第12話 防犯カメラの映像

「御子柴先輩。私が先輩に憧れた理由を説明させてください。嘘なんかじゃないんですよ、私あの頃本当に御子柴先輩に憧れてたんだから」

 志津香が一歩前に出ると、杏子の目を見て静かに言った。

「ど、どういうことよ・・・」

 杏子はちょっと慌てて、騒いでしまったことを反省する。

「これ、見てください」

 志津香はさっきまで座っていた席に杏子を誘った。ノートパソコンが置いてあり、映像が映っていた。

「防犯カメラの映像です。この店の」

 志津香は先般の現場映像だと言った。

「結局警察もこれを見なかったんだよ。全部映ってるから、あんたが正当防衛、というか女性が名誉と身を守るためにしたことだって分かって貰えたのに。まあ店にいた誰もが証言したから必要なかったんだけどね」

と、店主が付け加えた。

 そして志津香が映像を再生した。杏子も恐る恐るパソコンの画面を覗き込んだ。

それは、ちょうど杏子の背中からの映像だった。だから杏子の顔は写っていないのだ。それで杏子は少しホッとする。あの時自分がどんな顔をしていたのかなんて、見たくもない。

「あのカメラだよ」

 そう言って店主は店の奥から入口の方を向いて据え付けられているカメラを指差した。

「ここで、このゲス野郎が御子柴先輩の胸に水を掛けたのね」

 それで切れてしまった。その証拠がはっきり映っていた。杏子は椅子から腰を浮かせ、頭を上げている。既にこいつの顎に狙いは定まっていた。

「いやあ。何度見ても見事だねえ。こいつ完全にすっ飛んでるよ」

 店主が言った。

「伯父さん、ちょっと黙ってて」

 志津香が伯父に注意する。店主は慌てて口を閉じた。志津香の目は真剣だった。冗談を言っている顔ではなかった。

「ここ!」

 志津香が映像を止めた。杏子が引き戻した右手の握りこぶしに力を込めた。

「これ、このチンピラからしたら恐怖でしかないはず。だってそうでしょ、連れを一撃で吹き飛ばした右腕で、今度は自分を狙っていると思って当然だもの」

 そして再び映像が動き出す。杏子はテーブルを回って横に出て来る。

「狙っている、怖い。だからやつは無意識に右側、つまり先輩の右拳から遠い方へ逃げたわけ・・・」

 ところが、この時既に杏子は上体を大きく捻って、右に動いてきたヤツの顔面に左フックを叩き込んだ! 

「もうこれ、芸術としか言いようがない!」

 志津香が興奮気味に言いながら映像を止めた。

「そうなのか?」

と志津香の伯父。

「右のカウンターパンチと見せかけて、既に身体を捻り始めてる。ジャブじゃないのよ、身体全体を使った渾身の左フックだわ。しかもヤツの重心はパンチの来る方へ移動してきてるから、衝突の威力は倍になる。あの時と全く同じ・・・」

 最後、志津香は夢見るように言った。

「あの時と同じ・・・?」

 杏子が呆然と志津香の言葉を繰り返した。そしてその意味を思い出していた。

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