第1話 忘れ物

「お疲れ様でした。」

「おつかれー。」「お疲れ様〜。」

夕方のシフトが終わって店は暗くなり、ロッカー室を去る。

モールを出て夜の星空を下にポケットからスマホを取り出す。

時刻は夜8時。閑散としたモールを背景に賑やかな駅へ向かう。駅の利用はしないが帰り道としてただ歩いてはいる。

瞬間、バイト用の制服を忘れたことに気が付いた。

「あ、今日洗濯するんだった。」

週5日シフト勤務しているなら、汗はかく。今は秋だけど店内は暖かい。来週のシフト、匂いと共に更に5日間動くのはまずい。本来ならやり過ごしも構わないが、週5日のうち3日はカノンちゃんがシフトに来る。だからまずい。

踵を返して後ろへ振り返る。駅構内を後にして颯爽とバイト先の100円ショップモールへ走った。

入り口から見る店内は暗いが、裏口からなら問題ない。

(確か、副店長が残りの業務でまだいるはず。)

そう予測して裏口ドアの扉を捻る。

(開いてる。ということはまだいる。ということはロッカー室はまだ入れる。…良かった。)

廊下を歩き、明かりの点いたロッカー室が目に入る。

(ん?2人いる?)

ロッカー室の扉に黒い影が2つ並んでいた。すると聞き慣れた声がした。

「いやっ!やめてっ!!」

(えっ?カノンちゃん!?)

予測より早く鳥肌が爪先から頭まで回った。

「オラっ!このっ!!いいから手をどけろ!!」

(副店長!?……中で一体何が!?)

口が乾き始める。僅かな唾液を飲んでゆっくり廊下の壁を背にして歩み寄る。近くまで来て扉を小さく開く。

「ちょっと!?いい加減やめてっ!!こんなの、違います!!」

カノンちゃんは副店長の顔を奥へ押し黙らせていた。しかし、今にもその右手は崩れそうだ。抵抗が止めば、彼女は一貫の終わりである。純粋無垢な恋路を。

悟るより早く私はスマホを取り出していた。そして、扉を勢いよく開けた。

「私のカノンちゃんに何をしてるんですか!?」

2人はギョッとこちらを向いた。

「あの……もしアレでしたら通報、しますからね。」

「無香さん……。」

泣きそうなカノンちゃんは私の名前を発した。

「因みに番号は110番ですけど、あと1つ0を押せば通報になりますよ?」

スマホの画面を弱々しく見せる。

「クソっ!」

すると彼は攻めようとしていた手を振り払って勢いよくロッカー室を走り去っていった。

安心は束の間。改めてカノンちゃんを見るが、服装の崩れがないことからギリギリ無事だったようだ。

「大丈夫?」

日笠さんはブルブル震えながらもこくんと頷いた。

「ハァー、良かった。」

「……ありがとうございます。…このまま無香さんが来てくれなかったら、私……。」

グッとガードする様に両腕を胸に抱え込む。

「と、とにかく急いでここを離れましょう。」

カノンちゃんの心のケアに手一杯で私の制服はロッカーへ置き去りにされたままだった。

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