第2話 初めての戦闘

 そうして俺たちは、異世界へと降り立ったのだ。

 …というか冷静に食料が無くないか?それに水も。

 日本から出たことのない俺、ステップアップし過ぎてこんな所へ来た。

 でも、その結果最初に口にするのが昆虫…はあまりにも救いが無くないか?

 そんな準備不足で始まったサバイバル生活…まずは、


ゴンッ!


「いってぇええ!!」


 素手で木を破壊するところから…なんてことは出来なかった。

 というか多分、日本にいた頃と同じくらいの力しか無いのでは?

 本当に何も無いじゃないか…。


 …少し試しただけなのに、悲しい現実を知ってしまった。

 俺は利き手の右手を摩っている間も、感じる痛みがこれは夢じゃ無いことを伝えてくる。

 そうして同行者の2人は周りをヒラヒラと羽ばたいている。

 

「いやあ、自然が豊かですねぇ」


「うん、でもとりあえず街道に出たいかな。

この近くにあるのかは分からないけど」


 そして俺はセラフィエルことセフィと話しながら、足場の悪いこの道を進んでいく。

 服は地球にいた時、そして多分死んだ時に着ていた物と同じはず。

 一応バイトの面接へ向かう格好なので、サンダルとかでは無くスニーカーだったのが救いだ。

 ただ、服が草とかに当たって汚れていっているのは悲しいけども。

 

 ちなみに悪魔のルシフェルこと、ルシェは俺の肩で早々に寝ていた。

 道まで来たら起こしてとの事。

 最初の5分ぐらいは盛り上がっていたのだけど、変わらない景色にもう飽きたらしい

 別に重さはあんまり感じないから良いんだけどさ。


「あの光、森を抜けたんじゃないですか?」


 そんな朗報が、前から投げられた。

 確かにあの光は森の切れ目に見える。

 俺もルシェのことを笑えずウンザリしてたし、疲れてたのだ。

 こんな場所を慣れない人が歩いてたら、すぐに体力が尽きてしまう。


 少しずつ近づいていく光。

 これが希望の光かどうかは…足を進めないと見ることもできない。

 だから疲れを感じていても、前に進める。

 違ったら…その時はその時だ。

 踏み出した最後の一歩で森を抜けた先は、


「街道で合ってるのかな?」


「でしょうね、馬車の轍らしき跡も残ってますし」


「おお…よしっ」


 そんな達成感…ついガッツポーズをしてしまう。

 ようやく森から脱出できたのだ。

 道は日本と比べたらアスファルトでも無いし歩きにくい。

 けどもここは街では無いし、ツタとか木の根で足を引っ掛けないだけありがたいと思おう。

 それで、


「…どっち行く?」


 これを決めなければいけない。

 森から出て目の前に街道はある。

 ただ左右を見ても、街や村らしき場所なんてどこにも見当たらないのだ。

 

 どっちに行っても道で結ばれているのだから、街か村には着くだろうけど。

 出来れば…大きな街の方が良い。

 だって余所者だし、村だとちょっと居心地が悪そうだ。

 

「どうしましょうか? 

地図もありませんし…」


「あっ、地図無いのか。

それでルシェさんは、知ってたりします?」


「いや、アタシはそもそも別の世界に居たからね。

セフィも仕事でやったりしてないでしょ?」


「ええ、もうこういうフィールドワークはいつ振りか。

殆ど…というか全て部下の天使がやりますし」


 3人で喋っても答えは出ない。

 あと最初に会った時から何となく感じていたけど、やっぱり2人は高位の存在みたいだ。

 そんな存在がなぜ俺について来るというのは疑問だけども。

 

 いや悪魔のルシェの方は理由を言ってたか。

 でも天使のセフィは何も言っていなかった。

 …まさか、それだけ敵がやばいとか?

 

「でも分かるのは、左に向かっている馬車が多いことかな。

馬の蹄鉄の跡を見るに、あっちへ向かってるし」


「…本当だ」


 確かに言われて、顔を近づけて目を凝らすとそんな跡がある。

 まるでアルファベットのCの様な形をした蹄鉄、それが轍と共に残っていた。

 

「よく見ていますね、ルシェ」


「まあね、セフィよりは地上生活も長いし」

 

 本当に頼りになる。

 彼女を肩に乗せて歩いた甲斐はあった。

 もし彼女が何も言わなかったら?

 …多分棒倒しで行く方向を決めてただろう。

 そんな彼女の気づきによって、少し確証の高い方へと歩いていける。

 


 森の時は転ばない様に足元ばっかり見ていたけれど、今は周りの風景を見れる余裕があった。

 綺麗に切り開かれた森林内の道、多分相当な労力がかかっているだろう。

 だって重機もないだろう時代だし。

 でも魔法はあるのかな?魔女がいるんだし。


 もしかしたら今踏み締めている地面も、魔法によって整えられた物かもしれない。

 それだったら…この何の変哲もない道でもロマンを感じられる。

 どちらにせよ、労力は存分にかかっているのだろう。

 是非とも異世界に来たなら魔法も見たいし、願わくば使ってみたいものだ。

 

 空に浮かび燦々と輝く太陽…今は頂点ぐらいだろうか。

 だから地球で言ったら昼とかかな?

