天使と悪魔の言う通りに…ね?
お汁粉パンチ
第1話 プロローグ
全身に浴びる陽の光に澄み切った空気…そして鼻には青臭い香り。
これは植物の豊富な場所でしか、味わえないものだ。
実際360度見渡す限りの木々が広がっている。
じゃあただ森に遊びに来ただけ?
と言っても近くにある木を見ても見たことはない、まあ詳しくないんだけど。
そんな一見何気ない光景が広がっている…だがあの空には、謎の生き物が飛んでいる。
その広げた大きな翼は、高くて遠いところを飛んでいるから縮尺がよく分からないけども、まるで飛行機を見上げている気分だ。
シルエットだけなら俺も似たものを見たことがある…そう、
「プテラノドン?」
人間が生まれるよりもずっと前、太古の地球に存在したとされる生き物。
だから見た事があると言っても、それは図鑑によるイメージ図。
実際は化石しか残っていないのだから。
じゃあここは太古の地球?
確か記憶に間違いがなければ、空気の構成的に人間が生きていけないという話を聞いた事がある。
だからタイムマシンで移動した、なんていう事でもない。
…そう、もっと非現実的な方法で…ありえない場所だ。
「さあ旅に行きますよ!」
「う〜ん、ここどこ?」
…それは俺が言いたいセリフなんだけど。
ちなみにこの旅には同行者がいた。
最初に話す活発な少女、一見純白なローブを着て本を片手に持っているだけの子に見える。
でも頭の上についた丸い蛍光灯の様な輪っかに、何より目を引くのは背中から生えた汚れのない純白の翼。
喋っている言語は同じ日本語に聞こえるのに、もうこの時点で人間ではない事が分かる。
そしてもう1人という表現で良いのだろうか、俺のセリフをとった?彼女。
まるで少女とは別の格好で、隠すべきところを最小限の面積を黒いドレスが守っているだけ。
だから小麦色に焼けた肌が思いっきり見えてしまっている。
そして何より目を引くのは…濡羽鴉を彷彿とさせる様な色の羽、そして先端が矢印の様な形をした尻尾だ。
この2人が同行者で、同じ任務を遂行するための仲間だ。
まず見た目が正反対の2人、これからどうなるのだろうか。
何故あんな安請け合いをしてしまったのか……時を少し遡る。
「人の子…
俺は、頭の上からそん言葉をかけられていた。
今の体勢は、まるで潰れたカエルの様に這いつくばった状態。
大理石の様な硬い床の感触、でもホットカーペットの様に温かい。
そして何故か、後頭部が酷く痛い…。
だから身体を起こすのも辛く、顔をそちらへ向けることしか出来ない。
「ああ、先に治しましょうか」
その声の持ち主を見た時……目が潰れるかと思った。
白白白…目が潰れて頭が可笑しくなるかと思うぐらいに純白な場所。
なんの情報も視覚から得る事が出来ない。
でも唯一、そんな目の前に感じる存在から降り注ぐ光のシャワーが、身体の痛みを和らげていってくれる。
「あ、ありがとうございます」
ようやく上げれる様になった頭。
でも自然と、感謝を告げるために土下座をしてしまう。
何故だろう…目の前の存在が同じ人間ではない事を感じているから?
「良いのですよ、お顔をお上げください」
「は、はいっ」
そうして許しをもらって、ようやく顔を上げれる。
…いや何も見えない、眩しすぎて。
まるで太陽に向かって双眼鏡を使っている気分で、長く見ていると目が大変な事になる予感がする。
だからものすごい失礼ではあるけども、瞼を閉じて顔を向けるだけだ。
「キス待ちですか?」
「…違います」
「あらあら、ふふふ。 冗談ですよ、もう少し暗くしますね」
…大いなる存在ジョークは反応に困る。
そして彼女?の言葉通り、瞼越しに浴びていた光が少なくなっていくのが感じられた。
「もう大丈夫だと思いますよ」
「ありがとうございます…あぁ」
合図と共に、目を開く。
まだ明るいとは思うものの、目が潰れるほどではない。
例えるなら、顔に懐中電灯の光りを当てられているぐらい?
