第5話 3人の女神

グラウンドの端。

無駄に長い距離を走らされ、ようやく辿り着いた俺は――

1年生が、俺ひとりしかいないという事実に驚かされていた。


(……あれ?)


1回目の人生では、少なくとも俺を含めて6人はいたはずだ。

体操服の色を見れば学年はすぐ分かる。


2年生は青いライン、3年生は緑。

数えてみると――

2年生4人、3年生3人。合計7人。


……少なすぎだろ。


(いつから陸上部、こんな少数部隊になったんだ……)


だが、この状況には1度目の高校生活と一致する点もある。


――2年生が極端に少ないこと。


部長が嘆いていたのを、はっきり覚えている。


「……こ、こんにちは」


俺は看板の前に立っていた、部長らしき人物に声をかけた。

年上、運動部、人見知り。

この3点セットは普通にキツい。


「こんにちは。新入生は俺の後ろに立ってくれ」


「り、了解です」


言われた通り後ろへ回る。

その瞬間、校舎側から見慣れた3人が走ってくるのが見えた。


――ヤンデレ三銃士。


普通に見れば可愛い。

ほんとに、第三者として眺める分には。


「やば、可愛くね?」

「今年当たりじゃん」


先輩たちがざわつき始める。

……分かる。だが関われば分かる。地獄だぞ。


「1年生、俺の後ろに回ってね〜」


……なんか、部長さっきより声優しくない?

部長の一声で、3人が俺の後ろに並び、体育座り。

それを確認して、3年生、2年生も並び始める。


――1年生、俺たち4人だけ。


「よし、自己紹介からいこうか。

俺は部長の 氏原 海斗うじはら かいと。気軽に部長って呼んでくれ」


3年生、2年生が返事をし、まず3年生が立ち上がる。


「副部長の 桜 陽菜さくら ひな です。よろしく」


ショートボブの女性。

クールで落ち着いた雰囲気。

部長と正反対だな。


「……日向ひゅうが


……短っ。


3年生最後は無口な男子。

前髪が長く、目が隠れている。


(……走れるのか?)


俺は記憶を辿る。

部長も副部長も、1度目と同じ。

だが――日向は知らない。


「日向、もう少しまともに自己紹介できんのか……

まぁいい。次、2年生」


次に立ち上がったのは2年生。


「次期部長候補の 木村 小和きむら こより です!

みんなで頑張りましょー!」


ポニーテールの元気系女子。

見た目通り、明るい。


「次期副部長候補の 山岸 剛やまぎし たけし です!

楽しんでやるのが一番!レッツエンジョイ陸上!!」


……キャラ濃っ。

しかも英語で言うなら、陸上も英語で言え。


「……長谷川 蓮はせがわ れん

生意気なやつは嫌いなんで」


――来た。


刈り上げ、ヤンキー風。

1度目でも嫌味でプライドの塊。

年下に負けるのが死ぬほど嫌いな男。


嫌な記憶が蘇る。


「……井上 颯太いのうえ そうた

基本、年下嫌いだから」


知らない。

完全に新キャラ。

蓮と同類の雰囲気。


……嫌な予感しかしない。


「じゃあ次、1年生の男の子」


……はい、俺ですね。


「新入部員の木下 翔です。

精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」


完璧。

文句なし。

……蓮の睨みが気になるが。


「新入部員の 高橋 夏樹 です。

マネージャーとして入部しました。よろしくお願いします」


……ザワつきすぎ。


「新入部員の 如月 結衣 です。よろしくお願いします」


俺より雑なのに、反応デカすぎだろ。


「新入部員の 黒瀬 菜々 です。

陸上未経験ですが、頑張ります」


……流石だ。


「よし。じゃあ新入部員のタイム見ようか。

今日は50m走な。明日はリレー」


白線の引かれたコースに移動する。


「新入部員はランニングシューズで」


準備が整い、計測開始。

ストップウォッチは夏樹。


結衣、菜々が走り終え――

最後は俺。


「翔、いちについて……よーい……ドン!!」


全力で走り出す。


……が。


(……重い)


寝不足。

体が思うように動かない。


残り10m。


――その瞬間。


意識が、ぷつりと途切れた。



「……うっ……頭、痛てぇ……」


目を覚ますと、俺は自室のベッドにいた。

頭がズキズキと痛み、視界はぼんやり霞んでいる。


(……ここ、俺の部屋だよな……?)