 1日が24時間なのかも、あと日が落ちるまでの時間も違う可能性が高いのだし、一概には言えない。


 そうして俺たち3人?組は、証拠を信じて歩いていた。

 …それは無言で。

 だって2人は天使と悪魔、そんな存在と出来るような会話のタネは生憎持ち合わせていない。

 まあ1日ぐらいだったらこの空気感でも良いのだけど、流石に一週間とかこれは…しんどいな。

 

 そんな退屈でちょっと息苦しい状況、つい走って逃げたくなってしまう。

 ただ逃げる先もないし、意味も無く迷子になるだけだ。

 会話が無いと気まずいとは思うけども、怒られたい訳ではないのだから。

 

 退屈だけども平和な旅は、そんなに長く続かなかった。


ガサゴソッ!!


 道を挟んで両サイドは今も森が続いている。

 そして静かなこの道に、その葉が擦れ合うような音は良く響いた。

 俺はビクッと肩を震わせながらも、音がする方向へと体を向ける。

 隣を飛んでいるセフィもルシェも、ピリッとした空気を出して迎え撃つ体勢に。

 

 正直日本にいた時の身体能力と同じ感覚、だったら熊でもやばいだろう。

 もしモンスターが出たら、どうすれば良いのか分からないし…。

 だから一応聞いておこう。


「あの、武器貸してもらえま…あっ」


「グギャッッ!」


 …もうお相手さんが出てきてしまった。

 草をかき分けて出てきた、身長は俺の半分くらいで緑色の肌をした生き物。

 股間の辺りだけを隠すような茶色の腰蓑を身につけ、粗末な木の棍棒を手に持っている。

 挨拶代わりに元気に鳴くその生き物は、


「なるほど、ゴブリンですか」


 セフィの言った通り、ゴブリンだった。

 …というか天界と地球、同じ呼び方なんだ。

 それは置いておいて、そいつは笑いながら長い舌をずっと口の外へと出したままだった。

 舌噛まないのかな、なんてことも思ってしまうけど。

 でもそいつはずっと俺のことを見つめている。

 …ねぇこれ、どう見ても丸腰だから舐められてるよね?

 

 そしてジリジリと、ゴブリンは単体で俺との距離を縮めてきている。

 素手で勝てるのか…頭で演算した結果、無理だ!


「ヘルプッッ!!」

 

 その言葉と同タイミングでゴブリンは地面を蹴り、走りだした。

 後ろにいる2人へもう振り返る余裕すらも無い。


「しょうがないなあ…アタシの力、貸してあげる」

 

 何故か耳元で聞こえるのは、ルシェの声。

 その囁きと共に、目の前へ光が集まっていく。

 スローモーションに風景が流れていく感覚の中、光が何かを模っていく。

 そしてそこに向かって伸ばした手の中で、具現化するのだ。

 

 その武器の使い方は…手に取ると同時に頭へ流れ込んできた。

 それに形自体は、結構馴染み深い物だ・

 自然とその口が標的へと向けられ、両手で構えたそれを右手の人差し指が…引き金を引く。


バキュンッッ!!


 静かな街道、そこに似つかわしくない人工的な炸裂音が鳴り響く。

 運動会でスタートの合図を告げる銃とは、音の重さが違った。

 もし彼女が一緒につけてくれたヘッドホン無しに銃を撃っていたら、多分耳がやられていただろう。

 

 このサイズは拳銃といっても良いんだろうか、それでも中々の衝撃。

 経験無しに撃った一発が命中したのは…奇跡だ。

 ゴブリンは棍棒を捨てて、胸を塞ごうとするが…その紫色の血の流れは止まらない。

 

「グッ…ィ…」


「トドメ、刺した方がいいよ」


「…分かりました」


 その返事と共に、尻餅をついたように地面に座り込むゴブリンへと銃口を合わせる。

 先ほどより、距離は遠い。

 ラッキーショットは2回も起きない…でも不思議と外すイメージは湧かなかった。


 再度響き渡った銃声、射出された弾丸は命中しゴブリンは倒れたのだった。

 そして俺は銃を持ったまま、そのゴブリンへ向かって手を合わせる。


「お疲れ様、そんなゴブリン1匹に手を合わせなくても良いのに」


「そっか…」


 その言葉をもらっても心は晴れない。

 だって、こんな直接的な手段で生き物を殺めたことはないのだから。

 肉や魚を気にせず食べている、といったらそれまでなんだけどさ。

 だからこの合掌と、あちらから手を出してきたという理由で今は納得しておく。


「そうですよ、貴方は正義を成したんですから!

自信持ってください!」


 …それはなんか違うけども。

 なんか言語化出来ないようなモヤモヤが心に残る。

 それを吐き出せないのは、少し気持ちが悪い。


「それに、まだ終わってませんよ」



「だって、ゴブリンは生き物なんですから」


 セフィの言葉に返事する様に、ガサリと草むらが音を立てる。

 その量は、先ほどの比ではない。

 まるで合唱しているかの様に、最初のゴブリンが出てきた方の草むらから鳴り響く。


「あっ鎧、貸しましょうか?」


「…お願いします」

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