第5話 GPSを舐めるな
「……失礼するよ、妹が世話になっているようで」
悠介の部屋のチャイムが再び鳴った。そこに立っていたのは、サングラスを外し、射抜くような鋭い視線を向けた大輔だった。
超人気声優・水樹レイナのマネージャーにして実兄。業界では「鉄壁の守護神」と恐れられる男が、今、平凡な会社員のワンルームに君臨している。
「お、お兄ちゃん……どうしてここが」
「GPSを甘く見るなと言っただろう。それより……」
大輔の視線が、テーブルの上の「親子丼」に注がれる。
「……ほう。これを君が?」
「は、はい。佐藤悠介と申します。その、レイナさんがお腹を空かせていたので……」
悠介は生きた心地がしなかった。誘拐犯、あるいはストーカー。どんな罵詈雑言を浴びせられるか。
しかし、大輔は一歩踏み出すと、悠介が差し出した予備の椅子にドカッと座った。
「食わせろ。お前が妹に毒を盛るような男か、味で判断してやる」
(味で!?)
悠介は震える手で、もう一杯の親子丼を用意した。レイナは横で「お兄ちゃん、失礼だよ!」とオロオロしている。
大輔は一口、無言で食べた。……二口、三口。
静寂が部屋を支配する。つくねだけが、大輔の足元で暢気に毛繕いをしている。
「……合格だ」
「えっ?」
「出汁の取り方が丁寧だ。派手さはないが、毎日食べても飽きない。……お前、いいやつだな」
まさかの「メシ落ち」だった。大輔は極度の仕事人間で、まともな食事に飢えていたのだ。
彼はサングラスをかけ直すと、どこか寂しげに言った。
「レイナは不器用だ。男嫌いだし、友達もいない。そんなあいつが、夜中にこっそり家を抜け出してまで会いに来る相手がどんな悪党かと思ったが……」
大輔は悠介の肩をガシッと掴んだ。
「妹を頼む、佐藤。あいつが笑える場所を、仕事以外でも作ってやってくれ」
「お兄ちゃん! もう、変なこと言わないでよ!」
顔を真っ赤にするレイナ。大輔はつくねをひょいと抱き上げると、レイナの首根っこを掴んで出口へ向かった。
「今日は帰るぞ。明日も朝4時起きだ」
「ああっ、つくねちゃん! 佐藤さん、また明日! 明日もベランダで!」
嵐のように去っていった兄妹。
一人残された部屋で、悠介は深く、深く息を吐いた。
「……また明日、か」
「ファン」から「公認(?)の隣人」へ。
障害が一つ減ったかのように見えたが、悠介はまだ気づいていなかった。
大輔が去り際に残した「明日からは、例のラブコメアニメのアフレコが始まるからな」という言葉の意味を。
明日、レイナは仕事で、別の「イケメン声優」と恋に落ちる演技をしなければならないのだ。
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