第3話 金曜日の天気・照也の事情

 照也は部屋で、せっせと「てるてる坊主」を作っていた。


 金曜日は雨の予報だ。

 雨だとマラソン大会が中止になってしまう。

 大会が注意が中止になったら、天野大雅との対決も流れてしまう。


 照也は小さい頃から運動が得意だった。


 小学校の6年間、徒競走でもリレーでも敗けたことは無かった。

 水泳も球技もマラソンも、とにかく出れば全部優勝で、照也はずっと学校のヒーローであり続けた。


 女の子からの人気もあった。

 2月のバレンタインデーには、手提げ袋いっぱいのチョコレートを、もらって帰ったものだった。


 中学に入って、あちこちの運動部から声がかかったけど、どの部活も長続きしなくて、今はフリー帰宅部だ。


 どこの部も基礎練習だとか言って、走らされたり筋トレさせられたりで練習がつまらない。

 それにどこの部も一年生は、道具の準備や片付けとかを当然のようにやらされるし。


 それって理不尽だろ?


 本当のことを言ったら、先輩にもコーチにも注意された。

 だから全部辞めた。


 いいんだ。

 俺は部活動じゃなくても、俺の力を発揮できる。

 体育祭も球技大会も、部活動は関係無い。


 そう思っていたのに、あいつが急に現れた。

 天野大雅。


 特に目立って何かするわけじゃ無い。

 ごくごく普通の生徒。

 なのに体育系となると、こいつは変に力を出しやがる。


 飄々ひょうひょうとしながら、勝ちを取っていって、体育祭も球技大会も、こいつの活躍でクラスは常に3位以内だ。


 だから運動部も黙っていない。

 あちこちから声がかかるようだが、全部断っているらしい。


 その理由が、母親が病弱で家事を手伝っているから、とか何とか。

 実際、商店街で買い物していたり、妹を連れて歩いている様子は、照也も見かけていた。

 

 そんなところが同情を呼んでいるのか、あいつは女子に人気がある。

 彼氏にするとかそういうのじゃ無いけど、「可愛いー」とか「優しー」とか騒ぐ対象になっているというか?


 さらにその上、成績が良い。

 どうやら常に学年で20位内には居るらしい。

 成績なんて、後ろから数えた方が早い照也にとって、その順位は未知の世界だ。

 塾に通っているようでも無さそうだから、実はもっと頭が良いのかもしれない。


 照也には納得ができなかった。


 何だよ、それ。

 美味しいトコロばっかもっていきやがって。


 だから、天野大雅は宇宙人だと思うことにした。

 だってそうだろ?

 デキすぎてんだよ、あいつは。


 てるてる坊主は5個できた。

 針金ハンガーに全部くくり付けて、ハンガーを窓ぎわのカーテンレールに下げる。


「頼むぞ、てるてる」


 自分の名前も「照る」だからか、照也は小さい子供の頃から、てるてる坊主の力を信じていた。

 「晴れ」の願いはいつもてるてる坊主に託して、これまでハズレたことは無い。


 だから今回も信じている。

 照也は下げたてるてる坊主に向けて、手を合わせた。

 

 

 

「どこ行くの? 照也」

 家を出ようとしたら、母ちゃんに見つかってしまった。

「走りに行くんだよ、もうすぐマラソン大会だからさ」

 母ちゃんは「むっ」と口を曲げる。


「マラソンもいいけど、あんた少しは勉強しなさいよ。もう2年生なんだし、来年は高校受験でしょ? どこにも行けなくなるよ!」

 出た、説教モード。

 だが母ちゃん、安心しろ。

 俺だってちゃんと考えている!


「心配すんなよ母ちゃん、俺は体育系の高校に推薦入学するんだ! だからそのためにも、マラソン大会で優勝して実績を作るんだ!」

 照也が胸張って進路を語ると、母ちゃんは目をまん丸にした。

 どうだ母ちゃん! 驚いただろう!


「……情けない」

 へ?

 今度は照也が目を丸くする。


「何でも簡単に考えて、それで済むと思ってんのが情けないよ。やりたくないことから逃げてるだけだろ? そんなことで、どこにも行けなかったらどうすんだい?」

 照也はグッと言葉に詰まる。

 

「いいよ! そしたらこの店継いでやるよ!」

「その考えが情けないって言ってんのが、分かんないのかい!」


 母ちゃんが本気で怒りだしてしまった。

 店の方では、父ちゃんが道具の片付けをしているようだ。

 これで父ちゃんまで加わったら、かなり面倒くさい。

 照也は母ちゃんの小言を振り切って、家を出た。


 照也の家は和菓子屋だ。

 「うぐいす屋」という名で、祖父じいちゃんの代から、駅前商店街で店を構えている。


 和菓子屋の子供で、得だと思ったことなんて、一度も無い。

 餡子あんこよりもチョコが好きだし、饅頭まんじゅうなら中華まんの方が好きだ。


 菓子屋なら洋菓子のケーキ屋だったら良かったのに。

 だったら店を手伝っても良かった。

 パティシエの方がカッコいいし、女の子にだってぜったいモテる。


 アーケードの商店街を走り抜けると、一気に冷たい風がおしよせる。

 河川敷はもっと寒いかもしれない。

 照也はジャージの襟を立てると、川に向かって走って行った。




 「何だ、あれ」

 

 大雅は目を見開いた。

 教室の窓に、何やらたくさんぶら下がっている。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天野さんちとてるてる坊主 矢芝フルカ @furuka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画