第4話 杏子のボクササイズ

 翌日、杏子はレッスン開始8分前にサンダー・スポーツクラブ赤羽店に現れた。見るからに、かなりヘロヘロな感じだ。

「杏子、またか!」

店長の三反薗が、杏子を叱責する。

「分かった、分かったから・・・水を一杯くださいまし」

杏子がふらふらする足を止めて、手を出した。

「終わったら、事務所に来い」

 三反薗は受付のひとりに、

「水を持って来てやれ」

そう言い付けて、バックヤードに下がっていった。


 スタッフの差し出す水を一息に飲み干した杏子は、髑髏柄のTシャツ姿でスタジオに入った。

「ドクロっていったい・・・」

「今日はドクロの日だったんでしょうね」

「ドクロの日・・・」

「言っただけです」

「考えてから言いなさいよ。大丈夫なのかしら。スタジオで吐いたりしたら・・・想像するだに恐ろしいわ」

「大丈夫ですよ。杏子さんだもん」

「楽観的。後始末するの私たちなのよ」

北原はまたしても両手を広げると、ロッカールームの掃除に向かった。

 斉藤はまだスタジオを見ていた。すると、

「みんな〜! いくよ〜!」

杏子の声が響いた。

「ほら、まるで別人だ」

 杏子のボクササイズが始まった。


「いやあ。意外にいけるもんよね」

 意気揚々とスタジオから引き上げてきた杏子は、STAFF ONLYの扉を開けた。事務室では三反薗が待ち構えていた。

「明日の午後、川口まで行ってくれ」

「川口って、埼玉県? 川口店ってこと?」

「そうだ。午後からボクササイズを2回、出張レッスンだ」

「あそこって、最近建て替えた大型店よね」

「そうだけど」

 だから、それなりにインストラクターもいるはずだった。なんで、わざわざ都内の私が?と杏子は考えた。

「何か問題でもあったの?」

「知らない。本部からの要請だから」

「明日の午後は秋葉原店でもレッスン入ってるけど」

と杏子。

「そっちは休みでOK」

「休みなの?」

「木曜午後のボクササイズは廃止するって」

「え?」

「客が入らないんだから仕方あるまい。うちの真似してヨガ入れるって」

「軟弱者が・・・」

 杏子が意味のない呪詛の言葉を吐いた。

「うちのボクササイズも廃止するかなあ」

と三反薗店長。

「ぜってー、ダメだかんね」

と杏子。

「受講生5人じゃ、どうしようもない」

今のボクササイズ、参加は5人だったのだ。 

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