第5話「エルフの迷子と開拓の日々」

 ガルドが仲間になってから一週間。

 拠点の様相は劇的に変化していた。

 洞窟の前に、立派なログハウスが建ったのだ。


 ガルドの指揮のもと、俺が木材を切り出し(爪で一撃だ)、リアが魔法で加工し、ガルドが組み上げる。

 驚異的なスピードで完成したその家は、温泉熱を利用した床暖房完備、広々としたリビング、そして俺専用のふかふかベッドまである。


「最高だわ……!」


 リアは完成した家の前でくるくると回って喜んでいる。

 ガルドも満足げにジョッキを傾けている。


「いい仕事だった。素材がいいと腕が鳴るわい」


 森の木材は魔素を含んでいて硬く、建材として最高級らしい。

 俺も新しいベッドの寝心地を確認し、満足してあくびをした。


 さて、生活基盤は整った。

 次は畑だ。

 食料自給率を上げなければならない。

 ガルドの荷車にあった野菜の種と、森で採取した果実の苗がある。

 俺たちは川沿いの平地を開墾することにした。


 俺が前足で土を掘り返し(これがまた楽しい。犬の本能が満たされる)、ガルドが作ったクワでリアが畝(うね)を作る。


「よいしょ、よいしょ」


 リアが汗を拭きながら作業する姿は、深窓の令嬢だったとは思えないほど逞しい。


【クエスト発生:畑を完成させ、最初の作物を収穫せよ(魔法による促進可)】

【報酬:豊穣の女神像、農業スキル(中級)、野菜セット】


 魔法で促進可、というのがポイントだ。

 リアの土魔法と植物魔法があれば、成長速度を早めることができるはずだ。


「リア、ここに魔力を流してみてくれ」


 俺は植えたばかりの種の上で吠えた。

 リアは頷き、手のひらを地面に当てる。


「大きくなあれ……美味しくなあれ……」


 彼女の祈りと共に、優しい緑色の光が土に染み込んでいく。

 すると、信じられない光景が広がった。


 土が盛り上がり、芽が出て、みるみるうちに茎が伸び、葉が茂る。

 数分もしないうちに、立派なラディッシュや葉野菜が収穫可能なサイズに育ってしまったのだ。


「ぶっ!」


 見ていたガルドが酒を吹き出した。


「おいおいおい! 成長促進ってレベルじゃねぇぞ! 時を飛ばしたんか!?」


 リア本人もきょとんとしている。


「あはは……ちょっと魔力を込めすぎちゃったかしら」


 彼女の『全属性適性』には、どうやら精霊たちの過剰なサービスがついているらしい。

 ともかく、これで新鮮な野菜も確保できた。

 その日の夕食はサラダ祭りと相成った。


 平和な日々が続くかと思われたが、やはりこの森は甘くない。

 翌日、俺が森の奥へ狩りに行っている時だった。

 不穏な気配を感じた。

 殺気ではない。

 混乱と、焦燥の気配だ。


 俺は匂いをたどって茂みを抜けた。

 そこには、木の上で震えているエルフの少女の姿があった。

 下には三匹のウルフが牙を剥いて待ち構えている。

 エルフは弓を持っているが、矢が尽きたのか、あるいは恐怖で射てないのか。


「うぅ……助けて……こっちに来ないでぇ……」


 金色の長い髪、尖った耳、緑色の狩猟服。

 典型的なエルフだ。

 だが、何かがおかしい。

 彼女、木の上から降りるに降りられず、涙目で完全にパニックになっている。

 俺はウルフたちの背後に音もなく近づき、『威圧』を放った。


「グルゥ……」


 ウルフたちは弾かれたように振り返り、俺の姿を見るなり「キャン!」と悲鳴を上げて逃げ出した。

 同じ犬科として、格の違いを理解したようだ。

 俺は木の下に座り、エルフの少女を見上げた。


「わん(降りてこい)」


 少女はおずおずと下を覗き込む。


「あ……狼さん……? 助けてくれたの?」


 彼女は恐る恐る木から降りてきた。

 着地した瞬間、俺のモフモフした毛並みに目を奪われたようだ。


「か、可愛い……!」


 エルフってやつは、どうしてこうも警戒心が薄いのか。

 彼女はシルヴィアと名乗った。


 話を聞くと、森のエルフの集落から薬草を採りに出たものの、極度の方向音痴のため帰り道がわからなくなり、三日間も彷徨っていたらしい。


「北に向かっていたはずなのに、いつの間にか南にいて……太陽が勝手に動くんです」


 いや、太陽は動くものだが、君の体内コンパスが壊れているんだな。


【クエスト発生:シルヴィアを保護し、仲間に加えよ】

【報酬:弓術スキル(伝授可)、精霊の加護、シルヴィアの忠誠】


 弓の名手であるエルフも戦力としては大きい。

 特に遠距離攻撃と索敵能力は、森での防衛戦において重要だ。


 俺はシルヴィアを拠点へと案内した。

 途中、彼女は何度も違う方向へ歩き出そうとするので、その度に服の端をくわえて引き戻さなければならなかった。

 手のかかる子だ。


 拠点に着くと、リアとガルドが温かく迎えてくれた。


「まあ、エルフの方! 大変でしたね」


 リアがタオルとスープを差し出す。

 シルヴィアは感激してスープを飲み干した。


「美味しい……! こんな文明的な味がするなんて……」


 彼女はすっかりこの場所が気に入ったようだ。


「あの、私、帰り道がわかるまで……いえ、しばらくここに置いていただけませんか? 弓なら自信があります! 狩りもお手伝いしますから!」


 こうして、方向音痴のエルフ娘が仲間に加わった。

 彼女の弓の腕は確かだった。

 百メートル先の木の実を射抜くことができる。

 ただ、一人で森に行かせると帰ってこられなくなるので、必ず俺か誰かが付き添う必要があるという欠点付きだが。


 賑やかさが増した拠点。

 だが、人が増えれば噂も広まる。

 森の入り口付近で、俺たちの存在を目撃する者が現れ始めていた。

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