第2話~少年は受け取った卵を世話する~

 白髪交じりの男から預かった一つの卵。…なんともどぎつい模様をしたその卵を預かり、口髭の男から指定された場所で…鋸谷はその卵を温めることとした。

 口髭の男からこれまた預かっていた育成の本。…その本によれば、40度後半くらいの温度で温めれば上手く孵化することができるとのこと。…それを実行させるためにも、鋸谷は孵化させるための道具を一通りそろえ…そのうちの温度を保つための道具の一式で、卵を温め始めた。


――あの情報が本当なら、これでうまく行ってくれるはず。…せめて残念な結果にはならないでほしい。


 孵化できないままに、死んでしまう。そのような結果にはならないでくれ、と願う鋸谷。…そんな彼の元に、口髭の特徴的な男が食事を持って現れた。

 焼いた鶏肉にスコッチエッグ。付け合わせの葉物野菜に、ゆで野菜。それらを見て、鋸谷はあっけにとられるが…それに対して、その口ひげの特徴的な男はこう言葉を返す。


「…サイエンスクリーチャーの事を守るとか宣うやつに少なからず不信感があるということは否めない。…なぜなら、この世界は今まで悪に心を染めたサイエンスクリーチャー以外からの襲撃を受けたことが今までなかったものだからな。」


「…僕からも、その事は伝わってきます。…周りを見ていても、本当に自然がいっぱいで…のどかな場所なんだなって。」


「自然がいっぱい?…はははっ、お前は本当に、面白い事を言うやつだな。…このサイエンタワールドという世界は、こうして自然が広がっているようには見えるが…ところどころに人間が遺していった物だとされるものも点在している。…例えば、あれを見てくれ。」


 口髭の男が指さす先。そこにあったのは地面に下の部分が埋もれたような形の踏切の警報機。その警報機を見て、鋸谷は首をかしげる。


「あの警報機は、一体…。」


「なぜこの世界にあのようなものがあるのかは、俺達でもわかっていない。歴史をさかのぼっても、サイエンスクリーチャー同士が戦っていたことと、サイエンスクリーチャーが新たな形態になったことくらいしかわかっていないんだ。…ああいう風に、この世界には…自然に作られたとは思えないようなものがそこかしこにある。…だからこそ、自然だけだと思っていてはいけない。」


「…わかりました。」


 口髭の特徴的な男からの言葉に、そう答えるしかない鋸谷。…しかしてこのサイエンタワールドという場所は、人工物としか思えないようなものが打ち捨てられている事を覗けば…そのほとんどが自然そのもので。空も澄み渡り、見渡す限りの平原も…外国の光景だと言われても疑いようのないようなものだった。


――自然を破壊しようとする者達がこの世界を占領しようとするならばわかる。…だけど。あの神を名乗る男の人から聞く限りでは…ミスラウ軍という組織の目的はそのようなものではなく。いわれのない罪を被せてサイエンスクリーチャー達を酷い目に遭わせることが目的だとしか思えなかった。…サイエンスクリーチャーという生き物達も、他の種族を何の理由もなしに襲うような生き物達じゃあない。


 神と名乗った男の言葉を思い返す鋸谷。せっかく男が持ってきた料理を冷めないうちに食べようと思い、鋸谷は料理の置かれた机へと向かい…その料理に口をつけ始めていった。

 食べ進め行く鋸谷。それを完食し。白髪交じりの男がすむ家の方へと向かって行く。


「あの、お食事食べ終わりました。おいしかったです。」


「ああ、わざわざすまないな。そのシンクの所に置いといておくれ。」


 ソファのような物に腰を掛けたままの白髪交じりの男に声をかける鋸谷。…すると、その白髪交じりの男はそう言葉を返してきたがために。その通りに鋸谷は食器などを置いていく。…そのシンクは水垢などは残っているものの、放っている食器などはなく…そこそこきれいであることが見て取れる。

 そこそこ整えられたキッチン。それを見た後に…鋸谷は再び、卵を孵化させている場所へと向かって行く。その道中で、彼はハチのような姿をした生き物と出会った。


『よう!お前がここに新しく来た人間か?俺はワースファンっていうサイエンスクリーチャーだ!…しつこいと尻の針で刺すぜ?』


「あ、ああ…よろしく…。僕の名前は鋸谷竜平。…気が付いたら、この世界にいたんだ。…よろしくね。」


『おう!』


 ハチのような姿をしたサイエンスクリーチャー…ワースファンと名乗るその生き物と別れた鋸谷。…そのあとに彼は卵を温める場所へとたどり着く。…しかして、卵はいまだに孵っていなかった。


――そう早くは孵ってはいないか。…とりあえず明日まで様子を見てみよう。


 明日まで様子を見る。そう決めた鋸谷はその卵の近くで我慢強く経過を見ることとした。…そして、その夜。…卵に変化が現れる。…少しずつ揺れ始めたのである。


――これは、孵化の前兆…?


 揺れ動く卵。その卵を鋸谷が注視し行く中。やがて卵が割れ…中から一匹の生き物が生まれた。

 その生き物の見た目は、全身を柔らかそうな毛でおおわれた丸みのある愛らしい生き物。…この時から、鋸谷とその愛らしい生き物との運命は始まっていた。

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