第2話 秘密の関係、ピンチ
つくねが繋いでくれた、奇跡のベランダ対面から三日。
佐藤悠介は、仕事中も心ここにあらずだった。
(……昨日のあれは、夢じゃないよな?)
スマホの通知を見る。そこには、SNSの公式アカウントではなく、本物の「水樹レイナ」の個人アカウントが並んでいた。猫の相談用にと交換した、本物の連絡先だ。
『佐藤さん、お疲れ様です! つくねちゃん、今日は何のご飯を食べましたか?』
そんな何気ない一言に、心臓が爆ぜそうになる。
彼女は今や、アニメの主役を何本も抱えるトップスターだ。そんな彼女が、自分のような平凡な会社員に、絵文字付きのメッセージを送ってくれている。
だが、悠介は知らない。
隣の部屋で、レイナが「……あぁぁぁぁ! 送っちゃった! 重くないかな? 迷惑じゃないかな!?」と、クッションに顔を埋めてのたうち回っていることを。
実は彼女、極度の「男性恐怖症」ならぬ「男性緊張症」だった。
仕事では完璧な演技ができるのに、プライベートで異性と話そうとすると、台本がないと何を話していいか分からなくなる。そんな彼女にとって、つくね(猫)という共通の話題がある悠介は、人生で初めて「普通に話したい」と思えた男性だったのだ。
その日の夜。
「……にゃあ」
「あ、つくね! またベランダに出たのか?」
つくねがベランダの隙間から隣へ行こうとするのを止めようと、悠介が窓を開けた瞬間。
「あ……こんばんは、佐藤さん」
そこには、またしてもレイナがいた。
今日は仕事帰りなのか、少し大人っぽいワンピース姿。手にはコンビニの袋を持っている。
「あの……もしよければ、これ。猫の雑誌を買ってみたんですけど……一緒に見ませんか?」
勇気を振り絞った彼女の誘い。
だが、超人気声優を独身男性の部屋に招くわけにはいかない。
「え、ええと……ここで(ベランダで)良ければ!」
「はい! ぜひ!」
こうして、夜のベランダ、仕切り越しに二人は座り込んだ。
雑誌を広げ、「この猫の種類が可愛い」「つくねの方が可愛い」なんて他愛もない会話をする。
「私……仕事以外で、こんなに誰かと笑うの、久しぶりかもしれません」
ふと、レイナが寂しげに、でも嬉しそうに呟いた。
その横顔があまりにも綺麗で、悠介は言葉を失う。
しかし、そんな甘い空気は一瞬で吹き飛んだ。
「おーい、レイナ! 開いてるかー?」
廊下から聞こえてきたのは、聞き覚えのある男の声。
レイナのマネージャーであり、実は彼女の兄でもある「水樹大輔」が、合鍵で入ってこようとする音だった。
「ひっ……!? お、お兄ちゃん!?」
「えっ、お兄さん!?」
二人の秘密の時間が、早くも最大のピンチを迎える。
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