第5話 杏子のレッスン

  秋葉原店のボクササイズが廃止って本当だろうか・・・。杏子は三反薗店長が言ったことが気になっていた。そう言えば、この前秋葉原店のボクササイズのインストラクターがクビになったと聞いたんだった。

「TSCヤバいのかな・・・」

 杏子は暗い気持ちで午後のレッスンに入る。


 受付カウンターでは北原と斉藤が入場客の応対をしながらスタジオを見ていた。

「今回は11人。やっと10人越えた・・・」

「さすが。杏子さん」

「さすがって。さっきのズンバ、25人だよ。隣とぶつかりそうなギューギューだったじゃない」

 北原弓子はあくまでアンチ杏子の立場のようだ。

「杏子さんのボクササイズはあの間隔じゃ出来ないですからね」

と、斉藤拓実が返す。

「え? そこ?」

「髑髏マークのタンクトップが豹柄のレギンスとマッチしてて・・・。絵になりますね」

「まあ、確かに御子柴さんはタッパもあるし、スタイルもいいけど・・・」

 そこは北原も認めざるを得ない。

「それだけじゃないですよ。あの筋肉です」

「筋肉?」

「杏子さん、上腕二頭筋、三頭筋からの三角筋が大変美しいです」

「何それ? あんた、筋肉フェチ?」

「スポーツジムに来てて、筋肉の嫌いな人なんているんですか?」

「何言ってんの? でも、御子柴さんて腕の筋肉発達してるよね。何かやってたのかしら?」

 北原が改めてスタジオの杏子を見詰めた。腕が太いというのとは違う。ゴツいでもない。柔らかい筋肉が腕から肩を覆っている。

「北原さん、ご存じないんですか?」

「え? 何を?」

「杏子さん、浦和女子実業高校の女子拳闘部のご出身ですよ」

「女子拳闘部!? マジでボクシングやってたの?」

「インターハイ団体戦3位に入ったときのメンバーです」

「ひえっ!」

 北原が驚きとともに声を上げた。


「気合い入れていくよ〜!」

 杏子が吠えた。そしてだんだんとスピードを上げていく。杏子のボクササイズはこのスピードが信条だった。次々と繰り出すパンチと、まるでハイビートのダンスのような足の動き、受講生たちがだんだん追いつけなくなっていく。

「ジャブ! ジャブ! カウンター!」

 このタイミングで、大きく上体を捻るように右のパンチをいっぱいに伸ばす。

「はい、すぐに引く!」

 杏子は伸ばした右ストレートパンチを瞬時に戻して見せた。

「今度は、左カウンター行くよ〜」

 杏子の掛け声に、さっきとは反対に右腕でジャブを繰り返す。

 受講生の中にひとり若い女性がいた。高校生?と杏子が思ったくらい若く見えた。ただ彼女の心肺機能は目を見張った。さっきから呼吸ひとつ乱さず杏子に着いてきている。

 ところが、突然その女性が倒れた。クラスが騒然となる。杏子は受付カウンターへ手を振った。

「大丈夫?」

「あ、すいません。痛い、足が痛い・・・」

 女性は小さな声で言った。

「ちょっと見せて」

 杏子は足首だと察して踏み出した左の足首に触れた。

「痛!」

途端に女性はビクッと震えて、痛みを訴えた。すぐに救急車が呼ばれ、彼女は病院へ運ばれていった。

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