第11話「目覚める竜と古代の記憶」

 王都から戻った俺たちを出迎えたのは、平穏な日常ではなく、緊急警報だった。


「フェン! リア! 大変です!」


 ガルドが工房から飛び出してくる。


「森の奥にある遺跡が……勝手に光り始めたんだ!」


 森の最深部には、誰も近づかない古い遺跡がある。

 そこは強力な結界で封印されており、俺たちも放置していた場所だ。

 それが反応したということは、外部からの干渉があったということだ。


「公爵の仕業ね」


 リアが確信を持ってつぶやく。

 王都での諜報活動で、公爵が『竜の鍵』を持ち出したという情報を掴んでいた。

 彼は自分たちの手に負えない力を利用してでも、リアを消し去ろうとしているのだ。

 愚か者め。


 俺たちは直ちに遺跡へと急行した。

 現場に到着すると、そこにはすでに公爵配下の魔導師部隊が展開し、封印の解除式を行っていた。


「やめなさい! 何をするつもり!?」


 リアが叫ぶ。

 魔導師の一人が振り返り、狂気的な笑みを浮かべた。


「遅いですよ、お嬢様。閣下の命令により、この地を浄化させていただきます。すべてを灰にする炎でね!」


 最後の詠唱が完了する。

 遺跡の石扉が砕け散り、地響きと共に巨大な影が解き放たれた。


『エンシェント・ドラゴン』。

 体長五十メートルを超える、赤黒い鱗を持つ伝説の怪物だ。

 その咆哮一発で、周囲の木々がなぎ倒され、魔導師部隊など一瞬で炎に包まれて消滅した。

 自分たちが呼び出したものに殺される。

 自業自得だが、笑ってはいられない。

 ドラゴンの凶悪な瞳が、俺たちを捉えた。


【クエスト発生:エンシェント・ドラゴンを鎮圧せよ】

【報酬:スキル『竜言語』、竜の素材一式、リアの覚醒】


 無理ゲーだろ、これ。

 だが、逃げるわけにはかない。

 背後には俺たちの国がある。

 住民たちがいる。


「フェン、行くわよ」


 リアの声には迷いがなかった。

 彼女は杖を構え、俺の背に飛び乗る。


「わふ!(合点承知!)」


 俺は咆哮し、『身体強化(極)』を発動させた。

 白い閃光となってドラゴンに肉薄する。

 ドラゴンがブレスを吐く。

 すべてを溶かす灼熱の炎だ。

 リアが叫ぶ。


「『絶対零度の盾(アブソリュート・シールド)』!」


 氷の壁が展開され、炎と衝突して爆発的な水蒸気を生む。

 視界が遮られたその隙に、俺はドラゴンの懐へ潜り込んだ。

 足元を狙って爪を振るう。

 硬い鱗だが、俺の爪も伊達じゃない。


 ガリィッ!


 鱗を裂き、肉をえぐる。

 ドラゴンが悲鳴を上げ、尻尾で薙ぎ払おうとしてくる。

 俺は空中で身をひねり、それを回避すると同時に、リアが追撃を入れる。


「風よ、刃となりて切り裂け! 『ストーム・ブレード』!」


 真空の刃がドラゴンの翼膜を切り裂いた。

 飛べなくなれば、ただのデカいトカゲだ。


 だが、腐っても古代竜。

 全身から魔力を放出し、範囲攻撃を仕掛けてくる。

(ドラゴンの強固な魔力障壁により、魔法が通じない)

 俺たちは防戦一方になるかと思われたその時、俺の脳内に不思議な記憶がフラッシュバックした。


 かつて、このドラゴンと戦った記憶。

 いや、俺の記憶じゃない。

 これは『フェンリル』としての遺伝子記憶か?


『我は守護獣。邪悪を滅ぼす牙なり』


 本能が告げる。

 こいつの弱点は、喉元の逆鱗だ。


『リア! 喉元だ! あそこにあらゆる魔力を一点集中させろ!』


『わかった!』


 俺は瓦礫を蹴り、ドラゴンの頭上高くへと跳躍した。

 ドラゴンが上を向き、俺を噛み砕こうと大口を開ける。

 その瞬間、喉元の鱗が一枚だけ色が違うのが見えた。


「今だぁぁぁ!」


 俺は重力を利用して落下しながら、口内へ飛び込む……フリをして、鼻先でフェイントをかけ、首筋へ回った。

 リアが杖の切っ先を逆鱗に突きつける。

 全属性のマナが、その一点に収束する。


「眠りなさい! 『エターナル・スリープ』!」


 攻撃魔法ではない。

 封印魔法だ。

 殺すのではなく、再び眠らせる。

 それがリアの選んだ道だった。


 強烈な光が溢れ、ドラゴンの動きが止まる。

 その巨体がゆっくりと崩れ落ち、地響きと共に沈黙した。

 石のように固まり、再び長い眠りについたのだ。


 戦いが終わった静寂の中、遺跡の奥から光の粒子が漂い出てきた。

 それはドラゴンの魂の一部か、あるいは遺跡の管理者か。

 光はリアの前で人の形をとり、優しく微笑んだ。


『見事だ、新たな契約者よ。そなたの優しさが、怒れる竜を鎮めた』


 その光景を見て、俺は悟った。

 リアこそが、この土地の真の継承者であり、古代の王族の血を引く者だったのだ。

 公爵家など、ただの管理人に過ぎなかったということだ。


「力を授けよう。この地を守るための力を」


 光はリアの胸に吸い込まれていった。


【クエスト達成!】

【リアがスキル『古代魔法』を習得しました】

【フェンの種族が『神狼(フェンリル・ゴッド)』に進化しました】


 俺の体が熱い。

 さらに大きく、強靭になっていく感覚。

 毛並みはプラチナのように輝き、ただ立っているだけで周囲の魔素を従えるほどの存在感。

 もはや犬ではない。

 神だ。


「フェン……あなた、すごく綺麗」


 リアが俺の首筋に抱きつく。

 疲れ切っているはずなのに、彼女の表情は晴れやかだった。

 これで、公爵家の最後の切り札も封じた。

 あとは、彼らとの決着をつけるだけだ。


 俺たちはドラゴンの石像を背に、凱旋した。

 住民たちが歓呼の声で迎えてくれる。


 だが、休む暇はない。

 ついに王国軍本隊が、この森へ向けて進軍を開始したという知らせが届いたのだ。

 一万の大軍勢。

 対するこちらは数百の亜人と一匹の犬。

 数字だけ見れば絶望的だ。

 しかし、俺たちは笑っていた。

 勝てる気しかしない。

 だって、今の俺たちは無敵だからだ。

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