そうして遂に、大いなる存在を目撃した。
この真っ白な空間、そこと同化する様な純白のローブを羽織った素足の女性。
きっと世界で一番美しい彫刻が動き始めたのだろうか、そんな顔立ち。
そして何より…男の目を引くのは、豊満な母性の象徴。
服がはち切れるんじゃないかと思わせるほどに、パンパンに詰め込まれていた。
きっとこの存在を人は…神と呼ぶんだろう。
地球であれだけの規模となるほどの信仰を集めるだけの存在力、それを今一身に感じていた。
ついありがたや、と手を合わせて拝みたくなる。
別に日本にいた時は宗教なんて信仰していなかったのに。
「まずは、貴方の死因を覚えていますか?」
確かに、俺は死んだのか…いや、なんで?
そんな危ない事してたっけ?
記憶の中だと…バイトの面接に行ってただけなはず…。
じゃあなんだろう、車にでも轢かれた?
「ちょっと、記憶が曖昧でして…」
「なるほど、頭に強い衝撃を受けましたものね」
あの痛みは、死因だったのか。
そりゃあ痛いわけだ、風邪引いた時の頭痛とは比べ物にならなかったし。
彼女の言葉のお陰で原因が分かった…
「そうです…貴方はバイトの面接に向かっている途中でした。
その日は雨が降っており、路面が滑りやすく…そこには誰かが捨てたバナナの皮が…」
…まさか、それで死んだわけじゃ無いよな?
滑って後頭部を打ちつけて、
「ええ、それではありません。
貴方は何とか受け身を取る事が出来ました。
そうして立ち上がった時、突如吹いた突風がチラシ配りの青年を襲いました」
チラシは配ってなかったし、俺じゃないか。
その青年が関係ある…のか?
「巻き上がったチラシ、それは立ち上がった貴方に張り付いていったのです。
10枚ほどあったでしょうか…ですが、幸いにも走ってきた青年が謝りながら剥がしていきましたので大事には至りませんでした。
ですが、その風は…上空で作業していた工事現場にも襲ったのです」
なるほど…じゃあ俺はその青年を庇って…
「青年はバイトのため、すぐ持ち場へと走っていきました…背後の場所へ鉄骨が降って来るのは知らずに。
そして貴方はその場でさしていた傘を車道へと向け、水溜りを車が通った時の衝撃を防御していたのです。
だから…頭上へ降って来る鉄骨には気づかずに…」
「…そんな風に死んだんですか?」
その畳み掛け方、まるでさるかに合戦みたいだ。
「…そうですね、ふふっ」
…なんで笑われたんだ?
ジョークなら良いけども、死に方の方だったら泣いちゃうかも。
でも実際さるかに合戦の猿へ仕返しするぐらいに、意思を持って殺されてないか?
もはや格闘ゲームのコンボみたいだ。
バナナで始動するコンボで、チラシによって体勢を戻した後もその場に釘付け。
車道からの水をその場でガードする…させる事によって、青年の様に走れば逃れた即死技を当てられた。
…こう考えると、もはや芸術の域かもしれない。
美しすぎる即死コンボだ。
ぜひ本能寺の変の信長の最期と一緒に語り継いでいってほしい…それは烏滸がましいか。
悲しい事に俺は一般人、鉄骨当たって死んだというだけでのニュースだろう。
こんなに物語があるのに…。
とそんな馬鹿な事を考えられるのは、あんまり実感が無いからだろう。
痛みはあったけども記憶は無い、そのため他人事の様にさえ思えるのだ。
だからこんなに笑っていられるのかもしれない。
「そしてそんな…レアな死に方をした貴方にだけ!特別な!取引を持ってきました」
まるでテレビショッピングの様な語り口。
その流暢な喋り口は、初めてだとは到底思えない。
…大丈夫かな?
なんか恩人だけども、胡散臭く感じてきた。
「ええ、大丈夫ですよ!嘘ではありません。
それはシンプルです、貴方に任務を授けます…代わりに異世界で新たな生活を送りませんか?」
「…なるほど」
というか心の中読まれてないか?
