#2 スラム

 翌日、スラムの一角。

 昼だというのに薄暗い路地裏。洗濯物と盗品とが同じロープにぶら下がる、いつもの光景の奥。粗末な木の扉に「何でも買い取り」とだけ書かれた、小さな店があった。

 そのカウンターの上に、どさり、と昨夜の財宝が積み上がる。


「おっちゃん、また頼むわ」


 ウォルスが言うと、業者のゴイルは金歯をきらりと光らせ、手慣れた様子で袋の口を開けた。


「……おおっと。こりゃまた派手にやったなぁ」


 金貨がじゃらじゃらと鳴り、宝石が机の上を転がる。ゴイルはひとつの指輪を摘まんで、光に透かしてニヤリと笑った。


「みんな噂してたぜ。”また双子が暴れたぞ”ってな」


 アルリはカウンターに肘をつき、そっけなく言う。


「お金はいつも通り。アンタの分と、残りはみんなに配ってあげて」


「はいはい……まったくよ」


 帳面に数字を書き込みながら、ゴイルは肩をすくめた。


「ったく、とんだお人好しだよなぁ?今までの金集めりゃ、すぐにでも国を出て、それなりの屋敷が買えたはずだぜ?」


 ウォルスは鼻で笑い、肩に背負ったままの剣を軽く叩いた。


「いらねーよ。オレ達は暴れられりゃいいんだよ」


「そういうこと。こっちの方が性に合ってるの」


 アルリも淡々と続ける。


「はぁ……物好きなガキどもだ」


 そう悪態をつきながらも、ゴイルの声にはどこか嬉しそうな響きが混じっていた。当面の生活ができる程度の小袋だけを受け取り、双子は店をあとにする。


 扉を押し開けると、いつものスラムの通り。干からびた野菜を売る露店、道端に座り込む老婆、怪しい薬を売る行商人。そんな人々の中に、ふたりの姿を見つけた誰かが、ぱっと顔を輝かせた。


「よう、聞いたぜ。ヴァレンハイムの屋敷をやったんだって?」


 盗賊崩れの若者が声を上げる。すぐさま周囲からも顔が集まる。


「お前らすげぇよな。あそこ警備が厚くてよ、こないだ西の方の盗賊団がみんな捕まっちまってたんだぜ」


「それをたったふたりでやっちまうなんてなぁ……」


 称賛まじりの視線を浴びて、双子の口元が同時に緩む。


「それ、何かの間違いじゃない? あいつら、途中からヒィヒィ言いながら逃げ回ってたけど」


 アルリが肩をすくめると、ウォルスが「へへっ」と笑った。


「オレたちに盗れねぇモンはねぇよ」


 その一言に、周囲から歓声と笑い声が上がる。


「さすがアスタリエ兄妹だ」「今度はどこブッ壊すんだ?」


 血と飢えが日常のスラム街。強盗や殺しの話題が飛び交うこの場所で──そのひとときだけは、ただの”武勇伝”と”笑い話”に変わっていく。


 汚れた石畳の上に、ささやかな、けれど確かに穏やかな時間が流れていた。

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