第3話~卵から孵るは愛嬌のある生き物~

 鋸谷竜平。彼が懸命に世話をし続けてきていた奇妙な色合いの卵。そこから孵化したのは、全身を柔らかそうな毛に包まれた一匹の愛嬌のある生き物。手のひらでその毛を撫でればその柔らかさが堪能できそうな、その生き物は…鋸谷の方を見るや、キュウ、と可愛らしい声をあげ。鋸谷のその腕の中へと飛び込んできた。

 やはりとでもいったようなものか。その毛の手触りたるやとても柔らかく、気持ちのいい物。その生き物は、鋸谷の事を見上げるや…もう一度"キュウ♪"と鳴く。…同時に、心の奥底から何かが芽生えるのを…鋸谷は感じ取った。


――…これは、この生き物をこれから育てていこう、という…覚悟…?


 いきなり芽生えたそれに戸惑う鋸谷。その折、口髭の特徴的な男と白髪交じりの男が二人してあのログハウスのような家のある方向から歩いてくる。


「どうかなされたかな?…ほう。そのサイエンスクリーチャーは…」


「…はい、卵から孵化させた生き物です。…この生き物も、サイエンスクリーチャーなのですか?」


 自分の腕の中で、ウルウルとその円らな瞳を自分へとむけている無垢な生き物。その生き物の事を尋ねる鋸谷に。口髭の特徴的な男が無言で首を縦に振り…答える。


「ああ。その生き物もまた、サイエンスクリーチャーの一種だ。…最も力が弱く、幼い形態の生き物のうちの一種。だからこそもっとも戦いに向いていない生き物だともいえる。お前は…この形態から、サイエンスクリーチャーという生き物を育てていくこととなる。…お前には、その覚悟があるか?」


 口髭の特徴的な男から、自分の覚悟を問われる鋸谷。…しかして鋸谷の答えは…このフワフワの気が特徴的な生き物を腕に抱えてから決まっていたようなものだった。


「…はい。どんな育ち方になったとしても、覚悟はあります。」


 本心から、鋸谷はそう言ってのける。…その鋸谷の目を、口髭の特徴的な男は見つめ続けた。

 ただただまっすぐに。鋸谷の目を…その瞳を、見続ける男。…やがてその男は、再び鋸谷に問いを投げかける。


「…お前。疑いようのない、澄んだ瞳をしているな。…今までに、育てた者達を裏切る様な真似をしたことはないか?」


「あ、はい。ありません。…これだけは、言いきれます。」


「………よろしい。俺と父はお前の事を認めてやろう。…俺はヒロミチ。…先ほどお前の事を認めて勝手に卵を授けたのが俺の父、シゲオだ。…俺と父は、二人でこのサイエンタワールドという世界を見守り続けている。…時折、悪しき心を持ったサイエンスクリーチャーたちの事もなだめすかしながらな。」


 改めて、このサイエンタワールドの事について鋸谷に教えていくヒロミチ。…様々な事を聞いたのち。その最後に…口髭の特徴的な男、ヒロミチが問いを投げかける。


「…して、男よ。…名前は、何と言った?」


「あ、はい。僕の名は、鋸谷竜平。…かつては日本という国の山間の高校に通っていた高校生です。」


「鋸谷…。うむ。その名前、しかと覚えたぞ。…改めて、この世界をよろしく頼む。…鋸谷。」


 自分の前に差し出される男の手。…その手に戸惑いつつも、鋸谷はもう片方の手を差し出し。ヒロミチと握手を交わした。

 そのヒロミチと別れた後。早速本を読み漁る鋸谷竜平。…彼自身としては、人肌に温めた牛乳をあの生き物に与えたいところだったが、安易な考えで大変なことになってしまっては一大事だ、と思い。本を読み漁っていたのである。…その本によれば、サイエンスクリーチャーという生き物達は最初、人間の間でのお菓子に似た食べ物をあげればよい、と言う事であった。


――人のお菓子を与えろ、と?…生き物達に…?


 疑問符が浮かび上がる鋸谷。…無理もなかった。一般的に人間の食べ物は、他の生き物達の体にはよくない、と言われてきていたのだから。…だというのに、その本には…そう書かれていたのである。

 鋸谷は、ふわふわの毛に包まれた生き物の方を見た。…本当に大丈夫なのか。そんな考えが、鋸谷の頭によぎっていく。…だが、物は試しだ。


――迷ってばかりでは、この生き物はいつしか死に至ってしまうだろう。…そんなことが起こらないためにも。餌は与えなければいけない。


 倉庫に置かれていた冷蔵庫から、おいしそうなクッキーを取り出す鋸谷。…そのクッキーは焼き色もよく、いかに上手な人が作っていたかが伝わってくる。…そのクッキーを、鋸谷は生き物に与えてみた。

 その生き物がクッキーを可愛らしい口でかじり、咀嚼する。バリバリバリ、と音を立てて食べるさまは、どこかおいしそうにも見えた。

 騙されたと思って、再びクッキーを差し出す鋸谷。…すると、その生き物は再びそのクッキーにかじりついた。


「…大丈夫、なの?」


 ふと、鋸谷の中に涌いた疑問。それを素直にその幼いサイエンスクリーチャーにぶつけてみると。その生き物は嬉しそうな声音で"キュウ♪"と答えて見せた。

 異常も何も見られない。その生き物の様子を見て、胸をなでおろす鋸谷。…そう、この時はまだ…慣れない生き物の世話に、鋸谷は振り回されるばかりだったのである。

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堕落し行く科学の獣を止めるは一人の少年 鹿方剛助 @co_dabo

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