ふわふわふーわふわ不穏

勇者一行がなぜ別れたか、その答えはとある遊び人の行動が原因だった。


「ウィンドル様、ここはスキル禁止のダンジョンのようです。引き返して国に報告だけしましょう」

「そうねぇ、魔法使いの私とか、ゴヴァならまだ行けるけれど貴方はスキル頼りだもの。やめた方が良いわ」

「…はぁ仕方ないわね」


「しかしスキル禁止なんて、ピンポイントだよな」

「本当にそう!私のスキルなんて戦いでしか使えないのに、ダンジョンで制限されるなんてツイてない!」

「あーあ、私だってここじゃ5つのスキルが持ち腐れよー。残念だわ」

「自慢?」

「自慢だな。普通3つ持ってりゃ良い方なのに。魔法も使える奴がなんか言ってるよ」

「ふふ」


ハイヤーを先頭にウィンドル、ユラディカ、ゴヴァが続いて下ってきた階段を登る。誰にも聞かれないような小さな声で呟いた。


「【準備は入念に】」


ハイヤーは地上に出た。しかし他の人は出てこない。


「…よし。無事に移転したな」


しかしここまでの旅路は順調すぎた。ウルフという不安素材を有しながらも、ウィンドル様はどんどん魔王城へ向かっていく。国王も調子づいて、何度も討伐を急げという手紙を出すぐらいだ。


遊び人ハイヤー、執事のハイヤー。彼の最優先事項は勇者であり、姫であるユラディカをなにがあっても守ること。彼女の幸福を最優先にして行動している。


「…今すぐに勇者の剣を手放してもらわねば」


最初からおかしいと思っていたのだ。あれは王都の洞窟にある勇者の剣。それを彼女は引き抜いたという話がおかしい。物心ついた時から姫に、王国仕えてきて20年。



どうやらウィンドル様は北の戦場で剣の噂を聞いたらしい。奇妙に思って勇者の剣と呼ばれる剣について調べたが、あれは本当の勇者の剣の模造品らしかった。


事実、3000年前には本当に選ばれし勇者のみが引き抜ける剣があったのだという。ウィンドル様が聞いたのはその昔の話なのだろう。


国王に話を聞いたところ、その模造品は現在の魔王が作ったものなのだそう。だから誰も近寄らない洞窟に封印し、誰も興味が湧かないようにその存在を歴史に埋もれさせた。


「でなければ剣の呪いで、彼女が魔王になってしまう!」


しかし、ウィンドル様は見つけてしまった。剣を握ってしまった。


今回の冒険もその根源を断つために出向かせただけに過ぎない。剣を作った本人を倒せば呪いも消えるだろうという憶測のもと。

でなければあのクソ王は、姫をオワリノ帝国との戦争の前線から退かせることなどしない。


今までウィンドル様に手放すように何度も進言した。しかし絶対に手放さない。そうこうしている間にも勇者となって魔王城へ突き進んでしまう。


自分は憶測など信じられない。しかも魔王になる呪いなんて、魔王を倒したそのときに発動してしまうものなのではないのかと思ってしまう。

この世に魔王が2人誕生してしまう道具を魔王が作る必要がないからだ。


クソ王は話を聞かないし、姫は取り憑かれたように戦いたがる。剣の呪いの完全な解呪方法も不明。しかし高名な僧侶に聞いたところ、剣を手放し新たな持ち主に呪いが行けば前の持ち主の解呪はできるのだそう。


だからせめて———


「自分が…ウィンドル様の代わりに勇者の剣を握る…!そして呪いを肩代わりするんだ…!」


クソ王は強欲だから、ここまでの成果を残していたら絶対に魔王の討伐を強行させる。


たとえ自分が魔王になったとしてもウィンドル様、ゴヴァやユラディカがいれば問題なく倒せるだろう。倒せる人物を勧誘した。


ハイヤーはもう彼女に戦ってほしくないのだ。魔王を倒したあとはゆっくりと生きてほしい。戦地に行くべきではないとずっと思っている。


「このダンジョンを随分前に作ったのですが…今まで誰にも見つかっていないのは幸運でしたね。ウィンドル様が絶対に死なないように、万能薬の泉を作ったのはやり過ぎでしたかね…いやでも、スキル禁止ですし…」


遊び人ハイヤー、執事ハイヤー。

彼の所有スキル数は41個。


戦地に出る姫のことを想いながら訓練していたら、万能の執事になっていた。そのことは誰も知らない。ダンジョン制作、魔物の使役、工作、移動もお手のもの。


〈ハイヤーよ、上手くできたのか?〉


ウルフを飼うと言ったときは驚いたが、今ではハイヤーの良き友人だ。ヴァライという名前らしい。彼は出入り口から凛々しい顔を覗かせた。


〈あの勇者も不幸な境遇だったのだな〉

「…本当に。幸せになってほしいものです」

〈ハイヤーはそれで幸せになれるのか?〉

「姫の幸せが自分の幸せですよ」


ヴァライは低く唸る。この答えに不満があるようだった。苦笑するしかない。


自分の本当の幸せなんて叶いっこないと知っているから、このダンジョンのルール外となる階段で、着々と勇者の剣を奪う準備をしているのだ。

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マジックアイテム売りは必ず勇者の前に現れる ロヒ @Rororohi

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