第4話 天使の本性

 陽は落ちて、もう辺りは暗闇へと包まれた。

 目の前の焚き木がパチパチと音を立てているのと、何かも分からない動物の鳴き声だけが聞こえてくる。

 今いるのは街道沿い、だから空を遮る枝も無く月がよく見えた。

 

 でも空に浮かぶ三日月は頼りない光、この目の前の炎だけが今は頼りだ。

 それに昼間は日本の春や秋みたいな過ごしやすい気温だったけども、今は結構冷え込んでいる。

 だからこの原始的で、視覚からも暖かさを感じられるこれは本当に頼もしかった。


 ちなみに火は、原始的に起こした訳じゃない。

 山へ入り燃えやすそうな枯葉や木の枝などを拾ってきて、ルシェ所有のライターみたいな道具で火をつけた感じだ。

 もし道具が無かったらリラックスしている時間も無く、今も手で木の棒を挟み、擦っていたと思う。

 そして多分、火が起きる前に…陽が登っている。

 そんな火を囲んで、俺達3人はいた。

 

「それでどうだった?

初めてでしょ?生き物を殺めるの」


「…最悪の感触、まだゴブリンの頭を手で潰した感覚が残ってますし。

気分も、良くはない…です」


 ルシェから振られたのは雑談にしては重すぎる内容。

 でも丁度考えていたところだし、良かったかもしれない。

 

「まあそうでしょうねぇ、悪魔と天使にはその気持ちは分からないけどさ」


 彼女はジェスチャーで、お手上げというのを示す。

 それに対して、セフィは何も言い返さない。

 今日出会ったばかりだけども、間違っている事をルシェが言ったら訂正するイメージはある。

 だから、彼女にとってもそれが本心なんだろう。

 

「それで、どうしますか?」


「どう…って?」


「今なら旅を断る事も出来ますよ。

とはいえ地球に戻るということは出来ませんけどね」


 そしてセフィは、そんな取引?を持ちかけてくる。

 これは優しさ?…不甲斐なさすぎてチェンジしたいという本心の現れかもしれないけど。

 でも、心は1つだった。


「やりますよ、だって魂の洗浄が嫌で受けたんですから」


 そうだ、あの怖いワード。

 それからビビって逃げる様に異世界へ来たのだから。

 どちらにせよ死ぬなら、せめて前のめりに…。

 日本の時はチャンスも貰えなかったしね。


「そうですか、それは良い事です。

…今日はもうお休みになっては?

私達で火の番をしますからご安心くださいね」


 確かに暗さ的にはもう寝る様な時間。

 疲れはあの薬で吹き飛んだけれど…お腹が空いた。

 食べ物は一切見つからなかったのだ。

 キノコだったりは生えているけども、謎だし流石に食べるわけにはいかず。

 そんな空腹を忘れるために今日は、


「じゃあ、寝ますね、おやすみなさい」


「は〜いお疲れ様」


「おやすみなさい、良い夢を」


 そして体を地面へと横たわらせる。

 クッションがわりに敷いた枯葉、それが今は寝床となった。

 あまり起きている間は睡魔は感じなかった、でも横になると途端に眠くなってくる。

 知らず知らずのうちに、緊張の糸を張ったまま過ごしていたのかもしれない。

 それがプツンと切れ…

 






 ふと目が覚めた。 

 でも特に何もないのに起きることは偶にある。

 このまま目を瞑ればまた夢の世界へ…


「ねえセフィ、あの時…何で鎧の実体化が遅かったの?」


 静かな森にその声は良く響く。

 俺は身じろぎ1つしない。


「それは…アレですよ。

貴方の物より大きいため、時間がかかったんです」


「…虚偽を口にするべからず、大天使セラフィエル様ともあろう方が天界規定を破るの?

それじゃあ…スコアに影響するんじゃない?」


 訳のわからない単語の羅列、フワフワとした頭では理解が追いつかない。

 でもセフィの言っていることは正しいはず…


「そうですね…スコアが下がるのは困ります。

…ええ、確かに私は意図的に実体化を遅らせましたよ。

戦闘もしたこともない様ですし、実力を測りました」


 目はもう完全に覚めた。

 あのおっそい具現化は意図的だったのか!?

