#4 灯

 広い部屋に入った。どうやら居間らしい。

 暗闇の中に、簡素な台所と低いテーブル。椅子が何脚か、規則正しく並んでいる。壁際の戸棚には、瓶や包みがいくつも詰め込まれていた。


「薬、あるといいけど……」


 小さく呟いて、アルリは戸棚へと歩み寄る。靴音を殺し、そっと取っ手に手をかけ──できるだけ音を立てないように扉を引いた。


 ……ぎ、と。

 思ったより古びていたのか、木がこすれる甲高い音が、静かな部屋に響いてしまう。


 しまった、とアルリが舌打ちしかけた、そのとき。


「───おやおや、お客さんかい?」


 椅子の方から、しわがれた女の声がした。

 驚いて振り向くふたり。暗闇の中、安楽椅子らしき影に、人ひとり分の気配がある。


 カチ、と何かをひねる音。次の瞬間、ランプに火が灯り、小さな炎が部屋を照らした。

 明かりの輪の中に現れたのは、一人の老婆だった。細い肩を毛布で包み、安楽椅子に深く腰掛けたまま、柔らかな眼差しでこちらを見ている。


「おや、見ない顔だね───こんな夜更けに、どうしたんだい?」


 老婆はランプの灯をもうひとつ増やし、暖炉にも薪をくべた。ぱちぱちと火が弾け、さっきまで冷えていた室内に、じんわりとした暖かさが広がっていく。


「……遅くにごめんなさい。でも、兄が怪我をしていて……薬か包帯を分けて欲しいの」


 アルリが頭を下げると、老婆は「おやおや、それは大変だったねぇ」と言った。

 責めるでもなく、笑うでもなく。ただ本当に「大変だったね」と言うような声だった。


 老婆は立ち上がり、ウォルスのところまでゆっくり歩み寄ると、ぐい、と片腕を貸して椅子に座らせた。先ほどアルリが開けようとした戸棚を、今度は自分で開け、古びた薬箱を取り出す。


 震えのある指先。けれど、その手つきは不思議と慣れていた。傷口を確かめ、布を外し、薬草の匂いのする軟膏を塗り、きれいな包帯を巻き直す。


「……悪ぃな、バアさん」


 ウォルスがぼそりと呟くと、老婆は「いいのいいの」と笑った。


「こんなところまで来るってことは、きっと訳ありなんだろうさ」


 最後に包帯の端をきゅっと留めてから、老婆はふたりの顔を順番に見た。炎に照らされたその瞳は、どこか全部お見通しのように穏やかだ。


「……こんなもんだろう。随分とやんちゃをしたんだねぇ───"双子の盗賊"さん?」

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