第6回 月の狩人

衝撃波で気絶していなかった俺を含んだ数名は300m先に壊獣の前に立つ80mはあろう黄金と黒に纏われた美しすぎる巨人を目撃した。


星野が俺の耳で静かにこう呟いた。


「秋山さん...あれが<カグヤ>....いや、国際連合基準に合わせてこう呼びましょう...あれがカマルマンです...」


「カマル...マン....」


俺は立ち尽くし、ただ見ていることしかできなかった。そうこうしていると、カマルマンが壊獣に向かって「狩り」のような行動をしはじめた。

レーダーには映る。

衛星映像にも残る。

ただ、あれが何者なのかという問いだけが、常に空白のまま。


80メートル級の人型。

見たところ、装甲なし、武装なし、衣服なし。

にもかかわらず、壊獣と対峙した瞬間、戦況は一方的に傾く。

腕を伸ばし、壊獣の角を掴み、体勢を崩す。

殴打でも投擲でもない。

関節、重心、呼吸——

壊獣という生物の「壊し方」を、最初から知っているような手つきだった。

壊獣の血が流れる。

だが彼はそれを誇示しない。


そして壊獣が倒れるとき、カマルマンは追撃をしない。完全に動かなくなるまで、ただ立って見ている。それは勝利の確認にも見えない。

哀悼にも見えない。ましてや怒りではない。


「処理」

あるいは

「完了」


そう呼ぶのが、最も近いのかもしれなかった。


俺はそれをただ呆然と立ち尽くして見ているしかなかった。ただその存在に圧倒された。


そして彼は倒した壊獣の残骸を持ち、空へと飛び去った。


「なぁ、星野。今の見たか。」


「はい...まるで狩りのような...」


どうやら星野も同じく彼の行動に「狩猟」を見出したらしい。星野もこの状況に立ち尽くすことしかできなかったのだろう、言葉が詰まっている。


「でも、確実に言えることがあります」


ゆっくりと星野は口を開く


「...彼にはやはり知性がある...。」


国連が旧人類の仮説を建てたとはいえ、はっきりした証拠がない限り彼の扱いは第0種特異巨大生物、いわば壊獣だ。

だが星野の脳内でも彼が知的生命体であることが疑問から確信に変わったのだろう。

当の俺はただひたすら行動と容姿が美しいとしか思わなかったが。

しばらくそうして二人で呆然としていたが、急にハッとした。


「避難住民の人数確認、完了してるか?!」


無線で避難所に急いで連絡する


「登録住民70万人、全員保護完了、怪我人10名、死者は0です」


そう聞いた瞬間ホッとした。いや、壊獣事案で初の怪我人が出ているのは耐え難い事象ではあるが、実際上陸が予想できず、さらに政府の対応が遅れたこの状況での怪我人10名は、許容範囲であろう。何はともあれ、本部の自衛隊の兵器の到着が確実に遅れていたであろうあの状況で、あの謎の巨人が壊獣を倒してくれたおかげで得られた結果でもある。


そうとわかればすぐに内閣府へと連絡し、状況報告をしなければならない。


「ありがとう。内閣府に伝える」


さて、内閣府に伝えた後が我々の仕事だ。

今度はカマルマンの映像、その他の観測結果を研究しなければならない。そこまでは日本政府特巨庁の仕事だ。それで結果報告、情報制限からは国連の仕事になるのだが。


「星野、他のメンバーにも伝えて急いでヘリで内閣府へ戻るぞ」


「了解です。私は早くカマルマンの研究がしたくてたまらない...」






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