#5 偽装
ふたりはハッとして肩を跳ねさせた。
ウォルスは椅子の上で体を捻り、片足を引き寄せながら剣の柄に手をかける。アルリは腰の鞄に指を滑らせ、いつでも魔導書を引き抜ける位置に手を添えた。
それを見て、老婆は腹の底から楽しそうに笑う。
「何も取って食おうってワケじゃないさ。誰か来ても──黙っててあげるよ」
そう言いながら、テーブルに手をついてゆっくりと立ち上がる。小さな体で、まっすぐふたりの方へ向き直った。
「噂には聞いてるよ。このあたりに元気な双子がいるってね。今日も遊んできたのかい?」
からかうような言葉なのに、そこにはとげがない。責めるでも、咎めるでもなく、ただ様子をうかがうような優しい目だった。
ふたりがまだ警戒を解かないのを見て、老婆はふっと息を漏らすように笑う。
「……こんな時間だ、お腹空いたろう。ご飯、食べていくかい?」
そう言うと、台所の鍋の前に歩いていき、手慣れた様子で蓋を持ち上げた。ふわり、と湯気といっしょに、濃いシチューの匂いが部屋に広がる。
鍋の中には、ひとり暮らしの家にしては多すぎる量のシチュー。その脇の台には、焼き目のついたアップルパイが丸ごと乗っている。どちらも、とてもじゃないがひとり分には見えなかった。
ふたりはなおも身構えたままだったが、老婆は一向に気にする様子はない。黙々と器を出し、シチューをよそい、パンを切り分けていく。
「悪ぃな、婆さん。こんな状況だ。呑気に飯を食えるような感じじゃ───」
言い終える前に、場違いなほど間の抜けた「ぐぅぅ……」という音が、静かな部屋に響いた。
ウォルスがぴくりと眉を動かし、隣を見る。アルリが、そっと顔を背けて真っ赤になっていた。
「……ごめん。今朝から何も食べてなかったから」
「……」
ウォルスは言葉を失う。その前で、老婆がくすりと笑った。
シチューの入った皿を、ふたりの前にそっと差し出す。
「元気があっていいじゃないか。ほれ、お食べ」
湯気の向こうで、スプーンがかすかに光った。
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双哭 @amane_u
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