…ええ、最初から胡散臭いなんて思ってません!
命の恩人にそんな事、思うわけないじゃないですか!
確かに魅力的ではあるのか?
内容が全く分からないけども、どうしようか。
まずはこれを聞くべきだろう…
「もし断ったら、どうなるんですか?」
「ああ、それは安心してください。
何も起きません、ただ普通の人間が死んだ時と同じ運命を辿るだけですから」
それは安心かもしれない。
もし無茶振りされたら、もっと酷い目に遭うかもしれないし。
「ただ真っ白な空間に送られます、そう最初の時の様に人間が目も開けられないくらいに眩しい場所へ。
そしてその空間で長い…長い時を過ごしてもらい、ゆっくりとその記憶を忘れていってもらいます。
それで漂白が終わった魂は…」
「ぜひやらさせていただきます!」
「本当ですか?ありがとうございます!」
こんなの一択に決まっていた。
魂の漂白なんてワードも怖すぎるし、絶対に後悔する。
だったら、少しでも長く生きられる方が良い。
死後の世界には天国も地獄もなかった。
そこにあったのは…無よりも怖い場所。
だって本当の意味での無期懲役だ…それからは逃れられないという。
「ですが犯罪を犯さなければ、こちらの魔法で一瞬で漂白は終わりますから。
犯罪を犯した場合は、今後その魂が社会を乱す事がない様に苦しみを刻み込んでもらいます。
そうして…地球は、少しずつ平和を求める人が増えていくのですから」
どうやらそこまで、鬼畜ではなかったらしい。
流石に生きた先で人間皆無期懲役は、悲しい出来事すぎる。
というかそんな壮大な計画でやっていたのか…。
でも実際昔…1000年前ぐらいより、平和を求める人は増えているだろうし…実は結んでいるのだろう。
「ちなみに私から、貴方がどうなるかは伝えることはできません。
ですから、漂白魔法を受けれないなら任務をする…というのは不可能です」
「それは…大丈夫です。
ちなみに内容を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
もう良いのだ、多分行く。
だって今の状態じゃ、まだ人生で何も成せていない…残せていない。
せめて一欠片ぐらいは何処かに生きた証を残しておきたいのだ。
それが異世界でも、まあ良いかな。
…飯が不味いとキツイけどさ。
「ええ、その任務ですが…魔女の討伐です」
「魔女?」
「そうです、貴方には魔女を倒し…その魂を集めて貰います」
魔女を倒し、魂を集める…どういうことだ。
ゲーム的に考えるなら、倒した魔女からドロップするのかな?
…流石に違う気もする。
でもそれより、
「魔女…って、勝てるんですか?
俺…いや僕、戦ったこと無いんですけど」
だって空手や柔道みたいなのも習ったこと無い。
学校の授業であったくらいで、それも今やあやふやだ。
でも…この流れで期待してしまうのは、人間の性だろうか。
「もちろん、力は授けますよ?
そこで、貴方がレアな死に方をしたのが重要になるんです」
「えっ?」
「死に方がレアな人…それは現世で力を発揮しきれていないということ。
だから貴方なら、与えられた武器のポテンシャルを引き出して戦えるでしょう」
それで…納得はした、何故俺が選ばれたのかも。
多分この異世界では、ダーウィン賞に乗る様な死に方をした奴が最強かもしれない。
…俺はそのレベルなのか、と勝手に考えて勝手に凹んでしまう。
でも今はそれより、ワクワクするものがあるだろう。
それは、
「僕がいただける能力は、どういったものでしょうか?」
この質問。
超能力なんて地球では夢のまた夢。
だから使えるならなんでも良い…
「まずは呼びましょう、セフィとルシェ…おいで」
その言葉と共に、彼女の左右へ幾何学模様の何かが浮かび上がる。
模様の隙間にはびっしりと呪文らしき言葉が書かれているものの、読むことはできない。
これはいわゆる…魔法陣だ。
最後に目が眩むほどの光を放ち…現れたのは、2人?の天使と…悪魔?
