第19話 ボクサーになる

 それで杏子は志津香の申し出を受けることにした。それにしても、それで志津香に何のメリットがあるのだろう。何か目当てがあると思った。

 そのうち話してくれるかな、杏子はそれでいいと思った。人のことを心配している余裕などない。

 ボクサーとしてカムバックする。それで1勝するんだ。今はそれだけ考えよう。1つ勝てば、次へ進めそうな気がした。


 志津香はまず体力・筋力回復のメニューを持って来た。

「御子柴先輩、そういうメニュー、もう古いですよ」

 杏子は自ら用意した計画表を志津香に示したが、あっさり一蹴されてしまった。

「古いって、何よ! 今も昔も筋力付けて、スタミナ付けて、やることは一緒でしょ?」

「やっぱり先輩は8年前で止まってますね」

 志津香が蔑むように言った。

「な、なんでよ。先ずは体力を戻さなくちゃ、ダメでしょ。自慢じゃないけど、今60キロ超えてんのよ。ライト級でやるにはかなり絞らないと・・・」

「御子柴先輩、体力アップと減量は別々に考えましょう」

「別々に?」

「そうです。がむしゃらに運動してもダメです。筋力落とさないように脂肪を落とさないと。サプリメントも使っていきます。」

「サプリなんて使ったら、下手したらドーピングで」

「WADAの規定に準拠した製品を準備します」

「へ? 今はそうなってるの?」

「もう随分前から」

「でも浦女実業の時は・・・」

「高校ボクシング部ですからね。そこまで科学的なアプローチはしてなかったと言うことです」

 そして志津香は次に食事のメニューを示した。そこに摂取すべきサプリメントも一覧が用意されていた。

「ホエイくらいは分かるけど。これタンパク質よね。でも、BCAAにクレアチン、EAAって、なんのこっちゃ・・・」

 杏子は一覧を見て首を傾げてしまった。

「こんなもの、みんな飲まなきゃいけないわけ?」

 杏子は少し気後れして志津香に言った。

「いいえ。先輩には先ずお酒を抜いて貰います。煙草はさすがにやってないですよね?」

「それは分かってる。先ず酒抜かないと話にならない。煙草は同棲始めてから止めたから。3年前に。彼が吸わないんで・・・」

「それは結構。で、その彼氏とは?」

「そんなこと関係あんの?」

 杏子がさすがに志津香に迫る。だが志津香は黙って杏子を見ていた。

「出てっちゃったわよ・・・」

「そうですか・・・」

 志津香がホッとしたように答えた。

「あ、感じ悪〜い」

 志津香は杏子の言うことを無視して話を続けた。

「半年です。まず3ヶ月掛けて体力、筋力を昔と同じぐらいまで戻しましょう。特にスタミナは戻すのに時間が掛かると思います。それが出来たら、まずはライト級でボクシングが出来るようになって貰います。たぶんここまでで半年です。で、最終的にはフェザー級に減量して試合をしましょう」

「半年かあ・・・貯金ギリギリだな。それとフェザー級って、あんたと同じにすんの? だって、私のが5センチ以上身長が高くて・・・」

「御子柴先輩。その緩い身体のままボクシングやって、勝てると思いますか?」

「分かった・・・」

 杏子が一言答えた。

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FIT BOXER 元之介 @rT9DgXb_32

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