第6話 狂気の沙汰
流れゆく風景、全身に襲いかかってくる風…まるで風になった様な気分だ!
…というのを今は通り越して、夜空の星になりそうな気分だ。
「グギギギッッッィィイ!!!」
顔に喰らっている暴れ狂う暴風で歯茎が剥き出しになり、まるでゴブリンの鳴き声みたいな声が漏れ出てしまう。
というかセフィは時速200kmと言っていたけど…大嘘じゃないか!
F1とか新幹線とかと同じ300…いや、体感ではそれより出ている気もする。
今着ている鎧が無ければ、多分体はとっくの昔に大破していたと思う。
流石に生身だと危ないので…と言われて渡されたのが、この鎧。
銘が入ってないものらしいけど、防御力は手持ちの中でもピカイチらしい。
そしてアメフトのヘルメットの様に、正面が鉄格子状のもので守られたものを被っている。
視界は良好、でもこの風からは守ってくれないのだ。
…終わった後、顔大丈夫かな?
『段さん聞こえますか』
何か声が聞こえてくる。
空耳?なんて思ったけど、流石に違うはず。
しっかりとセフィの声というのは分かったんだし。
そして応答しようと口を開くと…そこへ空気が濁流の様に入り込んでくるのだ。
…オエッと、少しえずいてしまい気持ちが悪い。
『今貴方へ言葉ではなく念話で語りかけています、なので喋らなくても大丈夫ですよ。
そちらで思い浮かべたものを私が読み取りますので』
彼女の言う通り、それは意識すると風の音とは別のところから入ってくるようにも思える。
まるで体の中の別人格が語りかけて来ている気分だ。
…別に二重人格持ちではないんだけどさ。
『…それで、何かあった?』
止めれるなら、早く止めて欲しい。
楽をしようとした俺が馬鹿だったから、もうそろそろ許してくれないかな!?
今の所ほぼ一本道でカーブがないから良いけど、障害物だったり崖があったら終わりだ。
『前方約30kmほど先に城壁が見えました。
多分、モンスターから街を守るためのものでしょう』
『まじか!?』
『ええ、大マジです』
いやそれは朗報…あれ?
30kmも先ではない、だって速度的にはすぐ着く。
それどころか、横を通り過ぎていく気が…。
『あの、これ止まれないんですけど…』
『ええっとですね…靴の側面に付いたスイッチを押さないとダメですね』
『…やってくれません?』
『嫌ですよ、土で汚れたり怪我するかもしれないじゃないですか』
……GG、良い旅でした。
俺、一生このままなのか。
いや先に燃料が切れるか、それともぶつかるかのレースが開催されるのだろうか。
俺は異世界でも芸術的な死に方を目指す…感じ?
そんな絶望を通り越して、もはや清々しい気分になっていた俺に、
『でもまだ手は…』
『早くッ!教えてッ!』
『…この道、坂じゃないですか。
なのでまずは思いっきりジャンプしましょう、スキージャンプみたいに。
そしたら背中にパラシュートを着けるので、それで着地して下さい。
空中にいる間に私が靴を止めますから』
彼女の提案に倒して食い気味に入っていくと、そんな作戦が教えられる。
…急に難易度上がったけど大丈夫だろうか。
確かに言われてみれば、体が坂を登っていっている様な気もする。
結構なだらかな丘という感じで、スピードは別に変わらなかったから気づかなかった。
正直足も限界を超えている気もする。
だって転んだら死、という感じの緊張感でずっとここまで来たのだ。
他に人が居なかったから巻き込まなかったのは良かったんだけどさ。
それはともかく成功するのだろうか?
…いや、
『…パラシュート貸して貰えますか?』
『もちろんですよ』
もう坂は目の前、挑戦するしか無いのだ。
…なんなら飛ぶ気が無くても、空を飛ぶハメになっていたかもしれないけど。
そして背中から漏れる光…ドンとリュックサックの様なものを背負い、体をベルトが締め付ける感覚がある。
手に持たされた紐は、きっとこれがパラシュートを展開するトリガー。
そして、
『我慢して…今ッッ!』
セフィの合図と共に、ジャンプをする。
全身は長い長い加速の果てに…地上にいる限り等しく受けるしか無いGに逆らい…空を目指す。
そして頂点に達しただろうか、体が墜落し始める前に、
バサッッ!
