第5話 後悔先に立たず

「んんぅ……」


 微睡の中、俺は寝返りをうつ。

 少し寒いな…自然と毛布を被るために手がそれを捜索する。

 でも中々見つからず、鼻には青臭い香りが漂ってくる。

 普段感じるのとは違う匂いに意識が少しずつ覚醒していき…


「おはようございます」


「うわっっ!!」


「うわっ、とは何ですか…失礼ですよ」


「ごめんなさい…」


 目を開いた先には、天使がいた。

 比喩ではなく背中から翼があるのだから。

 …でも、俺の記憶違いだろうか、


「あれ、そんなに生えてましたっけ?」


 目の前にいたのはセフィ。

 でも翼の数が明らかに違う。

 だって今までは一対しか無かったのに今は…増えた。


「ああ…もう隠す必要はありませんからね。

私は最上位の熾天使、ですから三対計6枚の翼が元からありますので」


「なるほど…おはようございます」


 どうやらその翼の数は彼女にとって誇らしいことらしい。

 腰に両手を当て、胸を張っている。

 取り敢えずその驚きで忘れた挨拶はしっかり返しておく事に。

 

 そのまま体を起こすと、背中からパラパラと枯葉が剥がれて落ちていく。

 寝心地は…起きて体が痛くならない程度には良かった。

 でも毛布が無いと、流石に体が冷える。

 出来るだけ早く、雨風が凌げるぐらいの場所へ拠点を構えたいところだ。


「あれっ、ルシェは…?」


「ばあっ!」


「うわっっ!!」


 彼女の名前を呼んだ瞬間、上からフレームインしてくる。

 流石にっ、そこにいるとは思わなかった。

 空中で上下反転している彼女、その翼は…関係ないのか?

 普通にそれで飛んでいるって思っていたのだけど、翼が変な向きになった今も浮遊している。


「あははっ、いい反応してくれるじゃん!おはよう」


「おはよう…ございます」


 高笑いする彼女を見ながら、考える。

 悪魔と天使は悪戯が好きなのか?

 こんな毎日驚かされたら、心臓が持たない。

 朝なので、もう少し優しくして欲しいところだ。


「じゃあ段さん、出発しましょうか」


「そうですね、もう一回野宿はしたくないですし…」


 と言いながらも、着くかどうかは不明だ。

 だってここ、馬車が通る様な道でしょ?

 なら、歩いたら一週間かかっても不思議じゃないのでは…なんていうのも思う。

 ただ歩かないことには始まらない、目的の魔女がこの付近に4人もいる訳ないのだし。

 というか居たとしても、今会ったらボコボコにされて終わりである。


「じゃあ、これ朝食ね」


 そうして歩き始めたところで、ルシェから何かが投げ渡される。

 これは…なんだろうか。

 見た目は紫で、触り心地はリンゴや梨の様な少し硬い感じ。

 めちゃくちゃ毒林檎に見えるけど…う〜ん、


「…これ、食べれるんですか?」


「魔法によると、毒はないみたいだけどね。

まあ最悪倒れたら、セフィにエリクサー使って貰いなよ」


「良いですよ、空腹で倒れられても困りますし」


 どうやら、オッケーは貰えたみたいだ。

 これは、もう退路が無くなってしまった。

 だから後は…覚悟を決めるだけ。

 もうなる様になれっという感じで、齧り付く。

 といっても、びびってちょっとだけ…ほんの一欠片ぐらいだけど。

 

 死には……しない。

 取り敢えずもう一回っ、と次は大きめに齧り付く。


「美味しい?」


「んん〜…まあまあ?」


 果物と思って食べたけども、あまり甘味はない。

 苦みというか渋み?とそれを消す様な酸味が襲ってくる。

 今まで食べたものの中では、まだ緑色で酸っぱいみかんを食べた時が一番近い

 

 普段日本で食べている様なものは品種改良されてきた訳だし、しょうがない。

 でも、食べれないほどではなかった。

 酸っぱさも朝だったら悪くないし、腹も少しは満たせた。

 最後に残ったりんごの芯の様な部分は、その辺の土に埋めておく。


 歩き続けても、風景は残念なことにずっと森。

 道はうねったりするけども、基本的には真っ直ぐ。

 …そういえば、


「昨日天界スコアについて話してたと思うんですけど…」


「ええ、そうですね」


「この旅ってそんなに貰えるんですか?」


 気になったのは昨日話していた続き。

 冷静に彼女は高位の天使…じゃあ、こうやってフィールドワークする必要も無いはず。

 そう、この旅のポイントがよっぽど美味しくなければ。

 

