新しい仲間

「このポーションでどう?」


驚くべきことに、ずっと森の主のウルフを羽交い締めしていた勇者ウィンドルは、戻ってきたユラディカを見るなり喜んでポーションを受け取った。


「さすが天才ユラディカ!」

「当たり前だわ」

「ふーんすごいじゃん」

「…ありがと」


それは勇者にも分かる対応の格差だった。


「ねぇハイヤー。彼女、ゴヴァには少し優しい気がするのだけど気のせいかしら」

「ユラディカはゴヴァと同じ孤児院の出身ですからね。もしかしたら今回の魔王討伐の旅に加わってくれたのもゴヴァを気遣ってかもしれません。年の差的にゴヴァは彼女のことを認識してないと思いますが」


ハイヤーはそんなことを言うがそれは真実だ。だってそれを引き合いに彼がユラディカを勧誘したのだから。勇者ウィンドルが彼女に接触する前に。


「早くポーションをかけてしまいましょう」


高品質の翻訳ポーションと鎮静ポーションはすぐにウルフのふわふわとした毛並みに馴染んで、ウルフを落ち着かせた。


〈はっ!なんだ何が起こった〉

「貴方に翻訳ポーションをかけたの。私の言葉が伝わる?」


頭に直接響くような言葉の伝わり方は翻訳ポーションによるものだ。ユラディカはその効力を見てそっと胸を撫で下ろした。


〈…勇者め、余計なことを。早くこの森から去れ。ここは私たちの家だ〉

「ごめんなさい。貴方を仲間にできたらすぐに去るわ」

〈…はあ?〉

「私、貴方の仲間を守る精神が気に入ったわ。戦う時も周囲を常に気にしていたわよね。それにとても大きくていい毛並み!その背に乗ってみたいの!」

〈……呆れる精神だな。魔法で移動もできるだろう。なぜやらない〉


それはユラディカ達も気になっていることだった。


「一瞬で旅を終わらせるって、なんだか義務みたいじゃない。他の勇者は冒険を楽しんでいるもの。私も楽しみたいのよ!」

〈その動きの遅さが民の死に繋がってもか?〉

「ええ。だって誰のせいでもないもの。強いて言えば魔王のせいだから、いつか倒せば問題ないのよ」


ユラディカはゴクリと唾を飲んだ。前評判通りの“覇者”の姿をやっと見ることができた…見てしまったかもしれないが。

楽ちんなお金稼ぎで済ませられると思っていたが、そうはいかないようだ。


この勇者は危険だ。もしかしたら魔王よりも。やはり人類に害をもたらす危険性がある。


〈貴様…本当に勇者か?〉

「ただの姫よ。戦場帰りのね」


ユラディカはゴヴァをチラリと見た。彼の表情は険しい。

この子を守るためにパーティーに加わって正解だった。向こうはこちらのことを知らないが、ユラディカは孤児院時代、彼のことを自らの弟のように育ててきたのだ。自分の魔法の才能を魔法協会が目を付け、引き取るまで、ずっと兄弟のように過ごしてきた。


やっと自由になれたとき、ハイヤーからゴヴァが勇者パーティーの一員に加わったと聞いて私も加わるべきだと思った。


世界で最も重要な、ハジマリ王国の姫。

幼少期から戦いの才覚を周囲に見せつけ、10歳から戦場に出続けていた強者。その輝かしい功績の数々は彼女を“覇者”と呼ばせるには充分だった。


〈…もし、拒否したら?〉

「別にどうもしないわ。ちょっとガッカリするだけ」


それが額縁通りの意味で捉えていいのかが分からなかった。だからこの森の主たる、仲間を守る義務のあるウルフは大人しく勇者一行を自らの背に乗せた。


「わあ、巨大化のスキルね!」


森の主は駆ける。すでに森を抜けて、次の街が見えてきたが、それでも《最初の森》からはいくつもの遠吠えが鳴り響いていた。


(あのマジックアイテム売りは、この勇者を止められるようなアイテムを売ってるかしら…)


ポーション探しに何店舗か商店へ出向いたが、どこも言うことは同じだった。

『うちにはない。マジックアイテム売りのミササギさんのところならあるかもしれない』

若旦那もご老体も老舗も新店舗も同じことを言った。


(ミササギ…また会えるかしら)


今夜は月の綺麗な夜だった。

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