在庫ないです

勇者ウィンドル一行と2度目の別れから、数時間経った。

今日はかなりの儲けが出ている。レシピという名の紙切れ2枚で600Gも取れるのは本当に良い商売だと思った。それに港町で“頑丈ロープ”を売り、炭鉱で“とても明るいランプ”を売り…懐が暖かい。


今日はもう店じまいで野宿の準備でもしようかと思ったが、何やら知り合いの商店で揉め事が起きているようだった。


「ないの!?翻訳ポーションも鎮静ポーションも!?」

「在庫ないねぇ。高級品だし。うちみたいな商店じゃ取り扱ってるとこないんじゃないの?…ってミササギさんじゃないか!」


見知った店主と見たことある魔法使いがひとり。

落ち着きのある魔法使いだと思っていたが、そうではないらしい。


「彼で取り揃えてなかったら無理じゃないかな…ミササギさん、ちょっといいかい。この魔法使いがね…」

「聞いてた聞いてた。えっと魔法使いの…」

「ユラディカよ」

「ちょっと外で話そうか」


◾️


魔法が盛んなこの町に、魔法使いユラディカがいる理由は分かった。どうりで《最初の森》から超離れているここにいるわけだ。


「調合できないかー」

「できるし…」

「走ったら意味ないだろ…」


というか1日もかけずに素材の全てを集めたのが凄まじい。3日ぐらいはかけるかとも思ったが、勇者一行は優秀みたいだ。


「…で、既製品を買うだけで良いの?」

「そうよ」

「今後の旅で必ず調合の機会があると思うけど、その時もまた既製品を買うのかい」

「うっ」


そちらとしては出費がバカにならないから躊躇ってしまうだろう。こちらは売り上げが上がるが、そんなことをしていては商品の仕入れが間に合わなくなってしまう。他の人に取られる可能性のある儲けなら、ここでちょっと高い買い物をして問題を解決してしまった方がいい。


「実はね、調合下手なお前にオススメの品があるんだ。なんと“調合上手の指輪”って言うんだけど」

「も、もしかしてその指輪って…!?」


うん。さすがに知っていたか。

あれから気になって勇者パーティーの身元を少しだけ調べてみたが、このユラディカという魔法使いは王都の魔法学校の優秀な卒業生だったらしい。名前を聞いて確信した。


「調合下手———ごほん、苦手なら必ず探そうとする指輪…入手困難な釈炎のダンジョンにあるマジックアイテムさ!」

「釈炎のダンジョンにある宝物を…私でも断念したのに…。どうして貴方が!」


釈炎のダンジョン、別名魔法殺しのダンジョン。

ダンジョンは高難易度になるほど、その場所特有の絶対順守のルールが出てくる。


そこのルールは魔法禁止のただひとつ。


よって、どれだけ欲しくとも魔法使いであるユラディカに手に入れられる方法はない。彼女はプライドが高いようだから特に。


ちなみにミササギは剣士と物々交換して手に入れた。そのときはたしか、万能薬と交換したはずだ。


「貴方、靴すらベリベリだったのに」

「刮目しなよ買い換えたからさぁ!」

「はいはい、その指輪いくらなの?」


ミササギは笑う。今日はステーキでも食べようかと思った。


「ちょーっとお高いけど、適正価格だから許してね!」

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