「そうだねぇ…普通の天使の仕事10万年分くらい?」


「それぐらいでしょうかね。

もちろんこれを成功させれたら、現在1位のミカエルを余裕で引きずり降ろせます」


 正直天界スコアよりも、任務の難易度の方が俺にとっては重要だ。

 天使の仕事10万年分と同程度の事を、今からやろうとしているのか?

 …流石に生きて帰れるのか不安になる。

 もう退路は無いんだけどさ。

 

「何でそんなに高いんですか?」


「ああ、それはね…この世界を救うからだよ。

こういう任務になるのって、放っておいたら世界が滅ぶから。

成功したら、千年後ぐらいに神話になるかもね」


「そうですね、とはいえ気負わずに。

最悪力を貸しまくればゴリ押しで勝てますから……スコアは下がってしまいますが」


 …セフィは天界スコアが絡むとハイスコアを狙うゲーマーみたいになってくる。

 ただ1でも高いスコアを目指して頑張る、その姿は見習いたいところ…


「というか、だったら初期装備あったよね?

地図とか…食糧とか、何で出してないの?


「ああ、それはカットして貰いました。

そうすれば、最終的なスコアも上がりますし」


 …いや、前言撤回だ。

 あとゲーマーはゲーマーでも、縛りプレイをするタイプの人…いや天使なのか。

 しかもこちらへ物凄い被害を被っているんだけど…。

 

 普通にお腹は空いていた。

 流石に子どもじゃないからみっともなく暴れたりしないけど、昨日から体を動かしているのにりんごサイズの果物一個だけ。

 これじゃあ、その内栄養失調で倒れてしまう。

 

 せめて食料だけは欲しかった!

 今言ってもしょうがないんだけどさ。

 それは置いておいて、一つ思ったことがある。


「これって、乗り物とかって借りれないですか?」


 というのを一つ思いついた。

 普通にこのままだと餓死する可能性がある。

 彼女達は空腹という概念が無いみたいだから、あまり気にされてないけど。

 だからスピードアップするための提案だ、なんならもっと早く言うべきだ。

 流石にどっちかが持っていてもおかしくない…なんて事を思ったけども、難しそうな顔をしている。


「…セフィ持ってる? アタシ持ってないんだけど」


「いえ、無いですよ。 空が飛べて、ワープの魔法も使えますし」


「ちなみにそのワープの魔法は…?」


「繋げる先を知らないと使えないのでダメですね。

天界だったら、どこでも行けるんですけど」


 何で自転車の一つもないんだ。

 俺のアパートにだったら、愛車のママチャリがあるのに…。

 でも彼女達には必要なさそうだし、しょうがないか。


「あっ!あのカエル一応乗れるけど?」


「…いや、それは良いです」

 

 一瞬考えたけど、断った。

 普通に背中がヌメヌメしてそうだし、跳ねて移動していると途中で振り落とされそうだし。


「いや、一つだけ手段があるかもしれないですよ」


 そのセフィの言葉と共に久しぶりに見た光の粒子…それは俺の足元を覆う。

 なんだろう、足が速くなる靴とか?

 でも今はそれでも、ありがたいかもしれない

 

 そしてもう試練を与える必要がないからか、銃と同じ速度で具現化される。

 それは一見何の変哲もない靴。

 でも、立った瞬間に分かった…その裏に付いた物の正体を。


「ローラー、スケート?」


「ええ、その物が一番近いです。

知り合いから貰っても使いませんでしたが、今なら使えるかもと思いまして」


 ローラースケート…と言ったものの、正確ではない。

 それは小学生の時に憧れた人も多いだろう、運動靴タイプの靴の裏にローラーが付いてるだけの物。

 下は剥き出しの土だし、そもそも走れるんだろうか?

 それに…流石にそんなスピードは、出ないよね?


「ちなみに、時速200kmを超えるらしいですが…使いますか?」


 …スポーツカーか何かかな?

 それを聞いて俺は……

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