その天使が来ているローブ、もしかしてこれは天界?では制服みたいなものなんだろうか。
特徴的な背中から生えた純白の翼、と頭の上で光る輪っかがその答えを伝えて来る。
そして目を緑色で縁取られた白いアイマスクで覆っているが、覆われていない部分だけ見てもその顔が美しいのは分かる。
でも彼女だけでは無い、もう1人の女性は…悪魔か?
…悪口では無い、だってこの白しかない空間で真っ黒な翼とドレスを身につけているのだから。
そうして肉感的なグラマラスで小麦色に焼けたボディを、惜しむことなく扇状的な衣装で見せつけてくる。
それに黒色のニョロニョロと忙しなく動く尻尾は天使には無いのだし、存在が違うのだろう。
あと銀色のゴツい首輪が彼女の首へと巻き付いていたのは…なんだ?
ファッションか何かだろうか?
それで2人は何か関係するのだろうか?
例えば。この異世界の担当だから情報を教えてくれるとか。
…まさか、俺の能力が天使と悪魔の召喚だったり!?
「いえ、違いますね。
貴方には、この2人をお供として連れて行ってもらいます。
そして力は…その都度貸してもらってください」
「ええ!?」
俺の力はレンタル制なの!?
そんな…治安が悪いところなんて行ったら一発でお陀仏だろうに。
自分を守る術も身につけていない俺は、逃げることしか出来ないんだけど…。
「よろしくお願いしますね、掛布段さん。
私の名前はセラフィエル、セフィとお呼びください」
「ご丁寧にありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いします」
そうして彼女と握手を交わす。
天使といっても、体温はあんまり人と変わらないらしい。
あとスベスベだった。
「それで本当に任務を果たしたら…この首輪取ってくれるんでしょうね?」
「ルシフェル、創造神様に向かって失礼ですよ」
…創造神様!?
じゃあやばいじゃん、俺の今までの言葉。
いや、どの神様に対してもアレなんですけど……許してくださいと強く祈ることしかできない。
「いえ大丈夫ですよ、セフィ。
ルシェ、貴方の罪は今回の任務で帳消しに致しましょう。
ですからこの人の子をサポートしなさい」
「言質取れたっ、後でやっぱ無しはダメだからね!
それで、段だっけ? アタシはルシフェル、特別にルシェって呼んでいいよ?」
「よろっ、しく…お願いします」
軽い言葉遣いとは裏腹にかなりの圧力がある彼女、その迫力に負けて少しどもってしまう。
そんなテンパリながらも差し出された手を握ると、少し温かい。
今握手した2人の美女…身長も俺の170cmから考えるに180以上はあるだろうか。
…というか、異世界でこのパーティーのまま動いてたら目立ちそうだ。
「それでは…」
創造神様の声と同時に、ボンッと2人が弾けた。
「えっ…」
思考がフリーズしたまま、モクモクと立つ煙を見ていた。
何が起きた…でも煙が晴れたら、すぐに分かった。
「ちっちゃくなった!?」
そういきなり、あの身長はどこへやら…というサイズになったのだ。
サイズを例えるなら…UFOキャッチャーのフィギュアぐらい?
でもこれじゃあ…戦えなくないか?
「そうです、戦うのは人間だけ…そういう決まりなのです。
力を貸すぐらいなら、良いんですけどね」
そうして俺の立つ真下の白い床、そこへ良く似た魔法陣が展開されていく。
どうやらもう、出発の時間らしい。
まあ創造神ということで、忙しいだろうししょうがないか。
…まだ心の準備は出来ていないのだけども。
「頑張りましょうね、4人の魔女の討伐戦!」
「相手にとっては不足ないかな。
まあ、アタシが戦う訳じゃないし?」
…は?
いやいや、えっ…1人じゃないの?
…でも確かに言っていた、魔女の魂を集めろって。
1人だけ倒して終わりだったら…あの表現は使わない。
「忘れてました、ごめんなさ〜い!
…じゃあ、いってらっしゃい!」
まるでジェットコースターが発車する時の係員みたいなかけ声。
そんな軽いノリで見送られ、俺の旅は始まったのだった。
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