第2話 測定水晶が壊れただけです
「もう一度測り直せ」
ギルドマスターは、苛立ちを隠そうともせずに言った。
俺――レインは、言われるまま測定水晶に手を触れる。
青白い光が、またしても一瞬だけ瞬いた。
「……ゼロだな」
「ゼロですね」
「やっぱり役立たずか」
周囲から失笑が漏れる。
測定水晶は、触れればすべてが数字になる――この世界じゃ、それが当たり前だった。
表示された数値はーー0。
「測定水晶が壊れてるんじゃないですか?」
思わず口を挟むと、前に立っていた金髪の剣士が肩をすくめた。
「都合のいい言い訳だな。昨日も同じ結果だっただろ」
「そうそう。三回測って全部ゼロ。逆に才能あるよな」
笑い声。
俺は唇を噛みしめる。
(おかしい……体は動く。魔法だって使えるのに)
実際、俺は昨日も魔法を使っていた。
小火球を出し、的を吹き飛ばした。
だが――
「威力が弱すぎる」
「子どもの火遊びレベルだ」
そう切り捨てられた。
「結論は出ている」
ギルドマスターが机を叩く。
「レイン。お前は“基準未満”だ」
「基準、未満……?」
「この世界では、“基準値”がすべてだ。数値が出ない者に、居場所はない」
淡々と告げられる言葉。
それは、昨日言い渡された「追放」の再確認だった。
「待ってください!」
声を上げたのは、かつての仲間――魔術師の少女だった。
「確かに数値は低いけど、探索では役に立って――!」
「情に流されるな」
ギルドマスターは冷たく遮る。
「基準値ゼロの人間を置いておくと、他の冒険者の士気が下がる」
(……士気?)
昨日、俺が一人で魔物を引きつけている間、こいつらは逃げていた。
その事実を、誰も口にしないだけだ。
「規則だ。今すぐギルド証を返却しろ」
木製のカウンターに、俺の冒険者証が置かれる。
赤い線が引かれ、無効化された。
――これで終わり、らしい。
「……わかりました」
俺は静かにうなずき、踵を返す。
その瞬間。
――パキッ。
背後で、乾いた音がした。
「……ん?」
振り返ると、測定水晶に細かな亀裂が走っていた。
「おい、誰か触ったか?」
「いや、誰も――」
次の瞬間。
バリンッ!!!!!
水晶が砕け散り、強烈な光が室内を満たす。
「なっ!?」
「目が……!」
俺は、とっさに目を閉じた。
(……今の、俺?)
体の奥が、熱い。
いや、熱いというより――満ちている。
光が収まった後、ギルド内は静まり返っていた。
「……まさか」
誰かが呟く。
砕けた水晶の破片が、床一面に散らばっている。
だが、その中心――
俺の足元だけが、黒く焦げていた。
「測定水晶が……壊れた?」
「“基準値ゼロ”の人間が?」
ざわめきが広がる。
ギルドマスターは顔を青くし、俺を見た。
「レイン……お前、今、何をした?」
俺は、首をかしげる。
「何も。触れただけですけど」
本心だった。
ただ触れただけ。
なのに、水晶は耐えきれずに壊れた。
(……もしかして――)
何かが、根本からズレているだけなんじゃないか?
俺がそう感じた瞬間、
背後で、誰かが息を呑む音がした。
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追放された直後、異世界の基準値が狂っていた おふろ。 @ofuro_
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