第6話「森の噂と黒い影」

 俺たちの「国」は順調に拡大していた。

 ガルドが工房を建て、シルヴィアが見張り台を作り、リアが畑を拡張する。

 俺はもっぱら現場監督と、夜のモフモフ担当だ。


 ある日、ガルドが深刻な顔で俺に話しかけてきた。


「フェン、最近、森の入り口あたりで妙な連中を見かける」


「わふ?(妙な連中?)」


「冒険者崩れというか、ゴロツキというか。俺たちがドワーフの道具や、珍しい野菜を持っているという噂を聞きつけたらしい」


 なるほど。

 豊かになれば、それを狙うハイエナも現れる。

 ガルドが行商人に卸した商品が、街で評判になりすぎたのかもしれない。

 特にリアが魔法で育てた野菜は「マナ野菜」として高値で取引されているらしい。


「そろそろ、防衛策を本格的に考える時期だな」


 俺はガルドに頷いた。

 現在、拠点の守りは結界石と俺の索敵能力、そしてシルヴィアの弓に頼っている。

 だが、組織的な襲撃があれば手薄だ。


【クエスト発生:防衛設備を強化し、自警団を組織せよ】

【報酬:ゴーレム生成スキル、監視カメラ(魔法具)、結界強化】


 神託も同じ意見らしい。

 俺はリアを呼び、相談(という名のスキンシップとジェスチャー)を行った。


「わかったわ。フェンが心配してるのは、悪い人たちが来ることね?」


 リアは聡明だ。

 すぐに状況を理解し、表情を引き締めた。


「私、もっと強くなる。みんなを守るために」


 彼女の決意に呼応するように、俺のスキルが新たな可能性を提示する。

『ゴーレム生成』。

 土魔法の応用で、自律的に動く泥人形を作れるスキルだ。

 リアなら、強力なゴーレムを作れるはずだ。


 俺たちは森の入り口に近い広場で、ゴーレム作りの特訓を開始した。


「土よ、我が意思に従い、形を成せ!」


 リアが地面に手をつく。

 土が盛り上がり、人の形をとっていく。

 だが、出来上がったのは無骨な泥人形ではなく、なぜか俺(犬)の形をした可愛らしい土人形だった。


「あ……ごめんなさい、ついフェンのことを考えちゃって」


 まあいい。

 可愛いが見かけによらず強いかもしれない。

 試してみると、その『わんこゴーレム』は驚くべき機動力で動き回り、岩をも砕くパワーを見せた。

 これを量産すれば、立派な警備隊になる。


 俺たちは十体ほどのわんこゴーレムを配置し、森の要所に監視網を敷いた。

 そんな準備を進めていた矢先、森の外から本当の「悪意」が近づいてきた。

 シルヴィアが見張り台から駆け降りてくる。


「フェン! リア! 大変です! 武装した集団がこっちに来ます!」


「人数は?」


「二十人くらい……いえ、もっといます! しかも、あの紋章……」


 シルヴィアの顔色が青ざめている。


「ベルンシュタイン公爵家の紋章旗を掲げています」


 リアの肩がビクリと震えた。

 ついに来たか。

 実家の追っ手だ。


 追放したはずの娘が、森で生き延びているだけでなく、豊かな資源を独占しているという噂を聞きつけたのだろう。

 あるいは、「無能」の再調査か。

 どちらにせよ、ろくな用件ではない。

 リアが俯く。


「私のせいだ……みんなに迷惑をかけちゃう」


 俺は彼女の足に体を擦り寄せた。

 顔を上げろ、リア。

 お前はもう、無能な追放令嬢じゃない。

 この国の、俺たちの女王だ。


「フェン……」


 リアが俺の目を見る。

 そこにはまだ不安があるが、同時に強い光も宿っていた。


「そうね。ここは私たちの家。誰にも渡さない」


 ガルドが巨大な戦鎚(ウォーハンマー)を担いで出てきた。


「おうよ。せっかく建てた最高傑作を壊されてたまるか。ドワーフの意地を見せてやる」


 シルヴィアも弓を構える。


「私も戦います! 帰り道を教えてくれた恩、返します!」(まだ帰れてないが)


 俺たちは迎撃の準備を整えた。

 相手が公爵家の私兵団だろうと関係ない。

 ここに入り込む者は、ことごとく排除する。

 俺は喉の奥で低く唸り、戦闘態勢に入った。

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