 アレのせいで普通に死にかけたんだけど…。

 でもそれを叫ぶ様な雰囲気でもない。

 というか起きているなんて気づいていない様な会話だ。


「それで、彼の実力はどう見たのさ」

 

「…あまり強くはないですね、それに殺生への躊躇…これはいけません。

魔女を倒すどころか、道中で死んでもおかしくない。 

そうなると、スコアに影響が…」


「そっかあ…ちなみに彼、起きてるよ」


 ビクンと体を跳ねさしてしまった。

 いきなりのパス、ルシェにはもう気づかれていたらしい。

 今回の話、絶対に聞いてはいけなかったものだろう。

 何でこのタイミングで起きてしまったんだ…。

 そうして恐る恐る目を開くと…目の前にセフィが立っていた。


「うわあっっっ!!」


 まるでホラーの様なシチュエーション。

 先ほどまで寝ていた事も忘れて、飛び起きた。

 もう眠気なんてどこかへ吹き飛んだ。


「盗み聞きとは…感心しませんね」


「ごめん…なさい」


 昼間喋っていた時とは全く違う彼女。

 あれは、仮面を被っていたのだろうか。


「…聞かれしまったのなら、しょうがないですね。

貴方の力を試す行為に対して、まずは謝罪を」


 謝罪と言ってもそれは口だけのもの。

 頭を下げたりといった行為はない。


「何故…ですか?」


「…創造神様は全ての生物に愛を注ぎ、私達天使は時折人間へ試練を与えます。

それは人間が嫌いだから、という短絡的な理由ではありません。

地上の生物の中で創造神様に一番近い容姿…それに胡座をかかず、魂の研鑽を積み続ける事を私たちは望んでいます。

ですからあの様な状況で、私達天使は試練を与えるのです」


 …何を言ってるんだ?

 いやまあ、神様が飴をあげ天使が鞭係というのは分かった。

 でもだったら、今回の任務と相性最悪では!? 

 力を貸して貰わないと戦えないんですが…


「それは…建前でしょ?」


「えっ」


 そんなルシェのツッコミが横から入る。

 建前?じゃあ、本当の理由は違うという事なのか?

 もしかして…知らず知らずのうちに恨みを買ってたりじゃないよね。

 そして彼女は、はあ…と大きなため息をつく。

 

「…そうです、天界スコアのためですよ」


「?」


 謎の単語が彼女の口から出てきた。

 言語が違うとかではなく、シンプルに俺はその単語を知らないのだ。

 でもルシェも言っていた…スコアがどうのこうのっていう。


「まずは説明しないと、段君はわからないでしょ?

天使として作られた存在、そして後天的に天使になった者、その両方に天界スコアっていうのが付くんだよね。

それは天使が成功させた仕事が難しければ難しいほど、スコアが大きく付くんだけど…」


「そのランキングに応じて、天使の位が決まるのです」


「セフィはそのスコアで1位…天使の中でのトップを目指してるんだよね?」


 …よく分からないけど、つまり出世のためにあんな事をしたのか。

 確かにこれは困難な仕事で、そのスコアとやらも大きく付くだろう。

 でも、


「あそこで俺が死んでたら、スコア下がりそうですけど…」


「ええ、ですから本当に死にそうな時に鎧が出る様にしました。

もし大怪我をしても、あのエリクサーがあれば治りますし」


「…なるほど」


 なんか物事が一気に繋がっていく。

 推理ものだったら気持ちいい瞬間なのに…これではホラーだ。

 

「それで…知ってしまった俺は、殺されるんですか?

 

「そんな訳ないじゃないですか、スコアが下がりますので」


 最大の懸念、それはあっさりと否定される。

 確かに言われてみればそうだ。

 これを俺が知っても、天使でもないし何もならない。


「これで私は全て話しました。

私は天界スコアのために、ルシェは自由のために、そして貴方は…1日も長い生活のために。

再度契約し、一緒に旅を歩む覚悟はありますか?」


 そうして彼女から、手を差し出される。

 それは初めて会った時と同じ様なシチュエーション。

 とはいっても今日なんだけどさ。

 俺の答えは1つだった。


「もちろん、やりますよ。

…あっ、でも」


「何かまだ不安なことがありましたか?

私に出来ることなら、出来る限りさせていただきますが…」


「試練だけはやめてくれません?

多分、いつか普通に死にそうなので…」


 旅はもちろん続ける、でもこの釘挿しはしとかないといけない。

 またやられたら、たまったもんじゃないし。


「ああ、なるほど。

…それが契約の内容なら、最後まで守りましょう。

私も貴方に倒れられると困りますから」


 それを聞いて、初めて握手する。

 といっても彼女は小さいまま、こちらが差し出した人差し指を彼女の両手で掴む感じだ。


「じゃあ今日はもう寝た方がいいんじゃない?

…あっ、こいつがなんか悪さしそうになったら、ちゃんとアタシが止めるからさ」


「…そんなことしませんよ」


 夜になりむしろ元気になった様なルシェと、その物言いに少し不機嫌そうなセフィ。

 今日は色々あり過ぎた。

 だから横になり、目を瞑っても脳内にその光景が流れていくだけ。

 

「眠れないなら、アタシが魔法をかけてあげようか。

…『夢の世界へ』…おやすみ」


 そして意識は沈んでいくのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る