素材集め

「ねぇ、ウィンドル。これ本当に集めるの?」

「集めるわ!」


あのマジックアイテム売りはレシピを売るとすぐに帰った。レシピは安かったが、素材の入手難易度が旅の始まりのパーティーに売るにしては少し高いように思える。彼は勇者ウィンドルが姫ということに気付いているんだろう。


変装も偽名も使っていないので当たり前だが。


「はぁ…」


魔法は自分でもできる方だと自負している。王都の魔法学校では首席入学、卒業をしたし、ダンジョン探索も趣味でやっている。


魔法使いユラディカの話をするときは必ず、”天才“という枕詞がつくものだ。この勇者…姫達もそう。だから雇われてわざわざ《始まりの町》からの旅を始めているのだ。どうせ勝てるのだから序盤なんて移動魔法でショートカットできる。


才能のある者達と共にいるのは嫌いじゃない。バカな魔法協会の者や学友達といるよりずっといい。


魔王を倒すのもいい。全ての魔族の支配者に、人類の叡智たる魔法がどれだけ通用するのか腕試しをしてみたかったし、倒したことで得られる地位も名誉も金も欲しかった。


なんて楽ちんなお小遣い稼ぎ———と思っていた。


しかし、勇者ウィンドルは無駄が好きなようだった。

今こうして翻訳ポーションと鎮静ポーションのレシピの素材を素直に集めている。


「ユラディカ!右にもあるよ」


なーんで私が、この私がわざわざ崖のお花を採取しているんですかね。


「ほーさすが王都の魔法使い。ウィンドル、よく勧誘できたな」


いや、合理的よ?私は空飛べるし。でも労働はしたくなかったな。正直、ウルフを飼うのは全然良いと思う。もふもふは可愛いし。でも面倒な採取はしたくなかったなーと思ったり。


「はい、持ってきたわ」


紫色の鈴のような花が籠いっぱいに摘んである。

希少植物らしいが、魔法使いユラディカにとってこの程度の素材探しは子供のお遊びに過ぎない。


「ハイヤーは?他の素材を集めているんでしょう?」

「彼ならもうすぐ来るよ」

「お待たせしました。他の素材を集めてきましたよ」


この遊び人は有能すぎる。料理、勘定、根回し、素材調達までなんでもできた。

どうやら姫の執事らしいと聞いて納得したが。

なぜそのジョブにしたという疑問は残るが。


「…よし、素材は全部集まりましたね。ユラディカ様、調合をお願いできますか」

「…」

「ユラディカ様?」

「わ、私調合嫌いなのよね。別に苦手とかじゃないのよ?ハイヤーがやりなさいよ。私、面倒なこととか嫌いだから」

「崖の素材取りの方が面倒だろ」

「ふん、バカにしないでよね。あんなの小指ひとつでできるわ」


……調合したくないな、と思ったり。

王都の魔法学校で、唯一落第点を取った教科だったなと思い出したり。

あのとき生み出した、走り出すポーションのことを考えたり。


「残念ですが、調合経験がありません。他2名もそうです。調合は魔法学校の必須科目でしたよね?」

「ええ、まぁ、ええ」


天才魔法使いユラディカはしどろもどろだ。


「あっ、もしかして道具が足りないとかかしら?」

「そ、そうよ!あーあ私、自分の鍋じゃないと調合できないのよねーすっかり家に忘れちゃってたわー」


天才魔法使いユラディカは白々しい。


「移動魔法で取りに行けるだろ」


お子ちゃまのくせに正論を言うから困る。子供は冒険に出ず、お家で冒険譚に目を輝かせてなと言いたい。


「ユラディカ、もしかしてにが———」

「はははは、何言ってるのウィンドル。できるし。完璧よそれはもう。でも家で調合してきて良いかしら」

「なんで?」

「人に見られながらやりたくないの」

「おー、神秘的で魔法使いっぽい!」

「…それなら仕方がありませんね」


騙されろ、その魔法使いっぽいという言葉に騙されろ。


私は近所の町で既製品を買ってくるからちょっと待ってなさい。

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