第4話 救世主とのつながり

「お邪魔します……えへへ、来ちゃいました」

翌日の夜。悠介の部屋のチャイムを鳴らしたのは、帽子を深く被ったレイナだった。腕には、昨夜の「救世主」であるつくねを抱いている。

昨日のクローゼット事件を経て、二人の間には変な緊張感が漂っていた。しかし、つくねを返すという正当な理由(と、レイナの猛烈な勇気)が、彼女を悠介の玄関まで運んできたのだ。

「どうぞ……。狭いし、男の一人暮らしで散らかってますけど」

「いえ! 佐藤さんの匂いが……あ、じゃなくて! 猫の匂いがして、落ち着きます!」

(今、俺の匂いって言おうとした……?)

悠介の心臓がまた跳ねる。

レイナはリビングに入ると、興味津々で部屋を見渡した。壁に飾られたアニメのポスターや、棚に並んだフィギュアを見て、彼女の目が輝く。

「あ、これ! 私が初めて主役をやった作品の……! 買ってくださってたんですか?」

「えっ、あ、はい。……実は、ずっとファンで」

ついに告白してしまった。隣人としてではなく、一人のファンであることを。

レイナは一瞬きょとんとした後、顔を真っ赤にして、つくねで顔を隠した。

「……嬉しい。私、佐藤さんにそう言ってもらえるのが、今までで一番嬉しいです」

そんな甘い空気の中、レイナの小さなお腹が「ぐぅ〜……」と鳴った。

「…………あっ」

「…………あ」

沈黙。レイナは今日、兄(マネージャー)の目を盗んで、夕飯を食べずに逃げ出してきたのだ。

「あの、もし良ければ……何か作りましょうか? 冷蔵庫にあるもので良ければですけど」

「えっ! 佐藤さん、お料理できるんですか?」

「自炊は一通り。……あ、でも、推しに手料理なんておこがましいですよね」

「食べたいです!!」

食い気味に返事をしたレイナに押され、悠介はキッチンに立つ。

メニューは、冷蔵庫に残っていた鶏肉と卵で作る、シンプルな「親子丼」だ。

トントントン、と軽快な包丁の音が響く。

ふと横を見ると、レイナがすぐ隣に立って、真剣な眼差しで悠介の手元を見つめていた。

「すごい……。佐藤さんの背中、お父さんみたいで安心します」

「お父さん!? せめてお兄さんとかにしてほしいです……」

「ふふっ。冗談ですよ。……なんだか、本当の夫婦みたいだなって思っちゃって」

レイナはサラリと、とんでもない爆弾発言を投下した。

本人は無意識なのか、それとも確信犯なのか。彼女の瞳はまっすぐ悠介を見つめている。

「できました。……はい、どうぞ」

「わあぁ、美味しそう! いただきます!」

レイナが一口食べ、その表情がとろけるように緩む。

「美味しい……! 私、世界で一番この親子丼が好きかもしれません!」

その笑顔を見た瞬間、悠介は確信した。この人を、この笑顔を、一生守っていきたいと。

しかし、幸せな夕食の時間は長くは続かない。

レイナのスマホが激しくバイブ音を立てた。画面には『魔王(兄)』の文字。

「……あ。お兄ちゃんから、GPSで居場所がバレたってメッセージが……」

窓の外を見ると、マンションの下に一台の黒い送迎車が止まっているのが見えた。


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