第2話 金曜日の天気・咲良の事情

「諸君、見たまえ。わたしは地球の天候操作装置を手に入れた」


 ババン! と、咲良が手にしていたのは、白い紙をキュッと絞ったような形のもので、丸くふくらましたところに、目と口のようなものが書かれている。


「その名も『てるてる坊主』。これを軒下に吊るしておくと、天候が変わり『晴れ』となる装置なのだ」

「おおーっ!」

 大雅とパパは同時に歓声を上げた。


「天候操作だなんて、地球人の科学力もなかなか侮れませんね」

 メカに詳しいパパは、すでに興味津々の眼差しだ。


「ママ、とりあえず視認で分析して」

 パパの指示に、ママがてるてる坊主をじっと見つめた。

「……使用されている物質は主に紙パルプです。他に木綿糸、水性インキが検出されました」


「まぁその通りだ。結菜ゆいなちゃんと箱ティッシュで作ったのだからな」

「箱テッシュ! それは何か特別な……」

「いや、うちで使っているのと同じやつだ」

「スーパー恵比寿屋えびすやで売っている、5箱288円のお買い得品ですね……」

 咲良の答えに、パパはテーブルにのっている、同じ箱ティッシュを見て唸る。


「あの……大佐、ただのティッシュにそんな威力があるとは、自分には思えないのですが……」


 大雅としては、金曜日はこのまま雨でいてほしい。

 咲良があきらめて、この「てるてる坊主」なるものを取り下げてくれないかと思った。


「それはわたしも考えた。だがな軍曹、このてるてる坊主は、結菜ちゃんだけではなく、りょう君やみおちゃんとも一緒に作ったものなのだ。全員、てるてる坊主の威力に何の疑いも無かった。それだけでも、由々しき事象だとは思わないか?」


 てるてる坊主を高く掲げ、咲良は熱く語る。


「あの……大佐はなぜ、金曜日に晴れてほしいのですか?」

 そもそもの疑問を、咲良にぶつめてみる。


「金曜日は校外学習なのだ。『ふれあい自然公園』で動物の観察をするのだ。雨だと中止になってしまうのだ。ポニーに乗れなくなってしまうのだ」

「ポニー?」

「これですよ、軍曹。小さい馬ですね」

 首を傾げる大雅に、パパがスマホで画像を見せてくれた。

 

「ポニーの騎乗体験は、クラスで4人しか参加できないのだ。その熾烈な争いに勝ち残ったのだから、ぜひ乗りたいのだ!!」

 咲良が握り拳を力いっぱい振り上げる。


「……大佐、もしかして他の3人って……」

「うん。結菜ちゃんと、涼君と、澪ちゃんだ。勝ち残りジャンケンで、この4人が栄冠を手にしたのだ!」


 なるほど。

 ポニー騎乗権を獲得した4人で、その天候操作装置を作成したわけか……。

 大雅は「はぁ」とため息をつく。


「大佐、その、てるてる坊主を分解分析する許可を頂けないでしょうか?」

 パパが腕組みをして、何やら考えながら言った。

「そうしたいのだが、手元にはこれ一体しか無いのだ。これを分解してしまって、効果が薄れてしまったら困る」

「……それでは、金曜日の天気を確認した後の分析としましょう。その間、ママに船からの気象データを記録させ、どのように気象を変動させるのかデータを集めます」

 パパはさっそく、ママにパソコンをつないで準備を始める。


 咲良はベランダへ出て、軒下にてるてる坊主を吊るす場所を探しているようだが、背伸びをしても、どの場所も届かない。


「ほら、貸して」


 大雅は手を差し出した。

 金曜日を晴れにする手伝いなんて気が乗らないのだが、懸命に背伸びをする咲良を、ただ見ているわけにもいかない。


 大雅は重い気持ちを引きずるようにして、受け取ったてるてる坊主を、ベランダの物干し竿に端に引っ掛けた。


「ありがとう、大雅兄ちゃん」

 嬉しそうに笑う妹を見れば、引きずった気持ちが、ちょっとだけ跳ね上がる。


「当日はお弁当が必要なんだ。大雅兄ちゃん、作ってくれる?」

「いいよ。ツナマヨと鮭のおにぎりだろ」

「ううん、パンダのおにぎりがいい」

「……パンダ??」


 聞いたことが無い具材に、大雅は目を丸くする。


 え? パンダ?

 パンダってあの白黒のやつ?

 え? 食べるの? あれを?


 咲良は自分の学習用タブレットで画像を出して、大雅に見せる。

 可愛らしいパンダのおにぎりが、お弁当箱に収まっている画像が、いくつも並んでいた。


 えっと……これを作れと?


「……あー、でも咲良、うちにはお弁当箱が無いよ? だからこういうのはちょっと……」

 我ながらナイス言い訳! 


 けれど、目の前の咲良は「ニヤリ」と笑って、

「あるよ! 今日100均で買ってきたんだ!」

 と、キャラクターの絵がついた容器を「じゃん!」とばかりに両手で掲げる。

「フォークも買ったから、完璧!」

 同じキャラクターがついた、ケース付きのフォークも「じゃじゃん!」と掲げる。


 2個買っても税込み220円。

 咲良のお小遣いでも、充分に手が届く。

 恐るべし100均ショップ。


「パンダのおにぎり、作ってね」

 ニコッと咲良が笑った。


 これには逆らえない。


 逆らったとしても、次に来るのは上官命令だから、絶対に逆らえない……。


 やっぱり雨にならないかなぁ。


 大雅は声にならないつぶやきを漏らした。



つづく

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