何があったのか、どうしてここにいるのか。

考えようとした瞬間――


「翔!!」


「うおっ!?」


聞き覚えのある声と同時に、体に衝撃。

結衣が勢いよく抱きついてきた。


「ま、待て結衣……落ち着け。何があった?」


混乱した頭を無理やり整理しながら声をかける。


「部活の途中で倒れて……保健室に連れて行かれて……

親がいないって分かって……どうしようって……」


そう言った途端、結衣は大泣きし、さらに抱きついてくる。

……状況は分からない。

だが、なかなかに俺得な状態であることだけは分かる。


「大丈夫だって。俺、ほら生きてるし」


結衣の頭を撫で、落ち着かせる。


「……うぅ……」


ようやく泣き止んだ結衣に、俺も安堵する。

――と、ここで気づいた。


「……なんで俺、パジャマなんだ?」


「……き、着替えさせた……」


「誰得だよ!!」


いや、得するやつはいるな。

目の前に。


「な、何もしてないからな!!」


赤面して慌てる結衣を見て、本当に何もなかったことを察する。


「今、下で夏樹と菜々が晩ご飯作ってるから」


「……は?」


一瞬で頭痛が悪化した。


俺は飛び起き、そのままリビングへ向かう。

考えたら負けだ。


「あ、翔君!! 目覚めたんだね……良かった……」


「翔さん……!意識、戻ったんですね……!」


洗い物をしていた菜々と、料理を並べていた夏樹。

二人とも泣きながら俺に抱きついてくる。


……重い。


色んな意味で。


「大丈夫だから、ほんと。落ち着けって」


頭を撫で、ようやく三人とも正気に戻る。


「で……誰か説明してくれ」


話を聞くと――

俺は部活中に倒れ、保健室へ。

親に連絡が行ったが不在。

仕方なく三人で運び、看病し、晩飯を作ってくれたらしい。


……優しさの塊か。


「ありがとな。ほんとに」


「大丈夫だよ」


「気にしないで」


「お互い様です」


前世じゃ絶対に起こらなかった光景。

俺は心の中で、もう二度と同じ後悔はしないと誓った。

食卓には所狭しと料理が並ぶ。


「一緒に食おうぜ。俺一人じゃ無理だし」


「「「……うん!!」」」


隣の席争奪戦は起きたが、ここはキリがないので割愛しよう。



気づけば四人で楽しく食事。

あーんは当然三方向から飛んでくる。


(……朝まで死を覚悟してたのに)


話は部活、クラス、勉強。

盛り上がり、時計は22時を指していた。


「もうこんな時間か……大丈夫か?」


「私は平気」


「私も」


「私もです」


……親、理解ありすぎだろ。

三人を見送り、俺は片付けを始める。


「さて……やるか」


洗い物、拭き上げ、片付け。

気づけば23時。


(母ちゃん、偉大すぎる……)


布団に入り、今日は何も考えず眠ることにした。



――その頃。


俺は無性にイラついていた。

理由は、新しく入ってきた後輩――翔。


「なぁ颯太、あの翔ってやつ、ウザくね?」


「分かる。絞めとく?」


いや、それじゃつまらねぇ。


「てかさ、女の子当たりじゃね?

翔の看病してたって聞いたけど、どういう関係なんだ?」


「……それだ」


颯太の一言で、頭の中に閃く。


「――あの女共、さらっちまおうぜ」

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