第7回 捕食対象
-2071年4月10日
カマルマン事案から一夜明けた今日、防衛省主導による緊急会議が開かれた。
内容はもちろん、「アレ」についてだ。
内閣府地下会議室。
重い防音扉が閉じた瞬間、そこにいた全員が同時に息を吐いた。
「……改めて確認する。昨日出現した巨大人型存在についてだ」
小林総理の声は、いつもより低かった。
巨大スクリーンに映し出されるのは、黄金と黒に纏われた80メートル級の人型生命体——国連通称:カマルマン。
静止画ですら、この場の空気を支配するには十分すぎた。
「壊獣は完全に無力化。死者はゼロ。被害は最小限……結果だけ見れば“成功”だ」
そう言いかけて、防衛大臣の黒田が言葉を切る。
「だが問題は、その“成功”を誰が成し遂げたのか、だ」
一瞬、沈黙が落ちる。
誰もが理解している。自衛隊でも、国連でも、日本政府でもない。
「第0種特異巨大生物の再分類を提案します」
星野が淡々と口を開いた
「従来の第0種は“対処不能想定”。しかしカマルマンは違う。“対処不要”です。脅威である前に、我々の枠組みの外にいる存在です」
「管轄外、ということか?」
「はい。彼は我々の要請を受けていない。ただ現れ、壊獣を倒し、持ち去った」
その言葉に、場がざわつく。
「持ち去った……?」
黒田が眉をひそめる。
「追加報告があります」
星野が操作すると、スクリーンの映像が切り替わった。そこに映し出されたのは、月面軌道上からの高解像度観測映像だった。
「壊獣の残骸が地球に落下した痕跡はありません。代わりに、カマルマンは壊獣を抱えたまま月方向へ離脱しています」
数名が息を呑む。
「そして——」
映像が進む。
月面。クレーターの縁に立つカマルマンの姿。
その足元には、解体された壊獣の残骸。
「……壊獣を捕食する行動を確認しました」
一瞬、誰も言葉を発せなかった。
「壊獣は、彼にとって——」
星野が言葉を選びながら続ける。
「“討伐対象”ではありません。“捕食対象”であると、結論づけられます。」
俺は背筋が冷えるのを感じた。
壊獣を倒した理由。
人類を守ったように見えた行動。
そのすべてが、偶然の副産物だった可能性。
そして、最初の槍の攻撃が、カマルマンによるものだと言う状況証拠の完全証明。
「つまり……」
誰かが絞り出すように言う。
「我々は、捕食者の狩場の中にいただけだと?」
俺は口を開いた。
「少なくとも、彼は人類を基準に行動していない」
視線が集まる。
「彼にとって壊獣は“資源”だ。そこに人類がいたかどうかは……重要ではない」
会議室が静まり返った。
「では、彼は敵か?」
小林総理が問いかける。
俺は首を横に振った。
「分かりません。ただ一つ言えるのは——」
言葉を区切る。
「彼は守護者ではない。だが侵略者とも断定できない」
星野が小さく付け加えた。
「生態系の上位的存在……それが一番近い表現かもしれません」
小林総理はしばらく黙り込んだ後、静かに告げた。
「情報統制を続ける。存在は公表するが、評価は保留だ」
会議はそれで終わった。
廊下に出た瞬間、俺は大きく息を吐いた。
「……秋山大臣」
星野が隣に立つ。
「私はアレの存在に怯えています。大臣はアレが怖くないんですか?」
少し考えてから答えた。
「怖い。でも怖いのはアレ自体じゃない」
「?」
「本当に恐ろしいのは、“アレがいない世界”に、もう戻れないことだ」
現場にいた人間は全員理解していた。
彼が知的生命体であるならば、人類の地位は揺るがされる。
"カマルマン"は既に人類の理解を超えた高度な生命体であることに間違いはないからだ。
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