紐を思い切り引っ張り、パラシュートが開かれる。
体が地面では無く空に引っ張られるという初めての感覚。
その浮遊感に身を任せ、周りを見渡す。
俺達が歩いていた森は結構深かったらしく、空へ飛んでもその最奥は見えないぐらい。
眼下は森の青さが絨毯の様に広がっていた。
そうして移動していた道の先、あれが城壁だろうか。
まだ遠くではあるけども、しっかりと自分の目でも捉えた。
今まではルシェの分析を頼りにここまで来たから本当にあるか少し不安だった。
だから、こうして自分の目で見れると安心する。
『それじゃあ、靴の走行機能止めますね』
その念話通りに、セフィが空にいる俺の靴を触っていく。
いつの間にいたのか…全く分からなかった。
とはいえボタンを何回か押すだけで解除はできる…はずだ、起動の時と同じなら。
これであとは着地をするだけだ。
木の上に降りても死にはしないと思うけど、そこから降りるのは簡単ではない思う。
パラシュートの紐が枝と絡まったりというのもあるだろうし。
だから移動したい…のだけど、そんな便利機能はこのパラシュートに備え付けられていない。
そのため空中で体を動かしたり、糸を触ったりしてなんとか向きを変えていく。
風の力には抗えない、でも運が味方したのか綺麗に街道へ着地…
「ぐえっ」
最後の最後にパラシュートが木の枝へ引っかかり、宙吊り状態だ。
「あらら…アタシとセフィで外すからちょっと待っててね」
「…お願いします」
地面までは平屋の屋根に登った時の3か4mぐらいかな。
無理やり降りれるかもしれないけど、ここで捻挫しても困る。
まだまだ歩かないといけないんだし。
だからじっとして、救出を待つしか無いのだ。
「ありがとう」
「良いってことよ」
「無事で何よりです、これで随分短縮できましたね」
外してもらった後は、スルスルと木の幹を降りていくだけだった。
大変ではあったけど、確かに早くはあると思う。
二度とやりたくはないけど…。
これは確かにセフィが使わないのも分かる。
あんな新幹線と並走できるスピードなのに、止めるのは命懸けとかやってられない。
セフィがパラシュートをたまたま持っているおかげで助かっただけで…ん?
「あれ…セフィ、さん」
「なんでしょうか?」
「空が飛べて、ワープが使えるから乗り物を持っていないって言ってましたけど」
「はい、言いましたね。 つい数時間前に」
「じゃあ、なんでパラシュート持ってるんですか?
空飛べるなら…いらないですよね?」
それは素朴な疑問、でも尤もだと思う。
そして横から見ていたルシェは、やりやがったコイツという目で俺…では無くセフィを見る。
そんな2人の目を向けられた彼女は…そのまま横へプイッと顔を向けた。
「…悪気は無かったんです…よ?」
「いやっ、死にかけたんだけどね!?」
「セフィ…それはないわあ…」
約束isどこ!?
流石の天界スコアへの渇望の強さに2人ともドン引きだ。
もう怒りを通り越して、呆れてしまう。
何が彼女をそこまで駆り立てるのか、
「…ねえ、天界スコア1位になると何があるの?」
聞いてみることにした。
普段は冷静…に見える彼女、でもその行動の中心には全て天界スコアとやらが関わっている。
何故なのか、聞いてみる事にした。
それ次第で許す…訳にはいかないかもしれないけど…
「それはですね…創造神様のお側にいられるのです!」
「……は?」
「あの至高の美に、この世で一番崇高なお方っ!
それに時折見せる笑顔も素敵で…」
…少し聞いたのを後悔した。
思い切り地雷を踏み、手が出てくる…方では無く、出てくるのは口から創造神への賛美の言葉。
彼女はそんなキャラだったのだろうか。
さっきまでの彼女へ抱いていたイメージが、ガラガラと音を立てて崩れていく。
彼女は手に持った杖をギュッと握りしめたまま、恋する乙女の様な仕草で語りを続ける。
「ですが、あの女が……」
急に彼女は精神を一変させた。
どれだけの力が込められたのだろうか、ピキッと杖が音を立てる。
「ミカエル、あの女だけは…絶対に引きずり落とす。
そして、私が一番へ…」
なんだろう、この光景や雰囲気。
どこかで見たことがある、それも地球で。
……ああ、分かった。
SNSでたまに見かけた、同担拒否をする人間だ。
天使と人間という違う存在だけども、多分…同じなのだろう。
創造神の狂信者にして…多分同担拒否、それが彼女の素だった。
「協力して…くれますよね?」
「は、はい」
その圧を受けてNoという言葉が口から出るわけがない。
文句も言いたかったけれど、もうその気持ちはどこかへ消えた。
でも代わりといってはあれだけど、今度からは力を借りる時遠慮しないでおこうと思う。
あと、あの回復薬とかも。
こんだけ迷惑かけられたんだから…ね?
もちろん彼女が怖いから、直接は言わないんだけどさ。
ルシェは肩をすくめ、手をお手上げという感じに動かす。
雰囲気は長い付き合いみたいだし、彼女は知ってたんだろうなあ。
悪魔と天使が長い関係っていうのも不思議だけど。
そしてそんなルシェは、反転するとパタパタと翼で飛び始めたので俺はそれについていく事に。
その遠くには城壁が…そして多分第一異世界人?が待っている。
「それに創造神様は…」
後ろでまだ創造神の魅力を語っているセフィは…まあ置いてこう。
ワープ持ってるって言ってたし大丈夫でしょ。
天使と悪魔の言う通りに…ね? お汁粉パンチ @pasuta02
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