第3話 これ無理ゲーですか?
「右に避けてっ!」
そんな叫び声が聞こえ、無意識に体が反応してくれた。
身体は声が誘導してきた方へと地面を転がる様に動く。
そして直後に、先ほどまでいた場所を風切り音と共に矢が通っていくのだ。
…もしかして、避けてなかったら死んでたのか?
それに気づいた瞬間、サ〜ッと体を寒気が走っていく。
致命傷じゃ無くても、かすり傷なだけで異世界ならやばいかもしれないのだ。
油断は命取り、だからすぐに立ち上がり銃を構える。
そして前衛だろうか、武器を持ったゴブリンが草をかき分けて歩いてくる。
持ち物は先ほどの棍棒もあれば、錆びているが鉄剣を所持している個体もいた。
8、9、10…もうあっという間に2桁を超えた。
これ以上数えるのはキリがない。
そして全員揃いも揃って邪悪な笑みを浮かべている。
どうやら、数の有利というのを何回も経験してきたんだろう。
それにゴブリン側の弓使い姿を現さないのも気がかりだ。
…と分析するものの、メチャクチャ怖い。
もう、すぐに逃げ出したい気分だ…でも多分追いつかれる。
だってここは多分、彼らの狩場だから。
「段さん! 鎧いきますよ!」
「本当にありがとうっ」
それがこの状況を覆す希望だ。
ルシェは…どこか行った。
いや、なんか聞こえる。
「アタシ、上から見てるからねぇ」
どうやら物理的な高みの見物らしい。
でもこれだけの威力を持った銃を出してくれたのだし、文句は言えず。
そしてあの時の鎧の様に、光の粒が体を覆っていく。
その光景に彼らは面食らって……ない?
なんか寧ろ早くなってないか!?
「おいっ、ちょっ…タンマッ! 変身中は反則ッ!」
まるで夏の夜、光源へと虫が集まる様な勢いで…ゴブリン達が襲いかかってくる。
確かに銃は当たる、数が多すぎて外しようがないから。
というか鎧の作成が遅いんだけど!?
もしかして銃は小さいから間に合っただけで、鎧は長い…とか?
それはもう…絶望的だ。
この銃、リロードも何も必要はないというメリット、ただその代わりに3秒のクールタイムがあるのだ。
たかが3秒、されど3秒…でもこの複数相手には長すぎた。
だから俺は、
「グギャッ!?」
敵へ背を向け、みっともなく逃げることにした。
ゴブリン1体倒しただけで慢心し、あわや人生2回目の即死を喰らうところだったし。
そんな俺は、敵へ背を向けて…彼女らを置き去りにしたまま逃げていく。
多分彼女らは、本気を出せばすぐに殲滅出来てしまうだろう。
そもそも空を飛んでいるし、攻撃も届かないだろうし。
だから…大丈夫なはずだ。
そして後ろからはドタドタと土を踏み締める音が聞こえる。
きっとゴブリン達は、逃げた獲物を捕らえるために追いかけてきている、それも多数で。
背中へと突き刺さる視線と鳴き声の圧力、つい足を止めてしまいそうになるのを、無理やり気力で回転させる。
でも幸か不幸か…鎧はまだ実体化せず光のまま、だから重みは無い。
多分鎧を着けていたら、こんな逃げ方は不可能だろう。
でもこのまま街道を走っているだけでは、未来はない。
ずっと後ろから視認され続けているのだから。
最後の望みを託して俺は…ゴブリンが出てきた方へと逆の茂みへと舵を切る。
茂みに逃れれば、ワンチャン見失ってくれるかもしれない。
そんな希望は、
「…なん…で?」
「ギャッッ!!」
その先の茂みから顔を出した1匹のゴブリンによって脆く崩れ去る。
無防備に速度を緩めてしまった俺、前からゴブリンがタックルしてくるのにも反応出来なかったのだ。
そして俺たちは、天と地が何回も入れ替わるほど街道を転がっていく。
「ちょっ…離れっ!」
ガブッッ
「いってぇええ!!」
それでもしつこくゴブリンは、こちらの体へ張り付いたままで…引き剥がそうと押し付けた腕を、思いっきり噛まれたのだ。
人生で腕を噛まれたことなんて…一度も無い。
分厚い繊維の壁、それをゴブリンは見た目とは裏腹に強靭な顎の力で噛み砕こうとしてくる。
牙は幸いにも通っていない、でもまるで骨を削られているかの様な痛み。
腕を噛み切られるのも…時間の問題だ。
俺は銃を握ったままの右手で拳を握る。
そして俺は、その手をゴブリンの頭へと振り下ろす。
…血は流れた、でも噛みつきを止めるまでには至らない。
なんなら最後の力を振り絞ってか、より腕への痛みが強くなる。
そして再度振り下ろした拳はヒットし…
「えっ…」
ゴブリンの頭が弾け飛んだ。
その衝撃で、中身も辺り一面へ飛び散る。
そしてそれを成した俺へも…。
頬を伝うヌルリと少し生暖かく生臭い、最悪の感触。
ヨロヨロと立ち上がると、先ほどまで噛み付いていたゴブリンも力なく剥がれ落ちる。
先ほどまで感じていたズキズキとした腕の痛み、それも今は不思議と感じられない。
きっとそれは、
「その鎧は戦神アレウスの物です!
