転生モノが多すぎるので世界を1つにしてみました。〜統括主任 中村 零乃主は定時で帰りたい〜
絵夢
第1話 復讐の炎を静電気に変えるだけの簡単なお仕事です
「転生」「憑依」「回帰」――。
現代、この世には「再チャレンジ」系の物語があふれ返っていた。
それを眺めていた創造神(適当)は、ダルそうにため息を吐きながらこう言った。
「自分ら、同じような物語ばっかり作ってどうすんねん。……あー、もう面倒や。全部まとめて1つの世界に放り込んだろ」
神の気まぐれ。それが全ての悲劇の始まりだった。
多すぎる勇者、飽和する悪役令嬢、在庫過多の聖女。
無理やり統合された世界は、当然のごとく大混乱に陥った。
そこで設立されたのが――『異世界転生者管理所』。
これは、神の尻拭いをさせられる羽目になった、一人の男の物語である。
窓口の外には、今日も今日とて「世界の中心」になりたがっている連中が、番号札を握りしめて列をなしている。
「次の方、第3窓口へどうぞー」
私が死んだ魚のような目で呼びかけると、床を激しく踏み鳴らして一人の少年がやってきた。
ボロボロの黒いマント、不自然に逆立った黒髪、そして瞳の奥にはドス黒い復讐の炎。歳は12歳くらいに見える。
(はい、きた。「絶望から這い上がった復讐者」カテゴリー。今月で128人目だ。ノルマ達成かよ)
「……あんたが、この世界の管理官か」
「はい、異世界転生者管理所の統括主任、中村です。本日はどのようなご用件で?」
「……俺を裏切り、家族を奪ったあの王国の連中を……全員、この俺に与えられし能力!!『即死チート』で根絶やしにする! そのための許可をもらいに来た!!」
少年はドヤ顔で黒い謎の紋様が浮かび上がる右手を突き出してきた。
禍々しい紫色のオーラが立ち上り、窓口のパーティションがガタガタと震える。
「そんな大声を張らなくても聞こえていますよ。こちらへおかけください」
(うわぁ、演出が古いな。最近はオーラに『黒い雷』を混ぜるのが流行りなのに。うん、その謎のポーズも懐かしさがあって悪くない、その年齢で謎のタトゥーは黒歴史になる予感100%か...)
「左様でございますか。ではまず、こちらの復讐希望届に復讐対象者のお名前と分かれば住所、年齢、性別、あなたとの関係性や復讐したい理由まで詳細にご記入下さい」
「……は? 俺は! 今すぐに復讐しに行きてーんだ!! 邪魔する奴は全員ぶっ殺す!」
ダンッ!! と、少年が激しく机を叩く。
「お客様、こちらにはお客様以外にも復讐されたい方が列をなしております。順番は守っていただきませんと。また、件数が多いため対処できるかどうかも精査させていただいております」
「な、何を言って……ッ! 死ねぇ!」
少年が叫ぶ。放たれた暗黒の光が、私を直撃する――直前。
私は無表情で、キーボードの『Esc』キーを静かに叩いた。
「管理者権限発動。スキル:『即死』を『静電気』に置換。ついでに中二病演出(エフェクト)をカット、大音量の禍々しいBGM消音」
――パチッ。
暗黒の光は、冬場のドアノブを触った時のような、ささやかな音を立てて消えた。
「え、あ、あれ……?」
「はい、無認可のスキル行使は条例違反です。少し落ち着いてください。今調べますから……あー、これか。『サビネール王国による資源横領および冤罪捏造事件』ね。」
私は手元の端末を指で弾いた。そこには少年の凄惨な過去が事務的に羅列されている。
(……なるほど。村で新種の魔鉱石が出たから、それを独占するために父親に反逆罪を着せて処刑、ついでに鉱山を没収。口封じに家族も皆殺し。……やってることが中世の悪徳代官そのものだな。こうして悲劇は積み上がる。王族はバカばかりだな)
目の前で復讐の炎を燃やす少年に、私は心底ため息をついた。
「君の言い分は分かりました。つまり君は、『行政による不当な財産没収および人権侵害』に対する、個人的な武力行使による救済を求めているわけですね?」
「……難しいことは分からねえ! あいつらは俺の全てを奪ったんだ!!」
「あなたが復讐したいという『サビネール王国の第一王子アレン様』。彼は今、別の窓口で『悪役令嬢による婚約破棄・慰謝料請求』の手続き中で、既に全財産没収が確定しています。今あなたが殺すと、彼は借金を返さずに済んでしまうので、いたいけな乙女の復讐が成されなくなります。よろしいですか?」
「……え、あの? えと……」
戸惑う少年に私は貼り付けたような笑顔を浮かべ続ける。
「ですよね。復讐とはいえ、人を殺すことは犯罪です。お客様ご自慢の能力も無効化されたことですし、然るべき方法で制裁を与えた方が良いかと。このような屑の為にあなたが自ら手を汚すことはありません。また、被害届を出せば然るべき対処がされるでしょう。あちらで弁護士の紹介はしておりますので、そちらの書類を書いてお持ちください」
呆然と立ち尽くす少年。私は時計を見た。
定時まで、あと15分。
(頼むから、納得して帰ってくれよ。俺は今日、どうしても二郎系ラーメンのニンニク抜きを食べて帰らなきゃいけないんだ)
「あ、書類の『名前』欄が空欄ですね。本人確認のため、フルネームをお願いします」
「……あ、俺は、レオン・ヴァーミリオン……」
「いい名前ですね。私なんて、誰かのせいで『中村 零乃主(ゼロノス)』ですよ。……あ、今笑いましたね? 即死させますよ」
ヒッと少年の顔が引き攣る。
「冗談ですよ。」
ニコッと笑って見せる。
「あ、それとそのお客様が纏ってるマント、少し汚れすぎなのでクリーニングをおすすめします。」
床はマントを引きずったせいで黒く煤汚れていた。(片付けが大変そうだ、これは……)
「それと、こちらもおすすめなのでお持ちになってください。復讐はあなたの心を燃やし力をくれるのかも知れません、しかしあなたに必要なものはそれじゃない。あなたはまだ若い、いくらでもやり直せますよ。」
『若者相談電話サービス』と『若者更生支援プログラム』。そう書かれた2つの冊子を少年に渡す、呆然としていた少年は恥ずかしそうにその冊子を握りしめて書類を書きに行った。
(やれやれ、いくら強がっていてもまだ子供ですね。)
嵐のような復讐者が去り、窓口に一瞬の静寂が訪れる。
私は眼鏡を指先で押し上げ、時計を見た。
17時01分。
「……あー、1分越えた。残業代、出るかな」
小さくため息をつき、引き出しから一錠の胃薬を取り出して飲み込んだ。
まだ隣の窓口で「私が真の恋人ですわ!」「いえ、私こそが真の恋人です!」と2人の貴族風美女が掴み合いの喧嘩を始めている。
中村 零乃主(ナカムラ ゼロノス)。
彼の定時退勤への戦いは、まだ始まったばかりだ。
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