三すくみの世界で、俺は右手を出す
だん
第1話 最初に出したのは、グーだった
最初に壊れたのは、自動販売機だった。
放課後の路地裏。
小銭を取り出そうとして、俺は無意識に右手を握った。
――ごりっ。
嫌な音がした。
「……?」
視線を落とす。
俺の右手は、石になっていた。
比喩じゃない。
血管も皮膚も消え、ただの灰色の岩塊が、手首から先に存在している。
「……は?」
思考が追いつかないまま、拳を自販機にぶつけた。
爆音。
金属がひしゃげ、ガラスが砕け、中のペットボトルが雪崩のように落ちる。
俺の手は――無傷だった。
「……冗談、だろ」
反射的に手を開いた。
元に戻る。
人間の手だ。痛みもない。
息を吸う。
吐く。
これは夢だ。
そう思いたかった。
だが、その直後だった。
「能力、発現したばかりか」
背後から声がした。
振り向くと、スーツ姿の男が立っていた。
年齢不詳。目だけが、異様に冷たい。
「一般人が持つには、随分と歪な能力だ」
「……なんの話ですか」
男は答えず、右手を掲げた。
瞬間、空気が重くなる。
圧力。
見えない何かに押し潰され、膝が地面にめり込んだ。
「――ぐっ!」
「重力操作。簡単だろう?」
男は淡々と言った。
「潰すだけだ。抵抗の余地はない」
視界が暗くなる。
肺が圧迫され、息ができない。
――やばい。
考えるより先に、体が動いた。
俺は右手を――握った。
石。
次の瞬間、圧力が止まった。
「……?」
男が眉をひそめる。
俺は立ち上がる。
地面に沈んでいた足が、軋みながら抜けた。
「質量を固定した……?」
男が小さく呟く。
「面白い。だが――」
圧力が跳ね上がる。
今度は一点集中。頭が割れそうになる。
――石じゃ、耐えるだけだ。
直感が、そう告げた。
俺は指を二本立てた。
チョキ。
指先に、冷たい感触が生まれる。
刃の感覚。
振り抜いた。
――何も起きない。
圧力は、変わらない。
「……切れない?」
男が、初めて笑った。
「それは“物”じゃない」
理解した。
俺は、外した。
このままじゃ――押し切られる。
最後の選択肢。
手を、開く。
パー。
白い紙が、ひらりと空中に広がった。
「紙……?」
男が嘲る。
だが次の瞬間、紙は空間ごと男の腕を包んだ。
圧力が、消えた。
「……封じた?」
男の声が、わずかに揺れる。
重力操作が、働いていない。
男は後退し、そのまま闇に紛れた。
静寂。
路地裏に残ったのは、壊れた自販機と、俺だけだった。
右手を見る。
人間の手。
だが、もう信じられない。
「……じゃんけん、かよ」
笑えなかった。
これは遊びじゃない。
出す手を間違えた理由は、全部自分に返ってくる。
そういう力だ。
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