第7話 8年ぶりの再会

 埼玉県の川口は杏子の居る北区赤羽とは目と鼻の先だ。急行電車で8分ほどである。

 改札を出ると、杏子は居酒屋やバーなどが建ち並ぶ繁華街を横目に幹線道路に出た。そこをしばらく行くと大きな3階建ての建物が見えてくる。

 ここがサンダー・スポーツクラブ川口店である。つい最近建て替えたばかりのTSC一番の大型店だった。

「凄えなあ・・・。赤羽店とは大違いだ・・・」

 杏子は1階の受付に寄ると、奥の事務室に向かった。


 白抜き髑髏の黒タンクトップに豹柄のレギンスといういつものスタイルで杏子はプルダウンマシンを準備運動代わりに使っていた。あと10分でレッスンスタートである。杏子の出張レッスンを知らせる場内アナウンスがあった。

「大仰だこと。ま、いつも通りだけどね」

 杏子はマシンを離れるとスタジオに向かう。広いスタジオだ。30人くらいは入りそうだが、今日は何人来てくれるのか。さすがにここで5人はまずい。

 その時、杏子の目の端に少しばかり異質な集団が目に入った。若い女の子ばかり5〜6人がロー・プーリー・ロウに集まっている。そのうちの1人が場内アナウンスを聞いてスタジオの方を見ていた。

 そしてスタジオに向かう杏子を見つけて走り出したのだ。杏子はその女性に声を掛けられた。しかももう何年も聞いたことのない呼び方で。

御子柴みこしば先輩! 御子柴先輩ですよね!」

 杏子はドキッとして歩みを止めた。

「誰?」

「御子柴先輩。伴です、ばん志津香しずかです」

「ばんしずか?」

 杏子には覚えがなかった。

「ああ、浦和女子実業拳闘部の後輩の伴志津香です。お久しぶりです」

 女性が名乗った。言われて杏子も志津香の顔を見る。

「浦和女子実業? 拳闘部?」

「そうです!」

 杏子の昔の記憶が徐々に甦る。ボクシングに明け暮れた高校時代・・・だけど・・・。杏子の胸の内にあの頃の楽しかったことも、嫌だったことも、ともに浮かび上がってきた。そして伴志津香のこともはっきり思い出した。

「御子柴先輩が3年の時、私1年で。御子柴先輩に憧れてました!」

 志津香は緊張しながらもニコニコ顔で杏子に言った。

「私に憧れる? いや、伴志津香は2年生の時、全日本選抜で優勝してなかった?」

「はい。知っててくれたんですね」

「いや、スポーツ新聞で見た程度だけど・・・。じゃあ、今は・・・」

「はい。東日本武道大学女子ボクシング部の主将を務めています」

 伴志津香が答えた。

「そうなんだ・・・」

 杏子はそう答えるのが精一杯だった。そして、早くこの場を立ち去りたい気持ちになった。

「ごめん。もう時間だから・・・」

 そう言って杏子は8年ぶりの再会を切り上げた。そしてスタジオに入る。既に受講生が集まっていた。20人ほどがいた。

「こんなに人が集まるのは久し振りだな・・・」

 杏子が独りごちる。だが、ガラス張りのスタジオからこっちを見る伴志津香の顔が見えた。

「チッ・・・」

 杏子は受講生たちには気付かれないように舌打ちをした。

「・・・東日本武道大学女子ボクシング部の伴志津香なら、次期オリンピック候補選手じゃないか・・・」

 杏子はその続きを飲み込んだ。

 そして音楽のスイッチを入れる。激しいビートにスタジオが揺れだした。

 杏子はボクササイズのレッスンを始めた。

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