第2話 『真実の愛』はルールを守ってからお願いします

復讐に燃える少年を見送り定時も過ぎようかという頃。


「中村さーん、助けてくださーい」

隣の窓口担当者、真壁 アリーくんが小声でこちらに助けを求めている。


先程からずっと貴族と思しき美女二人が揉めに揉めて収集がつかなくなっているのだ。

やれやれ、とため息をつき声をかける。


「あのーお二人とも少し落ち着きませんか......」


それまで二人で掴みかからんばかりに言い争っていた美女達が勢いよくこちらに向き直る。


一人は、縦ロールの金髪に豪奢なドレスを纏った、見るからに気が強そうな「悪役令嬢」。


もう一人は、可憐なピンクの髪を揺らし、潤んだ瞳でこちらを見つめる「転生ヒロイン」。


二人の間には、火花どころか今にも物理的な爆発が起きそうな険悪な空気が漂っている。


(はい、きた。定番の「婚約破棄」と「真実の愛」の泥沼紛争。今月だけで42件目。この世界の王子、いくらなんでも下半身が緩すぎやしないか?このパターンで王子と幸せになれる確率は5%以下だというのに)


「ちょっと!聞いてくださいな!」

悪役令嬢が机を扇子で叩く。

「この馬鹿女、あたくしの婚約者であるアレクシス王子に、卑猥な『魅了(チャーム)』の魔術をかけてたぶらかしたんですのよ! これは立派な国家反逆罪ですわ!」


「違います! 私たちの愛は運命なんです! 乙女ゲームのシナリオ通り、彼が私を選んだだけなんです!ヒロインは私なんです!」

ヒロインが胸の前で手を組み、悲劇のヒロイン然として訴える。


私は、こめかみを指で押さえながら静かに口を開いた。

「……まず、ヒロイン様。あなたが主張する『シナリオの強制力』ですが、先月のシステムメンテナンスで【運命の恋フラグ】ですが【世界への不法介入】として法規制されました。なので先月からあなたのしたことは不法侵入やストーカー行為にあたります。おまけにその魔術、認可外の『精神操作系』ですね。申請も出されておりませんので完全にアウトです」


「えっ……!? そんな、運命なのに……?お願いしますぅ、管理官様ぁ」

ヒロインが目を潤ませて、こちらを上目遣いで見つめてくる。

ハートのエフェクトまで出始めている。


私は無表情で、キーボードの『Esc』キーを静かに叩いた。

「管理者権限発動。スキル:『魅了』を無効化。ついでにラブリー演出(エフェクト)をカット」


「頑張っていただいているところ、申し訳ないですが厄介なので無効化させていただきました。私には効きませんので。また、正式に婚約者のいる方と関係を持つことは不貞行為にあたり慰謝料対象となります。残念ながらあなたの運命の恋は違法となります。」


ヒロインは顔を真っ赤にして我に帰る。

「そ、そんな〜!私は純粋にアレクシス様が好きだっただけなのよ!?彼も私を好きって言ってくれたわ!だから私、なんだってやれると思ってここまできたのよ……彼のためなら命かけれるわ!」


「あなたはあたくしと結婚するまでの遊びですわ!私を本当に愛している、良好な夫婦関係を築く為には必要なことだと王子はおっしゃいました!でも、ひどすぎますわ……こんなこと!」


二人は泣きそうな程顔を真っ赤にしている。


(どこの王子か知らないが大概にしてほしい……こんな案件が山ほどあるんだから、こちらの仕事も山ほど増える……私達は恋愛カウンセラーではない)


ふぅ、っとため息をつき私は続ける。

「令嬢様。不貞行為を働かれ傷ついたことでしょう、しかしあなたが計画している、卒業パーティーの最中に行うという『公開ざまぁ』。会場の予定表を今確認しましたが、当日は第1から第5会場まで『婚約破棄』の予定でギチギチです。会場のキャパオーバーです。あと、その演出で火柱を上げる予定ですよね? 消防署から許可出てます?」


「そ、それは……これから取ろうと……」

「許可は下りません。近隣住民から『最近、婚約破棄のたびに爆発音がしてうるさい』と苦情が殺到しています。……はい、これ」


私は、慣れた手つきで二人へ書類を差し出した。

「令嬢様には、こちらの『不貞行為に基づく慰謝料請求・示談交渉セット』、『大規模イベント開催に伴う周辺環境への対策申請書』ヒロイン様には、こちらの『不法魔術使用者登録書』です。お二人の揉め事に関しましては地下一階の家庭裁判所にてお願い致します。」


「家庭……裁判所……?」


「愛を叫ぶのは、法的に整理してからにしてください。あ、あと令嬢様。あなたの名前、シルヴィア・ファン・ド・ロワイヤルさんですね」 

「ええ、そうですわ」

「……素敵な名前ですね。私なんて、誰かさんのせいで『中村 零乃主(ゼロノス)』ですよ。……いま、一瞬でも『かっこいい』と思いましたね? 強制的に名誉棄損で訴えますよ」


二人が呆然として口をパクパクさせている隙に、私はシステム上で「受付終了」のステータスを叩き込んだ。


「冗談ですよ。ヒロイン様、令嬢様、真実の愛はルールを破らなくても成立します。きっとどこかにそんな人がいるはずです。こちらをどうぞ。」


役所が主催の『転生者に出会える街コン』のチラシを二人に渡した。

二人は食い入るようにチラシを凝視する。


ハッと時計を確認する。

17時16分。

(……くそ、16分オーバーだ。でも今ならまだ、二郎の『マシマシ』に間に合う……!)


私は立ち上がり、コートを掴んだ。

「では、私はこれで。お疲れ様でした。」

「中村さん!ありがとうございます!」


真壁くんのお礼を背に私の足は二郎へと向かっていた。

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2026年1月12日 11:00 毎日 11:00

転生モノが多すぎるので世界を1つにしてみました。〜統括主任 中村 零乃主は定時で帰りたい〜 絵夢 @emu_m

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