分かりやすい攻撃。
逃げ場はない。
路地の出口は、塞がれている。
「グーは……焼かれる」
石は壊れない。
だが、熱は止められない。
「チョキは……」
刃は出せる。
だが、炎そのものを切れるかは分からない。
迷った。
炎が、放たれる。
考える時間はなかった。
俺は――手を開いた。
パー。
紙が広がる。
炎を、包む。
燃えなかった。
炎は紙の中で、形を失っていく。
「……包んだ?」
男が目を見開く。
能力が、弱まっている。
「ちっ……!」
男が後退する。
その瞬間、俺は距離を詰めた。
今なら。
チョキ。
刃が、男の腕をなぞる。
今度は、切れた。
炎を生み出していた“発生点”が断たれる。
「――っ!」
男は屋根から飛び降りた。
「クソ……!」
着地と同時に、地面を蹴る。
逃走。
追えなかった。
体力が限界だった。
その場に膝をつく。
震える右手を見る。
「……分かってきた」
この力は、何でもできるわけじゃない。
だが、
順番を間違えなければ、
勝ち筋は選べる。
背後から、足音がした。
今度は逃げなかった。
「合格」
スーツの女が立っていた。
「歓迎するよ。じゃんけん使い」
その呼び方だけが、どうしても気に入らなかった。
「……それ、正式名称じゃないですよね」
「残念だけど、正式だ」
女は淡々と告げる。
「君は、相性を選べる能力者だ」
俺は、嫌な予感しかしなかった。
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