追放された直後、異世界の基準値が狂っていた

おふろ。

第1話 パーティから追放された日

その日、レインはパーティから追放された。

理由は「役に立たないから」。

そして、その判断がどれほど致命的だったかを、彼らはまだ知らない。


「――以上だ。レイン、お前は今日限りでこのパーティを抜けろ」


酒場の奥、衆人環視の中でリーダーがそう告げた。

周囲の冒険者たちが、面白そうにこちらを見る。

ああ、なるほど。これは“見せしめ”というやつか。


「回復も補助も中途半端。魔力量も平凡。正直、足手まといなんだよ」


そう言って、リーダーは肩をすくめた。

その隣で、かつての仲間たちが目を逸らす。

誰一人、反論しない。


――まあ、そう見えるよな。


レインは内心でそう思ったが、口には出さなかった。

自分がやってきたことを、わざわざ説明する気もない。


「分かりました」


短くそう答えると、場が一瞬静まり返った。

もっと取り乱すと思っていたのだろう。

あるいは泣きつくとか、怒鳴るとか。


「……あっさりしてるな」


「引き止めてほしかったのか?」


嘲るような声が飛ぶ。

レインはそれに構わず、腰のポーチを確認した。


自分の荷物は、最初から最小限だ。

なぜなら――


(このパーティに、長居するつもりはなかった)


彼らが気づいていないだけで、このパーティはすでに限界だった。

戦闘のたびに致命傷を避けられていたのも、

魔物の弱点を“偶然”突けていたのも、

全て、レインが裏で調整していたからだ。


魔力操作。

戦況制御。

敵対存在への干渉。


どれも地味で、派手さはない。

だから評価されない。


「じゃあな、レイン。せいぜい一人で生き延びてみろよ」


背後から、リーダーの声が投げつけられる。

その言葉に、レインは立ち止まり、振り返った。


「……ええ。そうします」


ただ、それだけ。


酒場を出た瞬間、空気が変わった。

重圧が消え、世界が静かになる。


「さて」


レインは空を見上げ、小さく息を吐いた。


――これで、縛りは全部外れた。


彼がこの世界で“本気”を出したことは、一度もない。

仲間を守るために力を抑え、

バランスを崩さないように、自分を弱者の位置に置いていただけだ。


それを理解できなかった。

だから、追放した。


――正しい選択だ。

彼らにとっては。


だが。


「……まあ、困るのは向こうか」


レインはそう呟き、歩き出す。

目的地は決めていない。

ただ一つ、確かなことがある。


これから先、

彼の力を必要とする場所はいくらでもあるということ。


そして――

彼を追放した者たちは、

自分たちが何を失ったのかを、

遅かれ早かれ、必ず思い知る。


その時が来たら。

少しだけ、教えてやろう。


――最初から、勝負は終わっていたのだと。

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