短編小説「ベイビーベイビーの夢」

Slumber Party

短編小説「ベイビーベイビーの夢」

 日本の少子化問題は深刻な状況となり、これまで政府が打ち出した少子化対策も高額な予算も無駄だったことが露呈し始めた。少子化問題の根幹は長きに渡る経済不況であるが、局所的な視野しか持たない政治家には、それが理解できていなかった。


 こうした状況は大衆の価値観にも大きく影響を与え、若者世代は見通しの見えない未来に子を産み、社会へ羽ばたかせることへ罪悪感を覚え、出産や子育てを終えた高齢者世代は子を産もうとしない若者世代を痛烈に批判した。もちろん中には出産、育児を選択する若者もいるが、経済的にも環境的にも裕福であるというルサンチマンを向けられ、板挟み状態となった。そのため、育児ノイローゼとなる父母が増え、目を覆いたくなる事件も多くなった。


 しかし、この少子化問題を解決する事件が、とある平日の混み合う山手線の車内で起きた。ベビーカーに子どもを乗せた母親が、電車内に乗り込んで来ると、車内にいる人々が、母親へわざと聞こえるように罵詈雑言を浴びせた。


「通勤時間帯にベビーカーなんか乗せてきて迷惑だ」


「平日から子どもと外出できるなんて裕福な家庭なんでしょうね」


「夫を仕事に行かせて自分は子どもと遊びに行くのか」


えとせとら、えとせとら。


 母親の夫は大手製薬会社の研究職をしていて、確かに経済的には裕福であった。しかし、夫は研究に忙しく、育児と家事は彼女がワンオペで行っていた。彼女は育児ノイローゼで、メンタルクリニックの医者から、外出をして息抜きをすることを勧められていた。そんな矢先、電車内で悪意や嫉妬を向けられた彼女は、気持ちが耐えられなくなった。


 彼女はズボンのポケットに、夫の書斎で発見した試験薬を忍ばせていた。これが何の薬なのかはわからない。飲めば気持ちが立て直せるのか、または死んでしまうのか。今の彼女にとってはどちらでも良かった。


 ポケットからパケを取り出して、まずは自分が飲み込んだ。そして、子どもにも飲ませた。しかし、彼女に薬の効果は全く現れなかった。彼女はがっかりしたが、子どもはそうではなかった。


 2歳の子どもの身体はみるみる内に大きくなり、ベビーカーを破壊して、山手線の車内もぶち破り、どんどんと巨大化した。大人に成長したわけではなく、巨大な赤子となったのだ。


 こうして、日本の少子化は大子化となって解決し、小中学校は全て廃止されて、代わりに大学が義務教育となり、世界でトップクラスの知能を誇る国へと発展した。国の発展は国民全体の明るい希望となり、世界の幸福度ランキング1位として末長く君臨することとなった。


そう言えば、大きいことはいいことだと、誰かが言っていたな。



👍



                  〈了〉


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