後は、心の赴くまま暴れちゃってください!」
この鎧のお陰だ。
どうやらすごい物…らしいけど、意味は理解出来ない。
異世界のものだからという訳でも無く、頭が回っていないのだ。
体は人生で初めてというほど絶好調なのに。
そして、先ほどまで逃げていたゴブリンへと足を1歩踏み出す。
すると彼らは足をその場に止めるのだ。
何故?なんて、考えられない。
ヒューーッッ
風切り音と共に死角から飛来した矢も素手で掴み取り、そのまま片手でへし折る。
握っていた銃がポロリと地面に落ち、その先から…何も記憶が残っていなかった。
「お疲れ様でした、じゃあ鎧は回収させて貰いますね」
どれだけの時間が経っただろうか…どこからかそんな言葉が聞こえる。
そしてそれと同時に、体が光を包み込み感じていた重さも消えた。
さっきまで感じていた万能感も徐々に失われていき、残ったのは体を襲う痛みだけだ。
「痛たたた…」
「はい、まずは『浄化』!…そしたら、口開けてくださ〜い」
「ングッッ!」
光のシャワーが体へと降り注ぎ、畳み掛ける様に口へと試験管を突っ込まれる。
中は緑色の液体というメロンソーダぐらいしか見たことのない色。
味は…全くそんな気配は無く、
「くそ、まずい……」
「文句言わないでください、よく効きますから…」
ただ良薬口に苦しとはよく言ったものでそれに即効性なのか、嚥下する度に傷や疲れが引いていくのが分かる。
先ほどまで頰についていたヌルリとした液は、あの浄化と呼んでいた光のお陰で消えたみたいだ。
そうしてようやく回り始めた頭、そこへ目の前に広がる光景の情報が脳へと焼き付いていく。
…ここで、獣でも暴れたのだろうか。
そんな感想を抱いてしまうのも無理はないと思う。
首と胴体が離れたゴブリン…いや、頭は床へ落としたトマトの様に弾け飛んでいた。
武器も持ち主を失い、地面へと転がっている。
先ほどまでは土が剥き出しなものの綺麗だった街道も、その血液の紫で染められてしまっていた。
そして戦闘前に警戒していた弓使いのゴブリンは…いた。
あの木の枝へ洗濯物の様にぶら下がった体。
それだけでは分からないけども、その横には弦が斬られた弓も同じ枝へ引っかかっているし合ってるだろう。
「いやあ、本当に戦神って感じの暴れっぷりだったよ!
でもお片付けしなきゃ…ね?」
そうして光が具現化したもの、それは、
「…壺?」
「そうそう、その中に生き物が入ってるからさ。
その蓋、開けてみてよ」
…あまり気が進まない。
あの武器や鎧と同ランクのアイテム、そこに入ってるなんて絶対ヤバいやつだ。
でも、彼女が勧めてきたし安全ではあるのだろう……信じるしかない。
気は進まないけどッッ!
そしてこのヤバそうなお札を剥がし…木の蓋を開けた。
ボンッッ!
モクモクと出てきた煙と同時に、そんな音が鳴る。
その爆発音の様なものに、ついビクッと肩を震わせてしまう。
そしてその煙が晴れていき、姿が露わとなった。
「カエル…だよね?」
正体は見たらすぐに分かる。
茶色の肌をして、静かにお座りしているソイツ。
でも確証が持てないのは…そのサイズの所為だった。
だって頭上が見えないほど大きく…例えるならダンプカーレベルだ。
流石に地球に、このサイズは存在しないだろう。
「カエルであってるよぉ。
じゃあ、ソイツにゴブリンの死体をを食べろって命令して」
「…ゴブリンの死体を、食べろ」
その言葉を口にすると、その目がこちらへと向けられる。
…大丈夫だよね?
感情の読み取れない目、今から俺を食べると思っていても分からない。
ただしっかりと言う事を聞いてくれるやつらしい。
ゴブリンの体、臓物、そして剣や棍棒、弓までその長い舌で絡め取っていく。
あの地獄の様な惨状は、一瞬でカエルの胃袋へと消えていくのだ。
そして、
げえっっぷ
最後にゲップをしたところで、その動きは終わった。
もうゴブリンの体なんて腕1つ残ってやしない。
強いて言うなら、街道を汚した紫の血液だけが彼らの生きた証だ。
「じゃあ、壺に戻れって命令して」
「壺に戻れっ」
そして、まるで出てきた時の逆再生の様に壺へと吸い込まれていく。
どこにその巨体が入っているのか、そもそも入り口が小さくね?そんな事は…気にするだけ無駄だった。
多分魔法だから、で全部説明がついてしまうだろうから。
その壺には勝手に蓋がされ、一緒にお札も貼られるのだ。
…ハイテクなのか、ローテクなのか分からない。
ともあれ、今回の戦いは後始末含めて終わった。
空を見上げると、少し陽が沈み始めている。
まだ人が住んでいそうな村や街といった場所は見当たらない。
流石に歩き続けるのもリスク…体は治してもらったけども、心は疲れたままだった。
「じゃあ、今日はこの辺で野宿ですかね?」
「…そうですね」
隣に寄ってきたセフィへと同意を返すと、俺は街道を歩き始める。
そう、
「でも流石に、ここじゃ寝れないや」
「まあ、いっぱい殺しちゃったからね」
もう反対から会話に参加してくるのはルシェ。
今も少し漂う血の香り、それを嗅ぐとフラッシュバックしてしまう。
だからその場から立ち去るため道を歩く足も速かった。
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