第13話「戴冠式と、もうひとつの奇跡」

 戦争から一ヶ月後。

 フェンリル王国では、初代女王リアの戴冠式が行われていた。

 街は花と魔法の光で彩られ、国中から、いや隣国からも多くの来賓が訪れている。

 マルコ商会は特設屋台を出し、ガルドは記念の花火(ドワーフ製爆竹の改良版)を打ち上げ、シルヴィアたちは精霊の舞を披露している。


 俺はというと、王宮のテラスからその様子を眺めていた。

 もちろん、首には真新しい『王国の守護獣』としての首輪(最高級魔石付き)が輝いている。

 リアがバルコニーに出てきた。

 純白のドレスに、マナの結晶で作られたティアラ。

 息を呑むほど美しい。


「フェン、ここにいたのね」


 彼女は俺の隣に座り込み、いつものように背中を撫でた。


「疲れた?」


「わふ(ちょっとだけな)」


「ふふ、ご苦労様。あなたのおかげで、こんな素敵な景色が見られたわ」


 リアは街を見下ろす。

 そこには、人間、エルフ、ドワーフ、獣人、皆が笑顔で酒を酌み交わす光景があった。

 理想郷。

 俺たちが夢見た場所だ。


「ねえ、フェン。私、ずっと考えていたことがあるの」


 リアの表情が少し真剣になる。


「あなたの呪い……いえ、転生の秘密について」


 ドキリとした。


「あなたが元人間だってこと、なんとなく気づいてた。だって、行動が人間臭いし、私の言葉を全部理解してるし」


 バレてたか。

 まあ、隠す気もなかったが。


「古代遺跡の資料を読んでわかったの。高位の神獣は、契約者の魔力が最大に達した時、一時的に『人の姿』を取ることができるって」


 なにっ!?

 初耳だぞ。

 あの女神、説明書を読み飛ばしたな?

 リアは俺の顔を両手で包み込んだ。


「私、今ならできる気がする。私の全ての魔力を使って、あなたに本来の姿を……いえ、お話ができる姿をプレゼントしたい」


 それは、彼女の魔力をほとんど使い果たすことを意味するかもしれない。

 だが、彼女の瞳は決意に満ちていた。

 俺は目を閉じ、彼女に委ねた。


「光よ、理(ことわり)を超えて奇跡を紡げ。『メタモルフォーゼ』!」


 温かい光が俺を包む。

 体が縮んでいく感覚。

 骨格が変わり、毛皮が消え、肌の感覚が戻ってくる。

 光が収まると、俺は人間の男の姿で立っていた。

 前世の冴えないおっさん姿ではない。

 銀髪の、長身で整った顔立ちの青年だ。

 神狼フェンリルの擬人化バージョンといったところか。


「……しゃべれるか?」


 自分の口から出た言葉に驚く。

 懐かしい、人間の声だ。

 リアが顔を赤くして、俺を見上げている。


「……かっこいい。想像以上にかっこいいわ、フェン」


 俺は自分の手を見つめ、そしてリアを抱きしめた。

 もふもふじゃなくても、彼女の温もりは変わらない。


「ありがとう、リア。君に会えて本当によかった」


「私も……私もよ、フェン」


 二人はバルコニーで、月明かりの下、静かに寄り添った。

 もちろん、変身時間は限られているし、俺の中身は相変わらず「お腹を撫でられたい犬」のままだ。

 翌朝には元の姿に戻って、庭でボール遊びに興じることになるだろう。

 だが、それでもいい。

 俺たちはこれからも、この国で、二人三脚(いや、一人と一匹)で歩んでいくのだから。


「さあ、みんなが待ってる。行こうか、女王陛下」


「ええ、行きましょう。私の騎士様(ワンちゃん)」


 俺たちは手を取り合い、光の中へと歩き出した。

 これが、無能と呼ばれた令嬢と、チートな犬の成り上がり建国記。

 めでたし、めでたし……いや、物語はずっと続いていく。

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