ベランダ越しの恋

ほわるん

第1部 第1話 運命の糸は、もふもふの形をしていた

「……終わった」

 都内のIT企業に勤める佐藤悠介は、深夜2時、自室のソファに崩れ落ちた。

 唯一の癒やしは、膝に乗ってきた愛猫の「つくね」だ。

「つくね、お前だけが俺の味方だよ……」

 悠介は、このマンションの隣の住人が、今をときめく超人気声優・水樹みずきレイナであることを知っている。だが、接点はゼロ。壁一枚を隔てた向こう側は、銀河の果てより遠い。

 しかし翌朝、事件は起きた。

「にゃ〜ん」

「……え?」

 ベランダから聞き慣れた声がする。慌ててカーテンを開けると、そこには。

「あ、あの! すみません、お隣の方ですか!?」

 そこには、テレビや雑誌で見るよりも100倍可愛い、寝癖だらけでパジャマ姿の「推し」が、つくねを抱っこしてベランダの仕切り越しに立っていた。

「この子が、うちのベランダにはいってきちゃって……。あの、もしかして、飼い主さんですか?」

 悠介の脳内が真っ白になる。

「あ、あ、ああ、はい! そうです、うちの猫です!」

「よかったぁ〜。すっごく懐っこい子ですね。私の膝でゴロゴロ言っちゃって……」

 レイナは、つくねを愛おしそうに撫で、ふにゃりと笑った。その笑顔の破壊力は、昨晩の徹夜作業でボロボロになった悠介の精神を一瞬で浄化する。

「……あ、あの。お礼と言ってはなんですけど、これ……」

 悠介は反射的に、昨日買っておいた高級な猫用おやつを差し出した。

「わあ、いいんですか? ……あ、そうだ! 私、猫の飼い方について、いろいろ聞きたいことがあるんです。実は最近、猫を飼いたいなって思ってて……」

 こうして、超人気声優と冴えない会社員の「猫を通じた秘密の交流」が始まった。

 だが、悠介はまだ知らない。

 水樹レイナが、実は重度の「コミュ障」で、猫と話す練習をしてからようやく彼に話しかけたということを。

(……やばい、かっこいい。お隣さん、清潔感あるし、猫に優しいし。どうしよう、心臓が止まる……!)

 ベランダの壁の向こうで、レイナが真っ赤な顔をして座り込んでいることも、悠介はまだ知らない。



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