解答2
26 27 28 29 31 42 44 45 46 58 59 60 61 63
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「換字式暗号についてはさっき説明したね? この星野小春の暗号も川原十六夜の暗号と同じように換字式暗号である事は変わらない。けど、こっちは二段階だ」
「二段階?」
「そう。この暗号はまず、この数字の羅列を別の数字の羅列に変換するところから始めなくちゃいけない――だからまずは、この数字たちの進数表記を変えなくちゃいけない。君、さすがにN進法は知ってるね?」
矢庭に水を向けられて戸惑いつつも頷いた。
「それはよかった。二進数が学習指導要領から削除されてしまったからね、万一知らない可能性もあると思ったのさ――N進法というのは、つまり数字を最大N種類の記号で表す方法だ。二進法だったら0と1の二つの数字、十進法だったら0から9の十個の数字を使って……と言った具合にね」
私は小春ちゃんの書いた手紙を見る。
……。
改めて見ると、異様な手紙だな。
「この数字の進数表記を変える……」
「数字の暗号を解読しようと思ったら、まずは進数表記を変えてみるのが暗号フリークの世界での常識でね。ただ、そこには問題がある。つまり、Nはなんぞや、という問題がね。二進法かもしれないし、五進法かもしれないし、七進法かもしれない――そこで役に立つのがこれだ」
と、石椛先輩は手紙の末尾を指さした。『十六夜くんへ』と宛名が書かれている。
「どうして星野小春は『川原さん』を『十六夜くん』と表記したのか。それはとりもなおさず、この宛名そのものが暗号を解読するヒントであることを示している」
「……つまり、どういうことだってばよ」
「十六進数さ」
石椛先輩のそのセリフは、雰囲気的にはカットインが入りそうな言い方だったが、生憎私にはまだしっくりときていなかった。
「……あまりピンときてない様子だね」
せっかくカッコつけたのに決まらなかったのが悔しいのだろう、石椛先輩の声には豊潤な湿度を孕んでいた。
鈍くてごめんなさい。これがお詫びのテヘペロです。
「ウザいから舌をしまいなよ」
石椛先輩は白い眼を向けてくる。
「ウザいですと! 数多の男子たちが恋い慕い、届かず破れていった私のこの魅惑の舌が、ウザいですと!」
「ウザいのは君自体だ――十六進法っていうのはね、だから、十六個の記号で数字を表す方法なんだ。9までの数え方は僕たちが普段使っている十進法と同じで、10はA、11はB、という風にアルファベットを使って表記していく。で、15がFで、16を10と表記するわけだ。理解できたかな?」
「はい。バッチグーです。もっとサクサク進めていいですよ。こう見えて私、結構頭は良いので」
「面白い冗談だ――君、ちょっと紙とペンを貸してくれるかい?」
全く冗談を言ったつもりはなかったのだけど、抗議しても藪蛇だと思ったので、大人しく石椛先輩の指示に従った。鞄の中から数学のノートと筆箱を取り出して、机の上に置く。筆箱からモンブランのシャーペンを取り出して手渡すと、彼は物珍しそうにそれを見たあと、ノートを開いた。
「ふうん。綺麗な字じゃないか」
「書道をやっていたので」
「いいね。初めて君に好感を抱いた」
「またまたー」
ちょんちょんと石椛先輩をつついてみたところ、結構強めに手を払われた。かなり本気で嫌がられてて泣ける。
石椛先輩は開いているページを開くと、その横に暗号の書かれた手紙を置いた。
「この暗号文は、十六進法に直すとこうなる」
1A 1B 1C 1D 1F 2A 2C 2D 2E 3A 3B 3C 3D 3F
「なんだかこれ……クラス表みたいですね。真ん中のハイフンが足りないけど」
ノートに起こした文字列を見て、私は思わず呟いた。すると、石椛先輩が感心したように目を見開く。
「良い勘してるじゃないか――そう、これはクラスを表現しているんだよ。1Aは1年A組を、3Fは3年F組を表しているわけだ」
「はあ……でも、この数字がクラスを表現しているとして、それがなんなんですか?」
「言ったろ? 二段階の換字式暗号だって――このクラスの羅列を再解読して平文に直すんだ」
石椛先輩がシャーペンをくるりと回す。
「そこで星野小春のヒントが重要になってくる」
「小春ちゃんのヒント?」
なんだっけ、それ。
「『特別棟に行くといいかも』と言われたんだろう……」
「ああ、そんなこと言われましたね」
呆れ返ったような表情をする石椛先輩。
そのジトっとした目つきに、思わずゾクっとしてしまう私がいる。蔑みの表情を向けられることが、癖になりつつあってヤバい。私ってもしかしてMなのかしら。でもそんな私も好き!
「でも、それって『石椛先輩を頼れ』って意味じゃ……」
「どうして自分が書いた手紙を、見ず知らずの先輩に見せることを勧めるんだ」
「……たしかに」
言われてみればおかしい。いやしかし、だとしたら『特別棟に行くといいかも』とは、どういった用向きの言葉だったのだろう。
その答えを、石椛先輩は親指で示した。
「星野小春はあれを見てほしかったのさ」
そう言って。
石椛先輩は右手の親指で教室の窓を示す。いや、窓の外だろうか。そこに見えるのは、中庭を挟んで特別棟の南に鎮座する真四角の校舎だった。
「校舎?」
「そう。校舎には各階七つずつの教室が配置されている。そして、それはここ特別棟から見ると、こういう風になる」
石椛先輩はノートに幾つかの四角を書いて見せた。
5F □□□□□□□
4F □□□□□□□
3F □□□□□□□
2F □□□□□□□
1F □□□□□□□
「一階は昇降口や職員室で、五階は特別教室だ。1年の教室は二階で2年は三階、3年は四階。左からA、B、Cと教室が並んで、空き教室を一つ挟んで、D、E、Fと教室が続いている」
「はい、そうですね」
私は1年B組なので、二階の左から二番目の教室だ。
「そして、さっきの暗号に記された教室をそれぞれ塗り潰すとこうなる」
シャーペンを使って色塗りするように、石椛先輩はいくつかの四角を塗り潰した。
5F □□□□□□□
4F ■■■□■□■
3F ■□■□■■□
2F ■■■□■□■
1F □□□□□□□
そこに浮かび上がってきた文字を、私は無意識に読み上げる。
「O……K……?」
「『すきです つきあってください』に対しての『OK』ということだろうね――くだらない返事だよ、まったく。暗号の発想は悪くないだけにもったいない。この暗号の方式なら、『NO』を作ることだってできただろうに。星野小春という女は、頭は良くても洒落は解さないようだね」
めちゃくちゃなことを言いながら、石椛先輩はシャーペンを放る……あの、そのシャーペン、高級品なんであんま雑に扱わないでください。
私が転がるシャーペンを筆箱にしまっている間に、石椛先輩は大きく伸びをして、それから机に突っ伏してしまった。
眠られてしまう前に、私は慌てて彼を褒めそやす。
「いや、それにしてもすごいですね。噂に違わぬ実力です。文字通り、快刀乱麻の解決でした」
「快刀を
私にお礼を言わせる前に、名探偵は眠りに落ちてしまった。
往復する暗号ラブレター 妹山あおい @sirogusu
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